友導(ともしるべ)①
今日は、友人に誘われてカラオケへ行く日。
昨日、アラームをかけていなかったせいだ。
朝の用事をガサツながら済ませた。
待ち合わせの駅までひとっ走りする。
住宅街の風景は、高層ビル群に埋もれていく。
やっと、星ヶ嶺駅が見えた。
星ヶ嶺市の中心部にある大きな駅だ。
高層ビルが連なる中で一際存在感を放つ。
この駅には首都圏へ行く新幹線も通っているから便利だ。
人が多いからだろうか。
駅が近づくにつれて空気が薄くなるのを感じる。
田んぼが見え隠れする所に住んでいるせいだろうか。昔からこういう場所が苦手だった。
メールによると、ペデストリアンデッキで待つと言っていた。上っていくと、2人がワチャ、ワチャしているのが見えてくる。
「お~い、もっと走れ!」
「やっと来たか」
亜貴や京介が俺を呼び立てる。
「遅くなって、悪ぃ。亜貴、京介」
ここまで全力疾走してきたから、これ以上は辛い。
「ほんとにな、早く行こうぜ」
「そうだな」
俺は悶えそうになりながらも、2人に置いて行かれないようについて行く。
気づくと駅のプラットフォームに居た。
プラットフォームを風が何度も突き抜けていく。
少し肌寒い。
「何で、駅近のカラオケに行かないんだ?」
駅の近くにもカラオケなんて有象無象にあるのに。何故電車で遠出するような真似をしてるんだ?
「たまには遠くのカラオケ行ったって良いだろ。他にやりたい事があるんだ、まあ…付き合えよ」
「やりたいことって何だよ」
「それは…後で話してやるから」
今話せない事って、何事だろう?
「それよりお前のことだ。昨日、何かあったのか?」
何があるか問い詰めようとしたら、話を逸らされた。気になって仕方が無い。
「昨日は何もなかったよ」
祈祷の事をこいつらに話しても伝わらないだろう。それにこういう事は、他言無用だったけ。
「いいや、嘘だ。昨日、お前にメールしたら返信は来るどころか、既読すらつかなかったんだぞ。いつものお前なら秒で既読するくせに…」
「ちょっと、用事があったんだ」
「そうか、はぐらかすって事は俺たちには話しにくいんだな」
気まずくなってしまった。
「実はお前のスマホが親父さんに隠されたんじゃないなと思ってた。今日も来れるか心配してたんだぜ」
「ほんとにごめんな」
「非を認めやがった。ま、お前が遅れてくるのはいつものことだから気にすんな」
刹那、つむじ風が起きる。
それを押しのけるように電車が停止した。
ここはターミナル駅ということもあって、電車で人の出入りが激しい。
出る人がいなくなったところで乗り込む。
日曜日で、観光客とかが多いと思ったけど意外と席が空いている。座席に座れるのは、快適だ。
「お前ら、よく窓の外を眺めるの飽きないよな」
「まあ…一瞬で外の風景が変わるのは、見てて面白いし」
「そういうものか?」
亜貴が不思議そうに俺たちを見ている。
京介も俺と同じように物静かだ。
だから、京介とは直ぐに馴染めた。
一方で、亜貴は陽キャ体質。出会ったばかりの頃は、俺たちに付き合ってくれるのが不思議だった。
「どうして陽キャのお前が俺たちなんかに付き合ってくれるんだ?」
「それはだな…」
照れくさそうに頬を掻く。
「まあ…会ったばかりの頃は物静かな奴らだなと思った。でも、お前らと関わっていく中でこの関係が心地良くなったんだ」
「初めて聞いた気がする。そんなふうに思ってくれてたんだな」
俺も京介もそんな事を言った。
「俺たちはいつまでも友達だからな」
その言葉にどれだけ励まされたことだろう。
「それよりお前らは、『漂着した島で、巫女さんに助けられました』の最新話見たか?」
毎週土曜日の夜中に放送されている。
そして、俺を一文無しの危機に陥れたアニメだ。
「あぁ、勿論見たさ」
「見た見た」
まだ、3話しか放送されていない。
にも関わらず、原作人気のブーストのお陰でサブスクでは首位を取るほどの作品だ。
「ヒロインが怪異から主人公を守る構図が良いよな。俺も守られてぇ」
京介の趣味は悪いと思う。
本人には言わないが…
そういう癖に興味は無いが、親友の間柄なので一応頷く。
「分かる、分かる。俺もお前と同じ事を考えていた」
亜貴の人に直ぐ共感してしまう。将来、詐欺とかに引っ掛からなければいいが…
まあ…感受性が豊かなのは確かだ。
これのお陰で、あいつは俺達のオタク話にすんなり入ってきたんだもんな。
「健司はどうだったんだ?」
「俺!?」
「本当は見てませんでしたとか言うなよ」
ここで逸れにされる訳には…
「見てるぜ。勿論見てる」
「証拠は?」
凡人ならここで落城するんだろう。しかし、俺には兵器があるから大丈夫だ。
つい、笑みがこぼれてしまうな。
2人も迫ってきてる事だし、出してしまおう。
「どうだ!」
2人に1枚のスマホのスクショを見せる。
オーという歓声が上がった。俺の勝ちだ。
2人に見せた物とは、『漂着した島で、巫女さんに助けられました』のBlu-rayBOXの予約画面。
代金は引き落とし済みだからこの上無い証拠だ。
2人は何かに勘付いたのか俺から離れる。
「お前、それをいつ買ったんだ?」
「金曜だけど…どうかした?」
「今日、よく来れたな」
意味が分からないので頭を傾げていると亜貴が尋ねてくる。
「お前、一文無し何じゃないか?Blu-rayBOX高かっただろ」
「ふふ、俺を舐めてもらっちゃあ困りますよ。ちょっとバイトしてきたんで心配するな」
「バイトって闇バイトの事か?」
京介は不謹慎なことを聞いてくる。
「違うって、内容は言えないけど…」
「やっぱり…」
「本当に違うんだ!」
「2人とも。着いたぞ」
2人と喋っていたら時間が過ぎていた。
電車から降りる。
降り際、乗車する人が多く思えた。
この駅はまさか…
駅看板を見ると東星ヶ嶺駅。
星ヶ嶺大社前駅の一つ前じゃないか!
昨日、失恋の痛みを塗り替えた。
でも、この1年間ずっと星ヶ嶺大社に気乗りしない雰囲気を出してたからな〜
隙を突かれたか。
「これから何するんだ?星ヶ嶺大社へ御参りか?」
「お前みたいな勘の良いガキは嫌いだ。いや~一度言ってみたかったんだ」
亜貴はニッコニコだ。
「それは何より」
「お前の言うとおりだ。でもな、それは後でやる事に過ぎない」
「何処へ行くって言うんだ?」
「ラウンドワンさ」
Round1。それは星ヶ嶺市最大級のアミューズメントパーク。ボーリングにゲーセンがある。
一応、カラオケは入っていたな。
彗に貰った御駄賃のお陰で、財布の底に気にせず遊びたい放題。それにSuicaがあるから帰って来れるわけだ。




