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漆黒の金時計  作者: 春 ゆみ
第二章  学院事件簿編
12/16

2-(7) 極秘捜査 1

この話はフィクションです。宜しくお願いします。

クリフ達は静かな廊下をひたすら走り続けていた。とっくの昔に消灯されていたので、クリフの右手にはランプ、左手には燃料という装備で、移動しなければならなかった。

 その目の前を、ユキが走っている。


 「おいユキ、どこまで行くんだよ!」クリフは辺りを見回しながら言った。「もうかなり走ったぜ!?」

 「まだです!」

 「まだって、おい」

 「疲れたんなら帰って頂いても構いませんよ」

 なんかこいつ、やけに挑発的だな。


 「・・・・・・ばっ、ばーかばーか! おまけにばーか! なんでここまで来て戻らなきゃなんねーんだよ、俺は全然大丈夫なんだからな! なめんじゃねーぞこのやろー!!」

 「ですよね、だったら黙って僕についてきてください」

 「てめぇな・・・・・・」


 息を切らしている様子もない。本当に不思議な奴だ。

 

 ――――にしても・・・・・・。


 クリフはユキの後姿を眺めながら思った。さっきからかなり不思議に感じることがある。


 ふと自分の手元を見た。自分はランプのような明かりになるものを持っているのに対して、ユキは何も持たずに暗闇の中を平然と走っている。目の前がT字路ならちゃんと曲がるし、行き止まりなら速度を落としてUターンもする。

 こいつ、人よりも夜目が利くようだ。


 ――――ユキ・・・・・・。


 クリフは無意識のうちに呟いた。

 「・・・・・・このまま、帰ってたまるかよ」

 クリフがユキについてきたのは、なにもカオルさんのため――――だけではない。


 この不思議な雰囲気を持つ『カツラ=ユキ』の人物像を少しでも暴いてみたいという、一種の好奇心から来たと言っても過言ではなかった。

 良くいって『相手のことをもっと知りたい』。

 悪くいって『相手の素性を知っておきたい』。


 人の動く理由が一つだけなんてことは、決して、ない。



 二人が上り階段の横を通り過ぎた時、不意にユキが叫んだ。

 「――――っ! クリフ君! 止まっ」

 「うおぇっ!!?」



 ドスンッ!!



 クリフは勢いよく、ユキに追突した。ユキを下敷きにしたまま、二人ともども地面にすべり込む。

 ユキは顔面から、派手に着地した。



 「いててて・・・・・・」

 「・・・・・・くっ、クリフ君、止まってって、言ったじゃないですかっ」

 「わりい、対応しきれなかったんだよ・・・・・・!」

 「重いっ!」

 「今どく」

 クリフが起き上ると、ユキはうつむいて鼻を押さえながら立ち上がった。指の隙間から赤い液体が流れ出る。

 「うわ鼻血!」

 ユキも赤く染まった自分の手を見て驚いた。「でぃ、ディッジュある!?」

 「ないからとりあえずこれ使え! 俺のハンカチ貸してやるから、上でも向いとけ!」

 「うえ? こっ、こう?」

 ユキは首を起こして直立した。

 本当はこういう時、上を向いはいけない。


 「それにしてもユキ、さっきはどうしたんだ? 『止まれ』って」

 「あっ、そうだよ! グリブ君こっぢ!」ユキは鼻を押さえていない方の手で、クリフの手首をつかむと、すぐ横のわきの道によけた。

 クリフを奥に押しやって、壁にびったりと背中を当てると、そこから振り向くようにして、様子をうかがった。なんか、前に見たサスペンス劇みたいだ。

 「足音が・・・・・・聞こえる」

 「足音?」クリフも耳を澄ませてみた。――――何も聞こえない。「そんなの、全然・・・・・・」

 「しっ」

 耳鳴りがするほどに静かだ。誰もいない。

 身を潜めている時間が余計に長く感じられる。自分はスパイには向いていないようだ。


 ――――そう思った、その時だった。


 遠くの方でコツコツと、ハイヒール特有の『反響音』が聞こえてきた。心臓がきゅっと縮む。

 ――――誰か来た!


 二人は息を殺した。ロサネハイツ院は罰則が厳しいことでも有名だ。

 こんなところで見つかったら、たまったもんじゃない。

 最低でも一週間以上の停学と、先々の学校生活において、何らかのペナルティを課せられることだろう。友人がそれで苦労しているのを、クリフは目の当たりにしていた。

 それだけはだめだ。


 逃げ切らなければ、カオルさんにだって顔向けができない――――!


 二人は声を押し殺して、迫ってくる足音に集中した。

 逃げるよりも、今は壁になったつもりで張り付いている方が得策に思えた。

 少しでも音をたてたら、一貫の終わりだ!

 

 ――――相手は・・・・・・誰だ?


 だんだん足音が大きくなってきた。

 

 この学院でハイヒールを履いていいのは教師だけ。しかも、この足音は皮靴ではない。だとしたら、今こちらに向かってきているのは女教師の誰か。


 近づいてくる。


 クリフは冷や汗で湿った手をズボンで拭いた。心臓が破裂しそうだ。


 ――――この感じ、前にもどこかで・・・・・・。


 次の瞬間、クリフの脳内を、一筋の何かが冷たく貫いた。この力強い足音と雰囲気は、身に覚えがある。まさか、もしかして「・・・・・・モアイか?」

 「―――のようですね」

 音と音の間隔が狭い。どうやら早歩きをしているようだ。

 すぐにここまでやってくる。


 クリフは声を押し殺して、ユキの耳元で囁いた。

 「・・・・・・やっぱ逃げよう! あいつはもう人間じゃねぇんだ!! なんかもう先祖の時点で、猿からかけ離れてんだよ!!! きっとオランウータン以外のホリの深い生き物の末裔だって絶対!!!」

 「そんなことしたら足音でばれてしまいます!」

 「このままでもばれるぞ」

 「大丈夫です」

 「だめだ! ここはもう奴の領土だ。おかしたら即刻ボスモアイの餌食だぞ!」

 「ここはやり過ごしましょう!」ユキはクリフの肩をつかんで言った。妙に力がこもっている。「大丈夫、隠れていれば見つかりませんよ。無理に動くよりもきっと・・・・・・」



 その時、―――――――足音が、 やんだ。




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