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C5-5 忍び寄る者


 安心してください。


 増えません。


 ───事が起きたのは、その日の深夜であった。



 昼も日中の往来にて、うら若き少女を拐かさんとした、むくつけき男の二人組。

 手口その他から初犯とも思えず、既に出ているかもしれない被害者の確認をする為にもと、気を失ったままの彼らが運ばれたのは警備兵の詰所、に備えられた簡素な牢屋。


 目を覚ませば待っているのは、屈強な国境警備兵による『尋問()』であろう。

 そんな未来を知ってか知らずか、束の間の夢を堪能する彼らの元へと……()()()()()が一つ。



 夜闇に紛れられるようにか、黒装束に身を包んだ眼光鋭き男が一人。

 警備兵達の目を掻い潜りつつ、されど確かな歩みで男達が放り込まれた牢へと近付き。


 やがて辿り着いた鉄格子の前には、実直に職務を全うしている不寝番の姿。

 暫し逡巡するように足を止めた彼に、その背後より交代の人間が向かってくる足音が迫る。


 偶然ではあれ、前後を塞がれてしまったのは、やはり焦りが故か。

 顔まで覆った黒頭巾から覗く目元を歪めつつも、鍛え上げてきた隠密の技を頼りに、ひとまずはやり過ごさんと壁に身を寄せて。




 ───そぉい。




「っ!?」


「何だ今の音───誰だお前は!!」

「そこで何をしている!!」



 明かり乏しき暗がりで、高らかに鳴り響いたは()()()


 斯くして、大胆にも警備兵の詰所なる場所へと忍び込んだ輩は急転直下、屈強なる警備兵二人に挟まれた状態で発見されるという、絶体絶命の状況に叩き込まれる運びとなるのでした。


 うっかりおとをたてちゃったんダネー、あせってしのびこんだりするからそうなるんダヨー。







《───こうして牢屋の住人が増えました。便宜上、以降は彼をCさんと呼ぶことにします》


「どうしよう、思ったより凶悪な嫌がらせしてた。……いえ、良い事なんですけども」



 その後、忍び込んだ目的をみっちりと『尋問』されますCさんです。

 しかしこれがなかなか据わった根性の持ち主。どれだけ『尋問()』されても黙秘を貫きます。


 警備兵さんにも色々仕事があるので、そればかりというわけにもいきません。夜も遅いですし。

 騒ぎに起きてきた方々も併せて溜息を吐きつつ、縛り上げたCさんを牢へと放り込むのでした。



 その振動が折れた足にでも響いたのか、ずうっと気絶していたAさん、ここで遂に起床です。

 ぱっちり開けた瞳に、倒れ込んだCさんの顔を映して、思わず一言。



「…………あれ? そんなとこで何してんですかい、兄貴?」





「え、それ……えぇー……?」

《その発言を聞いた警備兵の皆さん、一瞬でスンっと表情が消えましたよ》


「……でしょうね」


 これから隠れ家の一つも聞き出そうとしていた推定人攫いと、どんだけ『尋問()』しても口を割らなかった曲者が繋がっちゃったわけだからね。

 それじゃこっちの口を割らせようか、ってなるよね。その軽さもよぉく分かったわけだもんね。



《で、屈強な方々の獲物を見るような視線を一身に浴びたAさん。……即、ゲロりました》

「わぁ……」


《なおCさん。……涙目でした》

「……でしょうね」


 いやあ、あれは私も予想外よ。怖いのは有能な敵より無能な仲間、とはよく言ったもんよね。

 だからこそ慌てて督戦隊じみた人員を投入したんだとしたら、同情はしないし出来ないけど。



 さて、そうして無事(?)に人攫いの拠点的な場所の特定に至った警備兵の皆さん。

 単なるチンピラかと思いきや、けじめ付け(?)にやってきたCさんの存在から、こいつは割と組織的な犯罪なのではと相談し始めます。


 他にも町に潜伏中の仲間が居る可能性を考えれば、拠点襲撃に人員を離すのもよろしくない。

 ここは頭数の確保の為にも、冒険者に協力を要請するべきだろうとの結論が出されまして。




《てなわけで、多分明日にでもギルドに募集依頼が貼り出されるんじゃないかなと。どのぐらいの規模を想定するのかまでは、まだ分からんかったけどね》

「成程。ありがとうございます、レイン。……それで、例の杖については?」


《あー、ちょっと変わった杖、って認識に終わってる感じだね。その他の押収品と十把一絡げよ》

「…………でしょうねー」



 人攫いBさんが持っていた、まさかの『霊力』を発射する謎の黒杖。

 ……道理で避けられてポカンと驚いてたわけだよね。不可視の一手の筈だったんだもん。相手がユズちゃんじゃなければさ。


 元々、私が夜の詰所に忍び込み……忍んではないな。訂正。

 堂々とステン(Stand)バーイ(by)してた主目的は、あの謎アイテムの顛末を知る為だったわけだが、そちらについては割と空振り気味な現状である。


 ……そもそも『霊力』なんてモノ、その存在を認識してる人間自体が私達ぐらいしか居らんと思ってたのに、いきなりアレだもんね。いやあ、ビビったビビった。

 偶々そういう人間と巡り合う機会に恵まれてなかった、と言われたらそれまでだけどさ。



 私達でもなければ、その特異性が分かるはずもなく───私達にしても、それが使われる瞬間を見てなければ、風変わりな杖で終わったわけで───特に『尋問』の話題にも出ることは無いまま押収品として適当に保管されているのみときた。

 ……流石にAさんも聞かれてもないのに口にするほど迂闊では無かったよ。そらそうか。


 推定、組織におけるAさんBさんの立ち位置はともかく、彼らが捕まったと知るや否や、Cさんが派遣されてきたあたり相当ヤバイというか、秘匿したい一品ではあるんだろうけどね。彼ら的に。



 ……にしても迅速に過ぎる手配ではあるな。ひょっとして、あの二人をふん縛ったときに近くに居たんだろうか、Cさん。

 実は手のかかる舎弟達を助けようとしてた面倒見の良い兄貴分という可能性も? まあ、私らの知ったこっちゃないんだが。




「……既に居るだろう攫われた人達の救助と、その後の護送も想定するでしょうから結構な人数が集められることになりそうですね」

《ふむん。以前受けた、遺跡を根城にしてた盗賊団の討伐行を思い出すねえ》


「ああ、確かに。なので参加の意思を示せば加わることに苦労はしない、と思うんですけど……」

《……参加するの?》


「しない理由もないですから。それに……」

《それに?》




「もし……わたしと、()()()()()()人が居るんだとしたら……気になりますから」


《……そっか》




 ……A、B、Cの三名とも、私が見えていなかったことは間違いない。

 また放った一射を避けられたことは元より、その際に漏れた言葉が疑問形であったことからしてB氏当人には杖から出た球が不可視のソレだったのだろうことも窺える。


 素直に考えれば、彼らにあの杖を……()()()()()()()()()()()()、を渡した人物が居る筈で。

 作成者か、何処かから仕入れただけかは分からんけど、辿っていけばどこかに『視える人間』が存在している可能性は高い……と、私も思う。



 ……でも今回の場合、居たら居たで確実に犯罪の片棒担ぐ輩なんだよなあ。

 霊感体質と良識の有無に相関関係があるわけじゃなし、仕方ないと言えば仕方ないが……



 …………儘ならんねえ、現実って奴は。




《───よおし、そうと決まれば私の出番だ。んじゃ、一足先に拠点の偵察行ってくるねー》

「え…………い、今からですか? 幾ら何でも性急過ぎじゃ……」


《そりゃまあ場所も分かってるわけですし? それに、今現在攫われてる人間が居ないかどうか、早めに確認しない理由は無いでしょ?》

「それは、まあ……でも、大丈夫なんですか? もし、『視られた』ら……」


《ふむ? では『視える人』なユズちゃんに聞こうではないか。私と出会うより前の君は、例えば寝泊まりしている宿に幽霊が出たとして、さて何か怪しいとか思ったりしたかい?》

「…………あ」



 ふふ、気付いたかね? そう、『視える』なら『視える』ことこそが日常なのだよ。

 仮に昨日まで居なかった幽霊が視界に入ったところで、「あ、新しいのが居る」以上の感想など抱きようがあるまいて。


 そこから何かの気まぐれで話しかけてきてでもくれたなら、それはそれで上等だ。

 根っからの悪人か、はたまた何か理由があるのか。為人を確認するには言葉を交わすのが一番手っ取り早いからねー。



「で、でも……もし、成仏させようとでもされたら……」

《おやユズちゃんや。御札その他の対霊グッズが私自身には通用しないことを忘れたのかや?》


「……う」


 私の返しに、今度はちょっぴり気まずげに目を反らすユズちゃんです。

 これは図らずも先日のお返しになっちゃったかな? 心配してくれるのは嬉しいんだけどね。



《そもそも私は幽霊ではなく『幽霊(笑)(かっこわらい)』である! 幽霊の抱える弱点諸々など私が効かないと思っていれば効かないのだよ!》


「……ええ、はい、そうでしたね。遂に(笑)(かっこわらい)を自称に含めちゃったよ、この理不尽幽霊(笑)(かっこわらい)。心配するだけ損でしたねー。……はあ」



 思えば幽霊に成りたて(だと思っていた)の頃、効かなければ良いなあ、といった調子(ノリ)で色々と確かめておいたが怪我の功名、塞翁が馬。

 私に完結することなら殆ど無制限なマイ(My)ボディ(body)が作り上げたは、敵無しと書いて無敵の身体よ。


 日光に塩に銀に聖水、霊能力者(真)のお手製御札だってなんのその。

 そうさ私は『幽霊(のような何か)』。この世に存在する何某に道を阻まれる由など無ぁい!



 …………このぐらいの意気でいないと逆に弱点作っちゃうかもだからね、マイボディ。

 私にとって、無意識の域まで無敵感で満たすのは慢心どころか立派な保身の術なのだよ。




 さぁて、憂いを取っ払ったなら出発だ。

 第一目標、敵陣の把握。第二目標……居るかもしれない『霊能力者』との接触!



 鬼が出るか蛇が出るか……できれば、お近づきになれる人柄の持ち主だと良いんだけどねえ。



 受けた攻撃がダメージになり得るかは本人の匙加減、とかいうトンチキ具合。

 これぞ古今東西敵無し()のテンプレ主人公ですね(錯乱)。


 なお(メインキャラは)増やしませんし増えません(前書きより繰り返し)。

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