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漆黒の金時計  作者: 春 ゆみ
第二章  学院事件簿編
13/16

2-(8) 極秘捜査 2

これはフィクションです。宜しくお願いします。

 妙な静けさが辺りに広がる。文字通り、嫌な予感がした。血の気が引く。


 「あら・・・・・・・・・・・誰か、いるわね」


 ――――モアイだ!


 すると足音が更に力強くなって、自分たちのいる方へ向かってきた。速い!!


 「うわ なんでばれた!!!」

 「だーから言ったじゃん、だーから言ったじゃん」

 逃げるぞ、と今度はクリフがユキを誘導した。ここはもうユキになんか任せていられない。

 「あいつに見つかったらもう、くしかねぇんだ! つべこべ言わずに走れバカ!!」

 「・・・・・・覚えときます」

 「おらここ曲がるぞ!」


 遠心力がかかるぐらいに、勢いよく方向転換した。モアイの足音は確実に自分たちの方の向いている。


 ――――しまった! 道幅のない廊下に出ちまった!!


 クリフは道のわきの置物の花瓶を、追ってくるモアイに向かって派手にひっくり返した。中の水と破片が飛び散る。

 少しだが、追手の足音がひるんだように聞こえた。

 「クリフ君ナイスです!」

 「だと思うなら今は走れ! すぐここまで追ってくるぞ!」


 細い廊下を奥へ奥へと走りぬける。目の前は暗闇に等しい状態。

 この先どこにつくかなんて、クリフ達には見当もつかなかった。

 「くっそ! モアイさえ追ってこなけりゃ・・・・・・」口の中が鉄の味に染まる。

 その時、ユキが何か思案したような顔をした。


 「――――じゃぁ、少しだけ『時間』をくれますか?」

 「時間?」


 ユキは急に振り向いてその場にしゃがみ込むと、ポケットから何かチョークのような石を取り出して、大きな円を書き始めた。直径が渡り廊下の端から端まであり、その中にまた二重三重の円を書き込んでいく。中心を十字で区切って何やらクリフの読めない文字を書き連ね始めた。


 陣だ。


 「何やってんだおまえ! モアイが来るぞ!」

 「もう少し待って・・・・・・」

 「はやく!!」


 背後から足音が、前よりも力強く響いてきた。『近づいてくる』いうよりかは、どちらかと言うと『迫ってくる』感じだ。


 命の危険を感じた。

 「ユキ!!」

 「もう少しです! もう少しで――――――――――できた!! 逃げましょうクリフ君!! 今すぐに!!!」

 「俺は最初からそのつもりだっつーの! つーかなんだあれは!」

 「ああ」ユキは走りながら含み笑いをして言った。「実はですね・・・・・・」

 




 ******


 その時、ライ=フレーミー、別名『モアイ』は、人の気配がありありとするこの渡り廊下まで走ってきていた。

 地面に残っていた血(あれがユキの鼻血だとは、さすがに知る由もないが)、まだあれは新しい。

 足音からして、相手は二人。声からして、相手は男。

 しかもそのうちの一人は少し訛があることから、恐らくは外国人。簡単に予測はついた。しめ甲斐がありそうだ。


 「さ~、どこ行ったバカどもは。たっぷりお仕置きしなきゃね」

 モアイは辺りをゆっくり見渡した。うまく隠れたようだ。

 『かかと』から確実に足を置くような感覚で、じわじわと前に進みはじめる。ゆっくりとしたスリルある時間の流れが、彼女を余計に興奮させた。



 ―――――が、その時だった。



 突然モアイの足元が明るく光った。下を見ると、床には大きな陣が書かれており、自分の足はその中心付近に位置している。

 「なっ、何よこれ・・・・・・」突然、体の真ん中に、ぽっかりと穴があいたような喪失感が彼女を襲った。自分の中の何かが、確実に消えていくような心地がした。

 光が徐々に消えていく。それとともに、なぜかモアイの怒りも徐々に引いていった。


 光が消えると同時に、またさっきまでの暗闇が戻ってきた。

 「あれ・・・・・・」

 モアイはそこで茫然と立ち尽くして自分に問いかけた。「あたし・・・・・・こんなところで何やってんだろう」

 


 ******



 「記憶を消したぁ!?」

 「ええ、ここ二十分間だけですけどね。もう追ってこないでしょう」ユキは相変わらず振り向きもせずに言った。

 「こういうの、あまり得意ではないのですが」

 「すげえよユキ! いやーさすがだな」


 ユキは少し、はにかんだような顔をして見せた。しかし振り向いてはくれない。

 二人は下りの階段を降りた後、一階のロビーの横の大理石の道を直進した。とても広くて、視界がひらけている。クリフはふと、横の無駄に大きな像を見上げた。

 相変わらずそこには、かなり場違いの、古ぼけた聖母マリア像がたたずんでいた。暗闇で見あげるボロボロのマリア像は、冗談抜きで不気味だ。

 これをここに置く意図は一体何なのだろうか。


 大理石の廊下を最後まで走りきると、今度は広いホールに出た。


 講堂だ。


 「ここ・・・・・・」声がよく響く。ここじゃ誰かに見つかったりはしないのだろうか。「おいユキ・・・・・・」

 「よし、ここならいいかな」


 ユキはまたさっき使ったチョークを手に取ると、今度はさっきよりも大きな円と、その中にぴったりとはまるような正方形を描き始めた。直径五メートル、といったところか。

 チョークが地面にこすれる音だけが聞こえる。


 不思議な沈黙に耐えかねて、クリフの方から切り出した。

 「・・・・・・ユキ、さっきから何やってんだ? ミステリーサークルでも書いてんのかよ」

 「御冗談を。陣だってことはもう分かってるでしょう?」ユキは文字を書きながら笑った。「術者にとって『円陣』は必要不可欠要素のうちの一つなんだ。錬金術師とかも錬成陣を多用してる。見たことない?」

 ない。自分の無恥さに腹が立つ。


 ユキもそれを見てとったのか、肩をすくめて苦笑いすると、そそくさと自分の仕事に戻っていった。

 手伝う事は何もなさそうだ。待っている間、クリフは人が来ないか、ひたすら監視し続けた。


 そうこうしているうちに、円陣が出来上がったようだ。

 ユキはポケットにチョークを入れながら立ち上がると、クリフの方を見て手招きした。

 クリフを円陣の中央に誘導する。

 「ここから絶対に動かないで」

 ユキは真剣そのものだった。

 「え、動いたらどうなるの?」

 「そうですね」ユキは考え込んで、「・・・・・・他のいつか分からない時代に飛ばされるか、時空のひずみに呑み込まれるか、あるいは・・・・・・」

 「わかりました、もう結構です」

 「ならいいですが」

 

 そう言うと、ユキもクリフのすぐ隣に立った。袖から何か手のひらほどの大きさの袋を取り出すと、その中から丁度あずき程の丸薬を手の上にぶちまけた。

 

 「――――クリフ君、これから少し嫌なものを見ることになるかもしれません。大丈夫ですか」ユキはそれを地面にザラザラと流しながら言う。

 「何をいまさら。グロいのはもう覚悟してる」

 「そうじゃなくて、ちょっとこう、ほら・・・・・・私情の方とかってことですよ。そういうの受け止められますか?」


 ――――!


 そうか。ユキは犯人と被害者の女の子との間のイザコザについて、気を使ってくれているのか。またそれを自分が受け入られるかどうか、という確認も・・・・・・。


 「大丈夫。変に言ったりとかしないからさ。約束するよ」

 「・・・・・・ありがとう。助かるよ、本当に」


 そう言うと、ユキは両手を前に突き出して、右手と左手の親指、そして右手と左手の人差し指をそれぞれ合わた。一つの大きな『のぞき窓』ができる。

 そこから『宙の一点』にピントを合わせるようにして、精神を統一させる。次の瞬間―――――――――。


 「オン!」



 二人の足元が急に光り輝いた。まぶしくて思わず目をつむったはずなのに、クリフの視界は暗くなるどころか、真っ白になる。


 そして、世界が暗転した。


 

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