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彗星のように  作者:
1/3

プロローグ-深雪-

更新は不定期です。沢山投稿する時もあれば、ピタリと止む時も有りますのでご了承下さい。

 〜前文〜

因果がもたらす必然を、人々は偶然や奇跡と呼ぶ。

冬――「早く消えてしまえ」と鬱陶しく思った雪。

夏――「その冷たさで頬を撫でてほしい」と願った雪。

けれど俺は――

初詣、雪景色の中で揺らいでいたあの人を忘れられない。夏が来ても、心の底に記憶が溶けずに残っている。

そう、吹雪の中へ溶けていった背中。

あの時から冬が愛おしくて仕方がない。

また雪が舞い始める頃に、きっと−−


        ● ● ●


元旦、俺は有名な神社へお詣りに向かっている。

高校受験の合格祈願の為だ。

こうでもしないと、不安で、不安で仕方なかった。


神社に近づくほど人の波が大きくなっていく。

正直、怠い。もう、帰ってもいいのか?

大通りと神社の境界の交差点まで来た。

ここまで来たことだし、お詣りをしよう。


ようやく、山に聳え立つ大社が見えた。

信号を渡ったら、直ぐに100段くらいの階段がある。

「あぁ、くたびれた。ここから、また階段を上らなきゃいけないのか…疲れるなぁ」


一段、また一段と…上っていく。

ふと、頬に冷たいものがあたる。

頬を刺すような冷たさ…なのに触る間もなく溶けてしまう。

ふわり、ふわりと蒼空を踊り舞っている。

「雪…やっぱり、ちらついてきたか」


雪は、本当に鬱陶しい。

雪と遊んでいると手が悴む。それに、雪合戦で硬い雪玉が頬に当たった事が蘇るんだ。


あの巫女さんに出会うまでは−−


階段も終わりまで来た。

脚がガクガクするし、息が切れそう。


「ここが星ヶ嶺大社本殿…」

小学校の校外学習でここへきたことはあったけど、やっぱり本殿の迫力に圧倒される。


階段を上がってすぐの所に大きな池がある。

本殿に行くために桟橋を渡らなければならない。

桟橋が狭いせいで人の流れが滞っている。

さっきの階段もそうだが、この橋ももっと幅が広ければいいのに…


本殿の前に参拝者の列ができていた。

その間に御賽銭のために財布を鞄から出し、ネットで調べていた通りに25円(二重の御縁)を取った。


ようやく自分の番がやってきた。

銭を静かに投げ入れる。

そして、目を瞑り、二礼四拍手一礼

「学業成就しますように−−」


「さぁて、賽銭も投げ終えたことだし、御守り買って…帰って受験勉強かぁ」


左右の社務所にも列が出来ている。

この間に年号を頭の中で唱えて時間をつぶそう。

「645年は、大化の改新…710年は、平城京…」


「年号唱えてる受験生のお兄さん…」

うわっ、気づいた時には列の先頭にいた。


「ふふ、口に出ていましたよ」

巫女さんは、面白がるような眼で見ている。


「はい、そうですけど何か?口に唱えたほうが覚えやすいってだけで…」

「勤勉なのは良いことですがここは公共の場なので身をわきまえてくれればいいです。それよりお待ちしている人もいらっしゃいますので、御守りはどれにいたしますか?」

その巫女さんは俺と年はそれ程、変わらなそう。

なのに白髪と濃藍の瞳を見ていたくなる。


「聞こえていますか?御守りどちらにいたしますか?」

「あぁ…じゃあ、その学業成就の御守りにします」

なんだか、その瞳に惹き込まれていた。


「承知いたしました。ここに初穂料をお収めください」

お財布から千円札を取り出す。

「1000円をお預かりいたします」

「こちら、授与品と領収書になります」

そう言われて、授与品を受け取る。

授与品を渡す手には温もりがあった。


その人は、悲しげな瞳で呟いた。

「…私にとっては受験というものが羨ましいです」

羨ましいも何も無いと思うけど…

「何でもないですよ…受験、頑張ってください...応援していますからね」

きれいな人に言われたら、俺は嬉しくなってしまうぞ!


また、雪が頬に当たった気がした。

でも頬が熱くなっていたせいなのか、冷たく刺さったような感覚はしなかった。

「吹雪いてきましたね」

いつの間にか空の自由が仄暗さに侵食されていた。


「お帰りの際は、気をつけてくださいね」

脚は悴む。

なのに、手と心はあの人の温もりを覚えている。

それに浸りながらボウっと境内を歩いていた。


        ● ● ●


これは、俺がその場を去った後の社務所の幕間。


巫女の少女は、ふと時計を見る。

ぁ、ヤバい。祈祷の時間を過ぎてしまった。

お父様になんと言われるか…

周りをキョロキョロする。


「久崎さん、ここをお願いしてもよろしいですか?」


「ええ、勿論ですよ…」

そして、慌てて社務所の勝手口から出ていった。


        ● ● ●


俺は、ふと後ろを振り向く。

すると、あの巫女さんが勝手口から出てきた。

何か用事でもあるのだろうか?

その影は人の波へと溶け込んでいく。

その人が愛おしくて思わず手を伸ばしてしまったが、届きそうで届かない。

白い長髪の軌跡が雪が吹雪く中で、美しく映えていた。


今まで、雪は只々鬱陶しかった。

あの初詣以来、雪の刺すような冷たさが痛くなくなった…自分がどうしたと言うのだろう?


        ● ● ●


今日も受験の参考書を開く。

2月に入り、寒さを増してきた。


ヒーターの熱で思考が鈍る。それに、頭がボウっとする。

「集中出来ないな」


参考書から目を離すと、影が視界に揺らぐ。

ただ、顔だけが思い出せない。


「受験勉強から逃避しているな…踏ん張れ」


       ● ● ●

 

合否発表は15:00。


ざわめきが大きくなる。

知りたいのに、知りたくない不思議な気分。

胸がザワザワする。


15:00の刹那、静寂が広がる。

紙が剥がされる瞬間、瞳が開く。

そして、喚声があがる。


叫んでる奴に泣いてる奴。


その中で俺は…

手元の受験票を確認する。

あ、あった。


「よっしゃー!早く…」

受験の結果より先にあの人が思い浮かんだ。


星ヶ嶺大社まで、全力で走る。

3月のまだ冷たい空気が肺を凍らせる。

5キロの距離なんて関係ない。


やっと、本殿の階段まで来た。

階段を一段上がるたび、筋肉の筋が千切れそうだ。それでも、足が根性で動く。


一連の挨拶を済ませて、社務所へ行く。

あの人に会いに来たというのは恥ずかしいから、恋愛成就の御守りを授かる体にしよう。

さっきより、ドキドキするなぁ。


社務所まで来たけど、あの人が見当たらない…

「ご要件は何ですか?」

「は…はい」

一瞬、戸惑ってしまった…


「恋愛成就の御守りを…ください」

「まぁ!青春ですねぇ〜恋愛成就のために頑張ってください。ご用意するので、初穂料をお納めください」


なんで、なんで会えない…畜生。

明日は、きっと会える。


次の日も、その次の日も行った。

それから何度行っても会えなかった。


そうして、受験には受かったものの心は満たされず、現在まで底が凍ったままだ。


会えないのに何度も会いに行くなんて…俺は、いつからこうなちゃったんだろう。


勉強をしていても、巫女の影がよぎる。

教科書の文字が暗号にみえる。

昔は勉強が出来たはずなんだけどな…


今は、ゲームに、漫画に、アニメに明け暮れている。

もう、受験生だった頃の面影なんてものは無い。

いつの間にか、高1の11月半ばになっていた。

心の底に雪となって積もったあの人の記憶。

もう、あの人には会える気がしない。


        ● ● ●

雪が降るまでどれだけ待っただろう?

雪が降り始めたら貴女にきっと会えるんだ。

−−そう信じている。

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