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漆黒の金時計  作者: 春 ゆみ
第二章  学院事件簿編
15/16

2-(10) 潜入捜査 2

 この言葉を皮切りに、クリフ達の全神経が、一人の少女に注がれた。

 横にいる校長が邪魔で邪魔で仕方ない。彼が相づちを打つたびに、クリフ達の舌打ちもその都度響いた。



 『体が突然動かなくなるんです。突然、しかもそのたび、すごく寒くて・・・・・・・・』

  『寒い?』




 「ん?」

 その時、ユキが何かに反応した。

 目付きが生徒のカツラ=ユキではない。


 陰陽師のカツラ=ユキになっていた。



 「あの校長・・・・・・」

 「どうしたユキ」


 ユキはものすごい集中力で、会話に聞き入っていた。目を皿のようにしてマイ――――ではなく、校長を見ている。


 『ほんの少しの間なんですけど、何かに掴まれているような感じなんです。体全体をこう、グッ! と』

 マイは細い腕を目一杯広げて、目の前の空間を自分に向かって掻き寄せた。

  とにかく大きな何かに、羽交い締めにされているような感覚らしい。



 ユキはそれを丁寧にメモしていく。

 クリフには全く読むことの出来ない、極東の大和文字だった。

 ちなみにユキは、ヨーロッパでは珍しい、縦書き用メモを愛用していて、クリフもそれに憧れて密かに同じ物を買ってみたのだが、案の定使い方がよく分からない。

 結局はそれを横にして使う日々が続いていた。



 『もしかして、私、病気・・・・・・なのかなって』

 『そんなことない、大丈夫』校長は力を込めて、マイを鼓舞した。『私も解決に全力を尽くそう、約束する』

 『なんで病気じゃないって言い切れるんです!? 校長、お医者さんじゃないでしょ!?』

 『病気ではない。私にはわかるよ』



 クリフでも、この返答には違和感を感じた。

 まるで、校長は何かこの症状の原因に心当たりがあるみたいだ。


 ユキの表情は、こわばりを通り越して引きつっていた。

 金時計のフタをを閉じる要領でメモ帳を閉じると、それをポケットに入れて立ち上がった。

 それとほぼ同時に、校長とマイもそれぞれの帰路に戻る。今回の調査は、ここまでのようだ。



  クリフ達も元の時間に帰るため、また西館に向かった。


 「何かわかったか?」

 「まずまず、ね。とりあえず、校長はマークしておきます」

 「見るからに怪しいもんなぁ。犯人候補としてか?」

 「いえ・・・・・・」


 ユキは西館のステンドグラスの前に立つと、クリフをそこに引き寄せた。

 この時間に来たときと同様、ビーズの様なものを辺りにばらまいた。途端、足元から白い光に包まれていく。


 「まぶしっ」



 気づいたら、クリフ達はまた真夜中の大理石ホールの中心に突っ立っていた。今度は上手く着地できたようだ。

  床に置きっぱなしのランプを見て、本当にタイムスリップしてた事を改めて実感した。

 「すごい体験だったぜ! ありがとなユキ」


 ユキはクリフのすぐ横にいた。さっきから、そつぽを向いている。しかも、返事がない。

 ――――おいおい、シカトか?


 「・・・・・・なに怒ってんだよ。なんか気にくわないことでもしたのかよ俺」

  返事がない。それどころか、少しクリフと距離をおく始末だ。

 「おいユキ、聞いてんのか?」

 やはり返事がない。

 クリフはさすがにムッとして、ユキの肩を掴むと無理矢理自分の方に向かせた。


 「おいって!」


 すると、ユキの肩が不自然に揺れて、よろめいた。

 マイみたいに肩が震えている。しかし、彼女のように泣いている訳ではなかった。

 なんか様子がおかしい。胸に手を当てて、苦しそうに喘いでいた。



 「どうしたユキ!」凄い汗だ。「具合でも悪いのか?」

 「だっ・・・・・・大丈夫・・・・・・。ちょっと疲れただけ・・・・・・・」そう言うと、ユキは背中を丸めて咳き込み始めた。

 ちっとも大丈夫そうには見えない。


 「とにかく部屋に戻ろうユキ! おぶろうか」

 「大丈夫・・・・・・自分で歩けるよ・・・・・・・・・・・。でもクリフ君、先に行ってて・・・・・・、僕、ちょっと休んでいくから」

 「バカ野郎、今のお前を置いて帰れるか! 一緒に帰ろう」

 「誰か来るかも、早く行って・・・・・・」


 そこまで言うと、ユキは膝を折って前に倒れた。ひどく辛そうで、肩で息をしている。

 「ゆっ、ユキ!」呼びかけにも全く応じない。

 弱々しく地面に横たわったまま動かなかった。



 ――――顔色が悪かったのって、まさか、このせい!?

 ここまで来てやっと、ことの重大さに気付いた。

 


  「・・・・ユキ・・・・・・・・・・・・ユキ!!!!」  


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