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漆黒の金時計  作者: 春 ゆみ
第二章  学院事件簿編
6/16

2-(1) 物事の兆し 1

以前載せた『ひそかな怒り』を3分割したうちの1/3話目です

鐘が鳴った。

 様々な音階が、重なったり響いたりしてクリフの通うロサネハイツ院の『時間』を区切った。この鐘は午前の授業が終わった合図で、これを聞くと生徒たちは一斉に食堂へと向かい始める。

 今日は二学期初めての平常授業で、生徒たちはへとへとだった。

 

 

 その時、クリフは西館の廊下を歩いていた。

 

 西館はレンガ造りの古い校舎で、食堂からは一番はなれている。クリフが普段過ごしている寮からもかなり遠かった。

 クリフの足元に、色のついた光が差しこんできた。目の前にある入口の上には、立派なステンドグラスが設置されている。

 この装飾は実は国の指定文化財にも指定されていて、これを割ってやろうともくろんでいた生徒たちは皆、退学になったという黒歴史まであった。

 

 もくろんでいただけで、退学。

 

 それほどまでに、この校舎は大切にされていた。

 「抜き打ちテストとか、考えるだけでも気持ち悪くなってくるよな」クリフは、ボサっとはねた髪をぼりぼり掻いて、めんどくさそうにつぶやいた。「せっかくの昼飯が台無しだ」

 クリフたちは丁度、その校舎の螺旋階段を下りているところだった。

 神秘的な光の下で、クリフはうんざりしながら、横にいるフウに相槌を求めている。「ったく、あのクソババァ」

 「まあそこまで怒るなて。昼飯がもっとまずくなるけ」

 クリフはため息をついて苦笑いをした。

 革靴の底が地面に当たる音が、周りに反響している。

 今回のテストは、クリフたちの想像を超える難関極まりないものだった。

 放り出さなかっただけ、俺はまだまだましな方だ。

 

 「そりゃぁ、そうかもしんねえけどさ」クリフは口をとがらせると、うつむいてモゴモゴ言った。

 「このあと追試が待ってるのかと思うと・・・・・」

 フウははじけるように笑った。どうもクリフはこのなまり持ちの青年に反論できなかった。どうしても彼のペースに巻きこまれてしまう。

 「ん、怒ってもいい事ないでぇ。な?」フウは二イッと笑って、クリフの肩をたたいた。


 クリフがとっている天文学の講座はこの西館でひらかれている。学校の鳥瞰図ちょうかんずを見てもわかるように、この西館の奥には町が無く、明かりも少ないので星を観察するにはうってつけの場所だった。

 校舎の屋上には大きな天体望遠鏡もある。

 

 クリフはまだ落ち込んでいた。

 意外にねちっこい性格なのかもしれない。

 「ほらクリフ! 次頑張ろうや、これで人生かわるわけじゃねぇ」クリフは苦笑いすると、思いつめた顔で、はぁ、と呟いた。

 底なしに明るいフウの性格が、心底うらやましかった。

 「・・・・・・そう言えばフウ」クリフは話題を変えようと、自分からきりだした。「おまえルームメイトとはどうだ?

 仲良くやってんのか」

 突然のクリフの問いかけに、フウは少し驚いたようだった。クリフはしげしげとフウを見た。

 「ん、まあまあうまくやっとるよ。どうも、あっちの方はまだ去年のルームメイトをひきずってようだけど。

 楽しくやっとるよ」

 フウはのんきに鼻歌を歌い始めた。

 クリフは少しホッとして、胸をなでおろした。まあ、フウが人とトラブルになるなんて、そんな心配はしていない。

 クリフは一気に、残りの階段を飛び降りた。

 「で? そういうクリフは?」

 フウも同じように、飛び降りる。

 「まぁ、いいんじゃないかな。いいやつだよ、ユキは」

 不意に足音が止んだ。

 フウの細い眼が、いつもより少し大きくなっている。眉を露骨にひそめていた。

 「ユキ? ちょっと待てクリフ、そいつって・・・・・・」

 時すでに遅し。

 フウが気がついたときには、クリフはすでに鼻歌を歌いながら、軽いフットワークで食堂へと向かっていた。

 

 クリフの横を、お堅いスーツを着た男性陣が通り過ぎていった。 


 

 

 

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