初雪の予感②
彗に手を引っ張られて歩く。
俺は、そんなに頼りないのか…胸の奥が痛痒い。
「それで、貴方を何と呼べばよろしいですか?」
「健…司で…いいよ」
「それでは敬意が無い気がするので、健司さんと呼びますね」
それより君のことが知りたい。
「君がそっちの方が良いならそっちで…俺は、君をなんと呼べば良いんだ?」
「彗でいいですよ」
手元の異常さに4度も見た。
「この状況で平常心保てる彗を尊敬するよ」
「なんの事ですか?」
「まぁね…」
「それより、これからお伴になる貴方に沢山の事を教授して差し上げます」
嗚呼、思い出した。
俺は、彗に神事の作法を無知と思われた。
少しは知っているのに…
だから、彗が作法をを教授してくれるという。
それにしても…この状況は、アレだな。
「何ですか?ジロジロ見て、気持ち悪いですよ」
「あの、この状況は何ですか?」
「質問を質問で返すのですね。まあ、いいです。貴方が迷子になってしまうと思い、手を繋いで案内しているというわけです」
恋人繋ぎされているけど…これはどんな意図なんだろう?
「それで、どうして私を見ていたのですか?」
「恋人繋ぎされているからですけど…」
「恋人……繋ぎ……へ、え?恋人?」
あたふたしているな。
「この手の繋ぎ方を恋人繋ぎと言うんだ」
パッと手を離すと顔が影になる。
でも、影下の顔が少し紅い。
「私の後についてきてください」
急に声が小さくなる。
「そうか、無意識だったのか…」
● ● ●
お互いに無言になってから10分程歩いたかな…
「ここで禊をするのです」
着いたのかな。
見上げると、ある社殿がある。
「ここは、いつも御参りするところだな」
でも、彗にとってはどういう所なんだろう。気になる。
「それで、ここは?」
「私の自宅兼、社務所ですけど…」
「自宅…」
会って直ぐの女の子の家に行けるとか、俺は幸運の持ち主なのではないか。
「お邪魔します」
敷居を跨ぐと巨大な和風の空間が広がっていた。
そこから長い廊下が続いていて、戸が沢山並んでいる。
「迷子になってしまいそうだ」
ふと、漏らした言葉に彗が反応するんだが…
「引き続き私に付いてきて下さいね」
やっぱりこっちを見下しているようだな。
「ここでシャワーを浴びてきてもらえる?」
え…
「いきなり何を言う!?」
「山を登ってくる間に汗をかいたでしょ」
汗が気持ち悪いと思って、丁度汗を流したかったが、女の子の…しかも好きな娘の家で…
「健司さんは汗かいたまま、神に祈祷をされるのですか?されるのでしたらドン引きですけど」
「そんな事はしないよ」
「そう。理解出来たら、早くしてきてください」
「着替えは?それにバスタオルは?」
「こちらで用意しておりますので」
少し間が空いて
「…早くしてください」
「些末な事を聞くが…湯船に入ってもいいか?」
「ダメですよ。ただでさえ時間が無いのです…それに、湯船にお湯入ってないんですから。10分であがってきてください。それといい加減、早く入ってきてください」
洗面所の戸をバンッと閉められる。
その顔は、影を纏う苦笑いだった。
彗に戸を閉められて、汗が染みた服を脱ぐ。
「あぁ…気持ち悪い。早く入ろう」
磨りガラスの風呂の戸を開ける。
この家はお風呂も広く、ヒノキの香りが心地よいな。
ジャージャージャー
お湯が勢いよく流れる。
「シャンプーとボディソープは…これか」
思えば、このシャンプーとボディソープは彗も使ってるんだな。
流水はバブルを纏って身体を流れていく。
毛穴の奥まで洗われる気がする。
「なるほど、シャワーヘッドも一流のものだ」
彗によるとコンディショナーは使わない方が良いらしい。神事には、純粋さを求められるようだ。
さっきの彗、ちょっと苛ついてたな。
少し風呂をあがるのが怖い。
「嗚呼、こんな高級な風呂に毎日入れるのか…羨ましいな〜」
もう少し、ヒノキの匂いに包まれて逃避していたいな。
磨りガラス越しに紫色の影が見えた気がした。
彗…なのか?
早くあがれと言っている気がする。
脊髄に寒気が走って、身体が勝手に動く。
急いで、身体を拭いて服を着る。
「あぁ…髪も乾かさないと」
髪も乾かして、戸を開けると彗が立っていた。
「9分58秒」
「今、なんか言った?」
「何でもないですよ…10分超えていたら教育するところでしたよ」
「小声で何か言ったか?」
「いいえ、何でもありません」
何か持っていたものを後ろに隠したようだ。
おっかない物が見えた気が…
そんな事は出来るだけ考えないようにした。
「それよりシャワー、終わりました…彗さん」
「なんで、さん付けするんですか?」
「何でだろう、ちょっと怖かったからかな」
「あ、さっき言いそびれたんだけど神事を行う前に身体を洗うことなら前からやってた。家では清めとか言ってた。禊という言葉を知らなかっただけなんだ」
「今更何を…これから何をするか分かりますか?」
「…家ではこの後に神主の親父が祝詞を詠むのを補佐していた」
「何故?何故分かるのですか?」
結構驚いてるようだ。俺は彗の父が頼った俺の親父の紹介で来たのに、何故こんなにみくびられていたんだろう?
「一応、俺も神社の息子だからだ」
俺を見下す顔が少し引いていた。
「少しは見直したか?」
「認めたくはありませんが…あなたの言うとおり、私が祈祷をあげるのを補佐していただくのです」
「何処に行くの?祈祷って本来神社でやるものでしょ」
「本来はそういうものですが、私達は依頼をいただいて訪問祈祷を行っているんですよ」
訪問祈祷というパワーワードに唖然とした。
「それでは参りましょうか」




