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漆黒の金時計  作者: 春 ゆみ
第一章  プロローグ
1/16

1-(1) プロローグ

今の時点でプロローグと2話目のみ、文章体を大幅に変えました。

3話目ものちのち変えていくつもりです。

今しばらく、お待ちください。

 いつもはにぎやかな西廊下が今日はやけに人であふれていた。どこをみても人、人、人、人、人。

 ざわめきというものが、ある一定の形作られた音のように辺りに響き渡っている。 

 

 「なぁジェン、もう少し落ち着いてからにしないか?」

周りにいる人をみまわしながら、クリフは言った。

 これは異常だ。頭が痛くなってくる。


 クリフは前にいる、男子生徒を見上げた。

 恐ろしい事だ。多少の「どつき」にも反応しなくなってきている。

 「あのなぁクリフ、こういう「非日常」? 「サプライズ」? それを差し置いて何お前、グラスター戦記読みふけってんだ?」

 彼の横には、自分より頭一つ分背の高いジェンという男が立っていた。

 完全にクリフを見下ろす形になっている。

 「あれだけはホントに例外なんだ」

 クリフはそれを見上げながら反論した。

 突っかかりそうになる足を、どうにか床という足を置けるスペースに、はめ込んでいくような感覚で進んでいく。こうなってくるとなんかもう、パズルを解いているみたいだ。

 とても難解なパズル。しかも足場が動くという、いまだかつて経験したことのないものだった。

 クリフは足元にきを配りながら、ソロソロと慎重に前進した。

 「ジェンだって読めば絶対ハマるのに・・・」

 「あー、はいはい。おまえにとってこの『二年に一度の部屋メンバー替え』ってのは、その程度のことだったのかよ」

 

 近いうちに読んでみようとは思ってるんだけどな。

 

 ジェンが「~だけどな」を使うときは大抵「NO」の意味だ。

 こうなるともう、こちらの意見をのんでくれる可能性はほとんどない。まぁ、十分に想定内だ。

 クリフは進みながらなんとなくそんなことを考えていると、ふと視界によく本で見かけるような、大きな物体が映った。

 

 マリア像だ。

 

 なぜかはよくわからないが、綺麗な装飾で統一されている西廊下にそれだけが、ぽつんと、そして無造作に置かれている。

 よく見ると、細かな傷がいたるところについていた。

 マリア様というよりは、どちらかというと勇敢な自由の女神、ジャンヌ=ダルクに近いような気がした。

 

 ――――なんでこんなバカでかいものをこんな所に置くんだ?

 

 まわりの人たちも同じようなことを思っているらしく、無駄に堂々と領土を陣取っている彼女を、邪魔だと言わんばかりににらみつけながら通り過ぎていく。

 

 「・・・・・・見ろクリフ! あそこじゃねえか!?」

 突然ジェンが、はしゃぎだした。余計にでかい。

 実はその大人っぽい顔立ちに、クリフは少し憧れていた。


 でも、でかいから大人っぽく見えるんじゃない。老け顔だから、余計にでかく見えるだけなんだ、長年そう自分自身に言い聞かせている。 

 

 クリフは特に老け顔が好きなわけではなかったが、自分が幼く見られることだけは大嫌いだった。軽く5歳は若く見られてしまう。

 つまり、実際は17歳だが周りのやつらはクリフを12~13歳にみるわけだ。

 クリフのプライドはもはや、ズタズタだった。


 「『あそこ』?」クリフはいかにもわざとらしく、トボケてみせた。「よくみえないな」

 「お前今身長いくつ?」

 「っ!」

 ジェンの口元がにゅっと上がった。

 いじきたない。本当にいじきたないぞ。


 「まぁ、前よりかはキモーチ伸びた・・・よな?」

 「うるさい! 俺は世界から見れば至って普通なんだ! おまえらがでかすぎるだけなんだよ!!」

ジェンのやつ、余計なひと言にもほどがある。

 かなり下からだったが、目の筋肉の持てるすべてを使ってジェンをにらんだ。

 

 「おーそーかそーか、クリフ君。・・・・・・ほらよっと! どうだ? 見えるか?」

 無駄だったようだ。

 「なんか・・・いろいろと屈辱だ」

 

 父親がよく子供を高い高いするような感じで、後ろからすくいあげる。周りから見て、相当目立っているはずだ。

 周りのひとよりも上半身の分だけ世界が低い。

 まぁ、おかげで周りの様子がよく見えるようになった。俺を見てクスクス笑ってるような奴らもよく見える。


 てめえら、あとでおぼえとけよ。

 

 「・・・ああ、そうかもな。人だかりとか特にすごいし」

 部屋メンバーの結果が貼ってある所は特に人でもみくちゃになっていた。おそらく、結果を見たがっている人と、見終わって帰りたがっている人とで更に混雑しているのだろう。

 妙に恐ろしい熱気に包まれていて、正直近寄りがたかった。

 

 「クリフ、お前ちょっと見てこい」

 「えっ」いやな予感が的中した。「なんで俺が」

 ジェンが目でちょちょっと催促した。

 「だって・・・お前けっこうチビいだろ? だからこう・・・すいすいっと人の間くぐりぬけて、見に行ったりしてくれないかな~なんて」

 わかっていた。こうなることは。「ったく、しゃぁねぇな」

 

 クリフはぐちぐち言いながら人波にもぐりこんだ。

 しかし実のところ、ここまで来てみると妙な達成感からか結果が気になるので、そこまで不服でもなかったのかもしれない。

 ずんずん進んでいくうちに、興奮して頬がほてってきた。

 けっこう、楽しい。


 なんやかんやで最前列付近の結果が何とか見えるところまでたどり着いた。

 大理石でできた太い柱が、行く手を阻んでいる。

 そこに貼られた結果表が、重々しい雰囲気を漂わせていた。

 そのオーラに乗せられて、多くの者たちが戦いに身を投じ、悲惨な末路をたどっている。

 〇〇の部屋はどこなんだろうかと余裕をこいていると、どこに流されてしまうか、わかったものではないので、ここはとにかく自分とジェンの部屋番号を探すことだけに集中する。

 クリフは目を凝らして、結果表にくいついた。

 

 クリフ=ハイネ、クリフ=ハイネ、クリフ=ハイネ、クリフクリフクリフクリフ・・・・・・・・・・・

・・・・あった! 2号棟 7246号室!! 

 7階、階段きついな。

 それと、ジェンの部屋はっと・・・・・・・おっ、2号棟 5238号室!

 いいな、食堂近いじゃん。


 自分たちの部屋番号はわかったので、とっととここから退散しようと・・・・・・したのだが、できなかった。人の間にもぐりこもうにも、そのスペースがどこにもない。

 急に後ろからドンッと衝撃をくらった。不意に前のめりになって転びそうになった。

 

 ――――まいったな・・・。

 

 人の流れが変わってしまったようだ。

 出口? そんなのあるわけない。

 入れたんだから出れるだろ? 平和ボケもたいがいにしやがれってんだ。

 しかし、これを逆手にとれば、どこかに流されてしまうような心配はなくなったということだ。

 クリフはそのまま、その結果表を見ていることにした。

 こういうときは無理に動かない方がいい。

 周りからの圧力がさらにかかってきた。毎年のように、人雪崩が起きてしまうわけは明白だが、学校側はなんの対処もとらない。

 階ごとに見に行く時間を決めるとか、やれることはいくらでもあるだろうに。

 息がしづらくなってきたので、クリフは上を向いて深呼吸をした。空気がこもっている。

 

 

 それにしても、クリフたちの通うドイツ・ロサネハイツ院というのはマンモス校だ。一度自分の名前を見失うと、なかなか見つけられない。

 昔からこんな感じだったのかというと、実はそうではない。

 もとは男子校だったのだが、経営難からか途中から共学方針に変わった。

 おかげでこんな風に、毎年てんやわんやだ。だが、クリフたち男子にとっては悪くはない環境のようだった。

 

 10分ほどたっただろうか。

 クリフはいまだに、その場から動けないでいた。

 小さい体も、なんの役にもたたない。あとはもう、野となれ山となれだ。なるようになってしまえばいい。

 そのうっぷんを晴らそうとして、結果表にくいついていると、ふと、ある人物の名前に目がとまった。

 クリフの今まで退屈でうだっていた体が急に冷めた。

 脳の回路が、過去の自分の記憶とつながったかのように、体の中心を貫いた。

 ――――この部屋番号・・・・・・。

 クリフは急いで自分のポケットを探った。そして自分の部屋番号と、その知らない人物の部屋番号を交互に見た。

 2号棟 7246号室。  

 ――――俺と部屋番号が同じだ。

 クリフは改めて、それを見直した。もう間違いはなさそうだ。

 「知らないやつだな。日本人・・・か・・・? えーっと・・・」

 

 クリフ=ハイネの欄は、かなり上の方に位置していた。そこからかなり離れた結果表の左下の方に、いかにも活版による冷たい文字でこう書かれている。

 

 Katsura=Yuki   

 

 「・・・あれ・・・・・???」

 クリフは目を細めた。

 頭の中で、何かがスッとかすめた。つめたい、なにかが。 

 理由は、わからない。

 だがなんか、妙に懐かしくも感じた。



 

 カツラ・・・・ユキ・・・・・?

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