第一話 遠くで告げられた焔の名
ルミエール王国王都
白い石畳と赤銅色の屋根が整然と並ぶその中心に
ひときわ荘厳な建造物がそびえていた。
《炎輝聖殿》
火属性神フレアリアを祀る、王国最大の神殿である。
その奥、神託の間
朝の祈りを終えたばかりの聖女たちは
次の務めに移ろうとしていた。
――その瞬間
空気が揺らいだ
熱でも光でもない
それでも確かに
『炎が灯る』気配があった。
「……っ」
最年長の聖女が反射的に膝をつく
続けて他の聖女たちも胸を押さえ跪いた。
視界が淡い紅に染まり
言葉ではなく、意味だけが流れ込んでくる。
――神託
『炎晶の焔守護竜が、生まれた』
その一文に聖女たちは息を呑む
『それは、争いのために在らず』
続けてはっきりと
『探すな、呼ぶな、害するな、ただ、知れ』
それだけを残し
気配はすっと消えた
静寂
数拍の後
一人の聖女が震える声で呟く
「……焔、守護竜……」
「伝承では……守護竜は存在します。
ですが『焔』と属性を伴うものは……」
「……記録に、ありません」
互いの顔を見合わせる。
誰もが理解していた。
これは――
教会の内側だけで留めてよい神託ではない。
「至急、大神官へ」
その声を合図に
聖女たちは慌ただしく動き出した。
◆◆◆
一方静達
畑の土はよく耕されていた。
朝露を残した葉の間で
赤く艶やかな実がいくつも揺れている。
「……きゅ」
小さな鳴き声が聞こえる
あかねがじっとその実を見上げている。
興味津々といった様子で
一歩、前に出た。
「にゃ」
すぐにツキが前足を出して制止する。
声は強くない
けれど、はっきりとした調子だった。
「にゃ、にゃ」
――だめ
――まだ
あかねは一瞬きょとんとしてから
しょんぼりと耳を下げる。
その様子を少し離れたところから静たちが見ていた。
ツキはちらりと静の方を見る。
静はくすっと笑ってから、小さく頷いた。
――いいよ
ジェスチャーだけでそう伝える
ツキは一瞬考え畑の端へ移動する。
慎重に
本当に慎重に
そして前足を器用に使い
美味しそうな赤く熟した実を一つだけもぎ取る
「にゃ」
――ひとつだけ
あかねの前にそっと置く
「……きゅ!」
嬉しそうな声
あかねは恐る恐る齧り
少し驚いたような顔をしてから、勢いよくぱくぱくと食べ始める。
果汁が口元を汚すがツキが優しくなめとってあげていた。
ツキは満足そうに胸を張る。
「……お姉ちゃん、してるね」
アリアが小さく笑う
「ええ
ちゃんと見回りも、判断もしてます」
セリナの声は柔らかい
少しふらついた拍子に、あかねがよろける。
「危ないよ」
静が思わず声を掛けるが……
ツキがすぐに前に出てあかねを支えた。
「にゃ」
――だいじょうぶ。
今日も屋敷の周辺は穏やかだった。
◆◆◆
《炎輝聖殿》上層部会議室
重厚な机を囲み
大神官を中心に幹部たちが集まっていた。
「過去の文献を洗い直しました」
一人が報告する
「守護竜の存在自体は、文献により確認されています。
地域守護、世界安定に関与する存在として……」
別の者が続ける
「しかし『焔』という属性を冠する守護竜は
一例も確認されていません」
室内に重い沈黙が落ちる
「それは……」
「単なる新種とは考えにくい」
大神官が、重く口を開いた。
「何らかの非常事態の兆候
あるいは世界構造の変化の可能性も考えられる……」
誰も否定しなかった。
「……教会中央監察局へ正式に報告する必要がある」
「国へも?」
「無論だ」
さらに大神官は続ける。
「冒険者ギルドにも通達が必要だ。
『焔守護竜』を討伐対象と誤認させてはならない」
間違えば神罰に直結する。
誰もがそれを理解し恐れている。
会議はより大きな判断の場へと移されることが決まる。
世界は確実に動き始めていた。
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