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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第七章 静かな日常が世界に届く

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第九話 揺れる世界と預けられた信頼

朝の食堂にはまだ穏やかな余韻が残っていた。

外の世界がどれほど騒がしく動いていようと、この屋敷の空気は変わらない。

焼き立てのパンの香りと温かな飲み物の湯気が

静かに朝を迎えていた。


窓の外にはやわらかな朝日が差し込んでいて

食卓の上に温かい光を落としている。


アリアたちは昨夜よりも少し早く食堂へ集まっていた。

昨日の静の言葉――

「大事な話は明日の朝にしよう」――

の言葉が皆の頭の中に残っていたからだ。


セリナが丁寧に配り終えたパンと飲み物を見て、フィアが早速一口つける。

だが今回はいつもほどの勢いがなく、何かを考えながら咀嚼している様子。


フレイアは席に着いたまま、静と向かい合っていた。

昨夜から続く問いと、この屋敷に満ちる神気と

静という人物の存在。


それらが脳裏の中で、静かに纏められていった。

そして今朝、ひとつの結論に至る。


(……決めたわ)


この人の側に立つ

ギルドマスターとしてではなく、一人の人間として


「静さん」

フレイアは、はっきりと口にした。


「私は……あなたを信じます」


室内が静かに息を潜める。

アリアが微笑む

リーナは腕を組んだまま、その言葉の重さを噹む

ミレイアは安堵したように肩の力を抜く

フィアはじっと次の言葉を待っていた


「世界がどう判断しようと……少なくとも私は

 あなたが災厄を招く存在ではないと確信しています」


静は一瞬きょとんとし、そして苦笑した。

その笑い方は複雑な感情が混ざったもの

嬉しさと、申し訳なさと、少し困った気持ち


「ありがとう。でも……それなら

 ちゃんと話しておきたいことがあります」


静は少し間を置いてから続ける

「俺は……この世界に来たとき

 ……女神ルーナフィリスに"会った"わけじゃない」


アリアたちが黙って頷く。

彼女たちは既に知っていたのだろう。

しかしフレイアは初めて聞く話。


「受け取ったのは、女神からの手紙と……

 この屋敷のコアだけです」


静はそう言って視線を少し下げる。


フレイアの表情がわずかに強張った。


「直接の声も、姿もない。ただ意思だけが残されていた」


静は穏やかに言う

その声にはそれをどう受け取ったかについての、複雑な感情は感じない

ただ事実を述べている。


「だから俺は、神の代行でも、使徒でもありません。

 ただ……任されたんだと思ってる」


(上位エリアコアを……個人に……)


フレイアの頭の中で、仮説が急速に組み立てられていく。

屋敷コア

観測者の直接加護

絶対不可侵の結界


「……それだけでも、十分すぎるほど異常……です」


フレイアは正直に言った。

だが声には咎めるような色はなかった。

そして次の言葉をはっきりと伝える。


「だからこそ、この事実は絶対に外へ漏らしません」

「ギルドマスターとしてではなく……フレイア個人として誓います」


その言葉に静は静かに頷いた。


「ありがとう」


静の声には素直な感謝がある。

威張った言葉でも、儀礼的なものでもなかった。


「正直、一人で抱えていたこと、ずっと重かった」


アリアが静を見て微笑む

「もうずっと言ってたのに」


「……はい、ありがとうございます」

静は少し笑ってツキの頭を優しく撑える。

ツキは「にゃ」と鳴き、静の手に頭を擦り寄せた。


その時

カチリ、と乾いた音が鳴る。


フレイアの腰に下げられた緊急通信用魔導具が、赤く点灯した。


《最上級緊急事態発生》

《至急帰還せよ》


短い文言だったが、重みは明白だった。

最上級緊急事態は、通常の戦局や事態では発令されない。

それが何を意味するのか、フレイアは瞬時に理解した。


フレイアの表情が一変する。

先までの柔らかさが消え、ギルドマスターとしての顔に戻る。


「……緊急招集」


静はすぐに理解した。

「行く必要があるんですね」


「ええ。フォルツへ向かえば、領主管理の支配エリアコアがあります」

フレイアは立ち上がりながら言う。


手の動きは素早く、腰に挿した短剣の位置を確認する。

習慣的な動作だがその所作には緊張が滲んでいる。


「ギルドマスター権限で、王都まで直接転移可能です」


静は少し考え提案した。

「なら、フォルツ手前までなら送れます」


フレイアは驚き、すぐに小さく笑った。

「……本当に、規格外ですね」


だが、すぐに表情を正す。

全身に緊張が走る。

何が起きているのか、まだ詳細は分からない。

だが、緊急招集の重さは十分に理解している。


「……お願いします」


静は頷いた。


◆◆◆


静がステータス経由で転移の準備を行う。

淡い光が足元に広がり、空間がわずかに歪む。


屋敷の中にはこの光も久しい。

静がこの力を使うのは、仲間を思って使うときだけだ。


「また、必ず会いましょう」

フレイアは静を見て言った。


「次は……もう少し、落ち着いた状況で」

静は微笑んだ。

その笑い方は、いつもと同じ穏やかなもの。

世界がどう動いていようと、この人の表情は変わらない。


「その時は、またご飯作りますよ」


フレイアは思わず小さく笑った。

「……ええ、それを楽しみにしています」


その言葉には本心がある。

昨夜の食事の味と温もりが、まだ胸の奥に残っている。


光が弾け、フレイアの姿が消える。

残された屋敷には、再び静かな空気が戻った。


セリナが少し心配そうに窓の外を見る。

ツキは静の足元で何事もなかったように伸びをしている。

あかねも静かにフレイアが消えた場所を見つめていた。


「……静様」


セリナが、少し抑えた声で言う。

「大丈夫……ですよね?」


静は少し考え、穏やかに答える。

「……分からない。でも」


彼は足元にいる二つの小さな存在を見て、静かに続けた。


「ここは、変わらないよ」


だが誰もが感じていた。

世界が――確実に動き始めていると。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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