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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第七章 静かな日常が世界に届く

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第四話 泉の恵みと、やさしい昼下がり

朝食を終えた屋敷はゆったりとした空気に包まれていた。

静はいつものように全員の様子を一通り見渡し確認する。


アリアたちも準備を整え

今日もいつもと変わらない一日が始まろうとしていた。


「それじゃ、行こうか」


転移先は以前に見つけていた泉近くの支配エリアコア

淡く光る転移陣が立ち上がり、屋敷の空気が一瞬だけ揺らぐ。


光が収束し次の瞬間には、一行は泉の近くへと転移していた。

泉の周辺は朝の光を受けて穏やかに輝いていた。


《ルミナ・ヴェール》の四人は、それぞれ簡単な打ち合わせを済ませる。


「遺跡の外縁を中心に、周辺確認ね」

アリアが言い、リーアとミレイアが頷く。

今日の探索はあくまで安全確認が目的だ。


フィアは背負い袋を軽く叩いた。

「お弁当もあるし、ちょうどお昼までだね」


静は笑って手を振る。

「おやつの時間くらいに迎えに来るよ。無理はしないで」


そうして探索班と食材探し班は自然に分かれた。

アリアたちは遺跡の方へ、静とセリナは森の方へと向かう。


森へ向かう道すがら

静の前を、ツキとあかねが並んで歩いている。


「にゃ」

ツキは周囲を確認しながら、時折あかねの方を振り返る。

まるで危険がないかを常に警戒しているかのようだ。


「きゅ」

短い足で一生懸命ついてくるあかねは、気になるものがあるたびに

立ち止まりそうになる。


珍しい花、動く虫、風に揺れる葉

どれもがあかねにとっては興味深いものばかり。


そのたびにツキがそっと体を寄せて、進行方向へ促す。

――ちゃんとついてきなさい

そんな雰囲気だった。


「ふふ……」

セリナはその様子を見て、思わず微笑む


「もうすっかり、お姉さんですね」


「にゃ」

当然、と言わんばかりの返事

ツキは誇らしげに尻尾を揺らした。


森の中はひんやりとした空気に満ちていた。

木々の間から差し込む光が、地面に美しい模様を描いている。

鳥のさえずりが遠くから聞こえ、風が優しく吹き抜けていく。


「……あ、これ」

静が足を止める。


苔むした倒木の影、そこに肉厚で艶のあるキノコが群生していた。

傘は茶色で表面には細かな白い斑点がある。


「美味しそうだね」


「はい。これは食用で間違いありません」

セリナが丁寧に確認する。


キノコは種類によっては毒性があるため、慎重に見極める必要がある。


「香りも良いですし……焼くか、卵と合わせても良さそうですね」


静の目が少しだけ輝いた。

「キッシュ、作れるかな」


「ええ。きっと合います」


ツキも鼻を近づけて、くん、と匂いを嗅ぐ


「にゃ」

合格らしい。


静は慎重にキノコを採取し、籠に入れていく。

大きすぎず、小さすぎず、ちょうど良いサイズのものを選んでいく。


少し先へ進むと、今度は白くて小さなキノコが見つかった。

「これは……ルミナリーフですね」

 スープに入れると、良い出汁が出ますよ」


「じゃあ、これも採っておこう」

静が籠に入れていると、あかねが少し離れた場所で立ち止まっていた。


「きゅ、きゅ」

前足で地面を軽く叩いている。何かを見つけたらしい。


「あかね? どうしたの?」

静が近づくと、あかねは嬉しそうに尻尾を揺らし

自分の前にある小さなキノコを見せた。


黄色がかった、可愛らしい形のキノコ。


「きゅ!」

まるで「これはどう?」と聞いているかのような仕草だ。


セリナが近づいて確認する。

「これは……ゴルドヴェイルですね。

 食用ですが、焼くと少し苦みがあります」


「でも、炒めると香りが立つタイプかな?」


「はい。油で炒めると、苦みも消えてとても良い香りになりますよ」


静はあかねの頭を撫でた。

「よく見つけたね、あかね」


「きゅ♪」

あかねは嬉しそうに鳴きツキを見上げた。


ツキは少し考えてから、小さく鳴いた。

「にゃ」

――よくやった

そんな風に聞こえた。


さらに森を進むと、太い木の根元に傘が大きく開いたキノコが生えていた。


「これは立派ね……」

セリナが感心したように言う。


「ランブルキャップです。肉厚で、食べ応えがありますよ」


「これは焼いて、そのまま食べても美味しそうだ」

静が採取していると、今度はツキが少し離れた場所へ向かった。


「にゃ」

呼んでいる

静が近づくとツキは前足で苔をそっと払っていた。

その下には、小さな白いキノコが隠れていた。


「これは……」

セリナが目を細める。


「中々見つからなくて露店でも滅多にない珍しいキノコですよ。

 ルミエールスプラウトと言って香りがとても良くて、スープに最適なんです。」


「凄いな、そんな珍しいキノコをツキは見つけてくれたんだね」

静が微笑むとツキは得意げに胸を張った。

「にゃ」


あかねも嬉しそうに、ツキの隣に座る。

「きゅ」

二匹とも誇らしげだ。


「ツキもあかねも、ありがとう」

静は二匹の頭を撫でた。


こうして、籠の中には様々な種類のキノコが集まっていった。

それぞれに個性があって、いろんな料理に使えて美味しそうだ。


さらに泉の近くへ進むと、低木に小さな果実が実っているのが見えた。

淡い赤紫色で、表面に朝露が残っている。

朝日に照らされて、宝石のように輝いていた。


「あれは……」

セリナが思い出すように言った。


森果しんかの一種ですね。『リュミナベリー』と呼ばれています」


「どんな味?」


「甘酸っぱくて、後味がさっぱりしています。そのままでも食べられますが……」


静は少し考えた。

「ジュレにしたら、良さそうだ」


「……!」

セリナの表情が、ぱっと明るくなる。


「とても良いと思います」


あかねは実を見上げて小さく鳴いた。

「きゅ……」


今にも食べたそうだ。

大きな瞳が実をじっと見つめている。


ツキはすぐに気づき、あかねの前に立つ。

「にゃ、にゃ」

――だめ


そして、ちらりと静を見る。


静は少し考えてから、指を一本立てた。


「一個だけね、あんまり食べるとおやつが食べれなくなるよ」


ツキは理解したのか、器用に一粒だけ実を取る。

「にゃ」

あかねの前に置く


「きゅ!」

嬉しそうに頬張る姿を、皆が温かく見守っていた。

あかねの幸せそうな表情を見て、静もセリナも自然と笑顔になる。


昼前には屋敷へ戻り、昼食を軽く済ませ

そのまま調理に取りかかる。


キノコは丁寧に刻まれ、卵と生地と合わせてオーブンへ。

果実は丁寧に潰され、砂糖を加えて火にかけ

透き通ったジュレへと姿を変える。


部屋に香ばしさと甘酸っぱい香りが広がった。

ツキとあかねは、その香りに誘われて

キッチンの近くでじっと待機している。


完成した料理はまず礼拝堂へ持って行きお供えする事にする。

籠に丁寧に入れられたキノコのキッシュと

小さな器に分けた果実のジュレが静かに置かれる。


「今日も、無事に過ごせました」

セリナの祈りはいつもと変わらず、穏やかだった。

心を込めて女神への感謝を捧げる。


その間に静は《ルミナ・ヴェール》の四人を迎えに向かい屋敷へ戻る。


「いい匂い……」

フィアが真っ先に反応した。


皆で囲む食卓

キッシュは好評でジュレは食後の口直しにぴったりだった。


「……やっぱり、静の作る料理は落ち着くわね」

アリアがそう言うと、誰も否定しなかった。


ツキは得意げに胸を張り、あかねは満足そうに丸くなる。

その光景は、世界がどんなに騒がしくなっていても――

ここだけは、変わらない日常だった。


遠く離れた王都では各国の代表者たちが

焔守護竜について議論を重ね会議が行われていた事など

静達は知らない。

その緊張感も届いていない……


ここには穏やかな時間が流れている。

いつもと変わらない日常があった。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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