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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第七章 静かな日常が世界に届く

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第八話  朝の食卓と語られる違和感

朝の屋敷は柔らかな光に包まれていた。


食堂には焼き立てのパンと温かなスープの香り

昨日までの緊張が嘘のように、穏やかな時間が流れている。


窓から差し込む朝日がテーブルの上を優しく照らしていた。

フレイアは席につきながら、内心で小さく息を吐く。


(……この落ち着き方、やっぱり普通じゃない)


昨夜、あれほど考え事をしていたはずなのに

目覚めた瞬間には心が軽くなっていた。

まるでこの屋敷そのものが疲れを癒してくれるかのように。


足元ではツキと淡い夕日色の小さな生き物――

あかねが並んで歩いている。


あかねはまだ少しおぼつかない足取りだが、昨日より確実に安定していた。

小さな足音が食堂の床に軽やかに響く。


「……成長、早いですね」

セリナが微笑むと、ツキは誇らしげに「にゃ」と鳴く。


まるで自分が育てているとでも言いたげに

あかねも小さく鳴き返し尻尾を揺らした。


フレイアはその様子を見つめながら思う。

(珍しい生き物ではあるけれど……少なくとも危険な気配は感じない)


むしろ、穏やかで、無邪気で、愛らしいとさえ思える。

だが――

――問題はそこじゃない


問題はこの存在が何者なのか

そして、なぜここにいるのか


◆◆◆


朝食が一段落した頃、フレイアは静かに背筋を正した。


「……静さん」


その声に食卓の空気がわずかに引き締まる。

アリアたちも自然と姿勢を正した。


「いくつか確認させてほしいことがあります」


静は頷き、穏やかな表情のままフレイアを見る。


「どうぞ」


フレイアは言葉を選ぶ

これは尋問ではない

ただ、事実を確認したいだけ


「まず前提として――今、教会と各国、冒険者ギルドの上層部では」


一呼吸置いて続ける


「『伝承や古文書にある《守護竜》の存在』を前提にした推測が広がっています」


アリアが小さく眉をひそめる。

「……でも、誰も実物は見ていない」


「ええ。確認された事実はほとんどありません」

フレイアは頷いた。


「異常な魔力反応と

 『何かが生まれた可能性がある』という情報だけ」


「そこから皆が勝手に想像を膨らませている状態です」


リーナが腕を組んで低く言う

「情報が少なすぎるから、憶測が一人歩きしてるってわけね」


「その通りです」

フレイアは苦い表情で頷く


「各地で調査隊が派遣され、報告が上がっていますが……

 どれも決定打に欠けています」


ミレイアは足元のあかねに目を向ける。

あかねはパンの欠片をじっと見つめているだけだった。

興味はあるけれど、食べてもいいのか分からない

といった様子で首を傾げている。


「……少なくとも、この子からは」

ミレイアが静かに言う。

「その手の"脅威"は感じませんね」


フレイアも同意する。

「私もです。だからこそ――」


彼女は視線を上げ、静をまっすぐ見た。

「私が本当に気になっているのは

 ……別の点です」


◆◆◆


フレイアは一拍置き、核心に踏み込んだ。


「《ルミナ・ヴェール》の四人は

 教会とルミエール王国が連名で進めている『観測者案件』に関わる人員です」


アリアたちは無言で頷く

その事実は彼女たちも理解している。


「その四人が、現在……」


フレイアははっきりと言った。


「『静さんの専属護衛』のような立場で行動している

 ……それが私には不自然に見えます」


静は少し驚いたように目を瞬かせる。

「護衛、というか……

 街に行くための表向きの設定、ですね」


フレイアは静かに続きを促す


「ええ。それは分かっています

 でも、周囲から見ればどう見えるか――」


彼女は言葉を選びながら続ける。

「観測者案件の中核にいる四人が、一人の人物に常に付き従っている」

「それはつまり」


フレイアは静の目を見て言った。


「『その人物こそが、案件の主ではないか』

 そう疑われてもおかしくない、ということです」


食堂に静けさが落ちる

窓の外から、鳥のさえずりが聞こえる。

それだけがこの沈黙を破る唯一の音だった。


フィアが少し不安そうに静を見る。

リーナは腕を組んだまま、静かに思考を巡らせている。


◆◆◆


静はしばらく考え込み、やがて口を開いた。


「……俺は、特別なことをしているつもりはないよ」

「ただ、ここで皆と暮らしてるだけ」


その声はいつもと変わらず穏やかだった。

作られた言葉ではなく心からの本音。


「この場所も、この子達も……」

そう言って、ツキとあかねの頭をそっと撫でる。


あかねはくすぐったそうに身をよじり、ツキの陰に隠れた。

ツキは「にゃ」と鳴いて、あかねを優しく受け入れる。


フレイアはその様子を見て内心で思う。


(やっぱり……この人自身が『異質』なのよ)


強大な力を持っているわけではない。

威圧感もない。

その存在そのものが、何かを引き寄せている。


「今のところ、私は結論を出すつもりはありません」

フレイアは穏やかに言った。


「ただ――」

彼女は言葉を選ぶ


「この状況は、いずれ必ず注目されます」

「教会も、王国も、他国も。皆が、この場所に目を向けるでしょう」

「だからこそ、何か変化を感じたら、どんな小さなことでも、教えてください」


静は迷わず頷いた。


「分かりました。約束しますよ」

その返答に嘘はなかった。


フレイアはそれを感じ取る。

「ありがとうございます」


フレイアは小さく息を吐き、表情を緩めた。

「……正直に言えば、私もまだ整理がついていません」

「この屋敷のこと。支配エリアのこと。あの小さな存在のこと」


彼女は少し苦笑する。

「でも、一つだけ確信していることがあります」


「それは?」

静が問い返す。


「静さんは、悪意を持っていない」

フレイアははっきりと言った。

「それだけは、確かです」


アリアが安堵したように微笑む。

ミレイアも柔らかく頷いた。


朝の光は変わらず食堂を照らしている。


世界が探している『何か』と

ここにいる静という人物


フレイアはまだ確信を持てずにいたが――

違和感の中心が静にあることだけは、はっきりしていた。


そして同時にその違和感が『脅威』ではないことも


(この人は……世界を壊そうとはしない)


それがフレイアの出した、今の時点での答えだった。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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