C3-4 迷える少年
こんな感じで合ってるのかなあ?(某〇ガ愛おじさん視聴民)
《―――だからね? 何でいつも私の第一印象は神様系なのか、というところについて一度議論をしておきたいと思う所存なのですよ》
「知りません。どうでも良いです」
ぐぬぬぅ、突っ込み鋭くなったねユズちゃん。あたしゃ嬉しいよ。
「そんなことより、この道で間違いないんですよね?」
《うん、人の足で行けそうなとこ選ぶとね。そこそこ遠回りなんだけど、しょうがないよね》
私先導のもと道なき道を進みつつも、その足取りに淀みは無く。
時折、手に握る細剣で邪魔になる草葉を刈りつつ彼女は進む。
その姿はさながら森ガール……は服装の話だっけか。何にせよ今日も頼もしい限りですなー。
「また調子の良い事を……でも確かにこれは、足を滑らせでもしたら大変ですね」
《せやねー》
この山林、結構起伏が激しくて傾斜がきついとこも多いもんねえ。
その上、向こうの世界みたいな登山道なんて整備されてないし、豊かに茂った木々の枝葉が空を覆い尽くしちゃってるもんで、よっぽど気を付けてないと方角もすぐに見失うことになるときた。
なるべく安全そうな場所選んでコレだからねー。
下手に距離を稼ごうと険しい道を選んで、気を抜きでもしたらどうなるかってねー。
《…………》
どうした少年、元気が無いぞ?
まだ逝くには早い、頑張るんだ。
「……それにしても、レイン? 本当に、本っ当にワザとじゃなかったんですよね?」
《そんな心外なぁ……私が彼に出会ったのと同時期に捜索依頼が出てたなんて知るわけないやん》
「それは、まあ……わたしが依頼を受けるタイミングを狙ってた、とかないですよね?」
《知ってたら狙ったよ。当然じゃん》
「…………一瞬、納得しそうになったじゃないですかっ。断言しないでください、そんなこと!」
―――真夜中の遊覧飛行を楽しんでいた私の前に、突如現れた少年幽霊(仮)。
彼が今の状態になった経緯……幽霊であるとする物証を求めて少しずつ、少ーしずつ探索範囲を広げつつ、採取地と街の間、その周辺の山道までを捜し回ること丸一晩。……結果はどうかって?
―――何の成果も!! 得られませ
「得たから案内してるんでしょうに。何言ってるんですか、レイン?」
あぁん、ボケ潰しはらめぇ。
…………ええ、まあ、見付けましたよ、彼の身体。一晩かけて、どーにか。
何でそんなに時間かかったかって、そりゃあれよ、先を越されてたんですよ。
崖と呼んでも良さそうな斜面に、おそらく自然に出来たと思われる洞穴。
其処を住処にしていた一体のモンスターに、意識の無い彼の身体は運び込まれていたのだ。
……道理で彼が通った道筋近辺を幾ら探し回っても見付からんかったわけだよ。
発見した少年の身体に、少なくとも私に分かる範囲で大きな外傷は無し。
お陰で血の匂いもなく、獣等を呼び寄せることはなかったのだと思われる。
その結果が二足歩行の豚こと『オーク』によるお持ち帰り、だったのは果たして幸か不幸か……
《…………》
というわけで、現在私達に憑いてきているラビ君、どうやら傷心中のようでございます。
まあ、今からモンスターに回収された自分の身体を迎えに行こうってんだから複雑だわな。
「……わたしも目にする機会が多少はあったので慣れはしてますけど、見たいとは思わないです。ましてやそれが自分の身体となると……」
《んー、まあ、私が確認したときはキレイだったよ?》
さて、そのオークがいったい何のために? と、いつも通り『私』の記憶に問い合わせた結果、エライ情報に辿り着いてしまいました。……『雑食系』なんだってさ、この世界のオーク。
さて、そんなのが少年の身体を己の住処に運搬する目的というと……ね?
……キレイな状態で良かったよマジで。私にグロ耐性は無いんだってばさ。
《しかし、さっきから静かだねラビ君。今なら時間もあるし多少の質問は受け付けるよ?》
《「喋るのがむずかしっ」……難しいんです》
ユズちゃんの口が動き、喉が動き、はっとした表情になって、すっと目が細められる。
……傍から見てると、何してんだこれ、だなあ。
はい、現在ラビ君【憑依】中でございます。誰にって、ユズちゃんしかいないわさ。
今朝私が顔合わせに連れてきた時点で、若干『型崩れ』が始まってたからねえ。
これを防ぐ、というか現状維持する確実な手段となると、まあこれしかないわけで。
「…………」
人助けとはいえ、やはり不快らしいユズちゃん。割と珍しく眉を寄せて不機嫌顔。
一瞬、手が懐の御札を取り出しかけて……息を吐きつつ引っ込めた。
《「あの、すみませっ」……すみません、ユズ、さん》
「…………いえ」
おーおー、謝罪もままならんね。頑張れ少年、私も通った道だ。
いや実際難しいのよ? 身体の使い分けというか……憑依した身体を動かさないようにしつつ、霊体の方で喋ったり動いたりするのって。
私も出来るようになるまで結構練習したし。
「……レインに比べれば、抵抗しようと思えば出来る分ましですけどね」
《うん、ごめん。あれはほんとごめん》
ラビ君と私とでは身体を動かされる時に感じる力が全く違うそうです。私には分からんけども。
昔悩まされた悪霊に比べれば必死さが無いためかだいぶ控えめなので、彼女が気を張ってる限り彼は指一本動かせないようです。
……でも険しい山道を進んでる以上、ずっとそっちに気を張ってるわけにもいかないのがねー。
「……そういえば、ラビさん」
《は、はい、何でしょうか?》
「わたしにまで敬語を使わなくても……まあそれはともかく。わたしは行方不明になったあなたの捜索依頼を受けてここに来ているのですけど―――」
ちら、とユズちゃんがこちらに視線を向けた。
……はて、これはどういう意図かしらん?
「―――依頼が出されるのが異様に早い、というより、過剰なくらいにあなたの身を案じる女性がいたのですが、心当たりはありますか?」
おおう、何だいその情報。……しかし言われてみれば、最底辺にしろ冒険者を名乗るラビ君に、たった一晩帰らなかっただけで捜索依頼ってのは確かに過剰反応だな。
それだけの感情を発露する女性―――ああ、成程。さっきの目配せはそういうアレか。
しかし私にそんな話題振られても。
確かにそーいうお年頃の乙女ではあったけど、そういう方面にはあんま造詣深くはないぞ。
周囲の女子グループがそういう話でキャイキャイ盛り上がってるのを、離れたとこからぼーっと眺める立ち位置でしたんで。
……あー、そういえばあっちの友人達って今頃何してるんかなー。
もしも異世界に転生したら、とか言ってバカ話した日々が懐かしいよ。
まさかアレが現実になるとは思わな…………今更だけど転"生"者に数えていいのか、私?
《―――僕をそんなに心配してくれる相手、ですか? ……ちょっと思いつかないんですけど》
「え……? じゃあ、気に掛けてくれるギルド職員さんならどうですか? 凄く、その、気持ちの籠った人相書きを用意してくれたみたいなんですけど」
……おおっと、思考が逸れとった。いかんいかん。
さて話を振られたラビ君はというと、これまたどうも空振りっぽいご様子。
話題に出た人相書きについては、私も見せてもらった。
何か妙なフィルターかけてるというか、本当にこんな風に見えてんの? と言いたくなるような出来栄えで……背景に花びら散らしたくなったよ。
今回の依頼を普通に受けていたとして、アレで彼を探せた自信は正直無いでござる。
《うーん……? 知り合いと呼べる異性がいないわけではないですけど、少なくとも彼女達は僕が居なくなった程度を気にすることはないと思います》
「……と、言いますと?」
《顔を合わせる度に「無様で見てられない」とか「この程度のことしか出来ないなら冒険者なんてやめた方が良い」とか、いちいち僕を否定する言葉ばかり掛けられて……だから、ギルドに向かう道を変えたり時間をずらしたりして、なるべく彼女達の視界に入らないようにしていましたね》
「…………」
《…………》
ユズちゃんと顔を見合わせた。
……いや、まだだ。まだ分からんよ。
「そ……それで、そう言われたあなたは彼女達に何と返していたんですか?」
《……腹が立ちはしましたけど、言われることは事実ばかりなので特に何も。……なのに気付けば誰かしらが近くに来ていて、文句を言っては帰っていくんですよ。……僕が気に入らないのはよく分かったから、放っておいて欲しいと常々思ってましたね……》
……私の視界にあるのは「これもしかして……」という顔である。おそらくユズちゃんにも今、同じような顔が正面に見えていることだろう。
「……えっと、その『文句』というのを、そのまま聞かせてもらえませんか? なるべく一言一句正確に……その、覚えている範囲で構いませんから」
《え? ええ、別に良いですけど……えっと、たしか―――》
ユズちゃんが彼にそう問いかけ、女性達の『文句』の内容を聞き出す。
現状、記憶が薄れつつあるラビ君でも日々聞かされ続けた言葉はそれなりに覚えていたようで、彼の主観が取り払われた『文句』が露わになった。
"そんな仕事より、お花を育てていた方があなたにはお似合いだと思いますよ?" by 花屋の娘
"正直なところ貴方に回せる依頼というのは……つかぬことをお聞きするようですが、事務仕事に興味はありませんか?" by ギルド職員A
"アンタなんかに冒険者が務まるわけないじゃない! モンスターに追い掛けられて情けなく逃げ帰ってくる前に、ウチの店で接客の一つも覚えてみれば? ま、アンタじゃまともに使い物になるまでに十年は掛かるでしょうけどねっ" by 酒場の娘(今回の依頼主)
《(彼の周囲にはツンデ……回りくどい女性が多いみたいね)》
「(どっちに過失があると言えばいいんでしょうね、これ……)」
まとめて翻訳、概略して曰く、「冒険者として上手くいかないなら私が養ってあげる」といった逆プロポーズに近い表現を、日々異口同音に投げかけられていたようである。
対して彼はラブコメ系の難聴主人公ばりに明後日の解釈を重ね、必要以上に卑屈になっていた、というあたりで私達の見解は一致した。
さらによくよく聞くと、私達が認識した依頼主(幼馴染)、ギルド職員Aの他にも、行きつけの薬草店の看板娘だ、宿屋の娘だ、果てはたまたま知り合った良家のお嬢様なんて存在が発覚。
勿論いずれの女性とも、特に親しくしたことなんてありませんけど―――というのが彼の主観。
……うん、ラブコメの主人公だわコイツ。
「(……考えてみれば、わたしも彼とは初対面じゃないですね。ちょっとした揉め事が起きていたところで会って、少し話をした覚えがあります)」
《(まさか粉かけられてた? 先輩冒険者枠? フラグ立ってた?)》
「(ふらぐ?)」
ユズちゃんも彼の物語の登場人物ないし攻略対象である可能性が微レ存……?
いやいや、お前なんぞにウチの子はやらんぞ、絶対に。
「(よく分かりませんが、わたしはレインの子になった覚えはありません)」
まあまあ、細かいことは気にしない。
《―――あ、そういえば大事なこと忘れてたわ》
「ふえっ? 何ですか、レイン」
《それよ、それ》
「それ?」
くるっとターンして指差す私に、きょとんと首を傾げるユズちゃん。かわいい。
……と、そうじゃなくて。聞いてこないもんだからすっかり忘れてたじゃんかよう。
《その杖。名前を考えてる途中だったの、すっかり忘れてたわ》
「あー……え、今それ気にします?」
気にするよー。もうすぐ初陣だってのに名前が決まってないなんて悲しいじゃんかー。
私がその杖だったら今頃猛抗議ですよ?
「いや、杖の気持ちになられても……」
《武器の名前、ですか?》
《最近手に入れたんだけど、良い名前が思いつかなくってねえ。何か良い案ない?》
ユズちゃんが腰に差した杖―――悪目立ちしないよう布が巻いてある―――を彼に見せるように【念動力】で取り出す。
このタイミングで? と彼女は首を捻ってるが考えようによっては彼女以外のこの世界の人間に意見を聞けるまたとない機会だ。むしろここで話題に出さない手はないのだよ。
……これに関していまいちユズちゃんは消極的なんよね。「変な名前じゃなきゃなんでもいい」みたいな投げやり感が滲み出てるというか。
その点イイお年頃のラビ君なら、こっちの世界のそーいうアレを提供してくれるんじゃないかと密かな期待を込めていたりする。
布を一部ほどけば、露出した持ち手部分が早朝の薄闇に緋色の薄光を滲ませる。
なかなかに神秘的なその様子に一瞬息を呑んだ少年は、暫しの沈黙を経て重々しく口を開いた。
《…………『女神の道標』》
「《却下》」
ダメだった。コイツ未だに女神の事しか頭にねえ。だから違うっつってんだろ。
……というかそろそろ本物の女神さんに怒られかねんから、マジでやめれ。
《え、ええと……では、『女神姉妹の灯火』とか……》
《そういう事じゃねえんだよっ!》
「巻き込まないでっ!?」
そしてユズちゃんも、この方向性には全力拒否の構え。当たり前か。
武器名に自分らを指して『女神の―――』とか、お病気にしても重態過ぎるわ。
……ん? 「巻き込む」ってどういう意味かな、ユズちゃんや? これ、目を逸らすでない。
《……一応、命名の由来を聞いておこうか。ただし女神云々は全略で》
《あ、その……こうして木漏れ日を反射する様が、まるで灯火のように見えたので……》
確かに薄暗い山林の中、木々の隙間から差し込む陽光を浴びて朱く煌めく様子は実に趣深い。
……というか表面揺らめいて見えるんだけど、普通の金属ではないんだろうなあ。知らんけど。
ふむ……『灯火』ね。杖の名前としてそういうのはありかしらん?
「……変ではないです」
ならばそこにユズちゃんの二つ名を合わせて『狐灯火』……安直過ぎるな。
それならむしろ『狐灯』の方が……ってそれじゃ杖の名前らしくない。
狐……『狐の嫁入り』。ダメだ、嫁にはやらんぞ! あ、いや、そもそも『狐』は私か。
あ、そういえばそれっぽい怪談を由来にしようかと考えてる途中でもあったな。
んー……それでは女神云々を置き換えて―――
……後から聞いた話だが。
このとき私の出した命名案を聞いた瞬間にユズちゃんが抱いた印象は「あ、あれ? 思ったよりまとも……?」だったらしい。……心外な。
Q. 救助依頼を受けたわりに二人して呑気過ぎない?
A. 普通は一分一秒を争うんでしょうけど、今回に限っては『結果』が既に見えてるし……




