閑話 あたらしい、となり
ツキはまるくなっていた。
いつものふかふかの寝床
おひさまの匂いがするクッション。
でも、となりにある温もりは
いつもとちょっとだけ違う。
「……にゃ」
小さく鳴いて、ツキは片目だけをあけた。
となりには『あかね』がいる。
夕日の色をした、ちいさな、ちいさな体。
ツキだって、まだここに来てから少ししか経っていないけれど
あかねはそれよりもずっとずっと、ちいさかった。
寝ているあいだも、お腹が『ぺこ、ぺこ』とうごいている。
きゅぅ、とこぼれるような寝息がする。
ツキはじーっとそれを見た。
――うごいてる
――いきてる
――だいじょうぶ
なんだか不思議な気持ちになって、ツキは前足をのばした。
あかねの背中に、そっと『ぱふっ』と触れてみる。
ツキの肉球に伝わるのは、やわらかくて、とっても熱い、命の温度
あったかい。
「……にゃん」
ツキはちょっとだけ背伸びをして、胸をはった。
あかねは、まだよちよちだ。
歩こうとして『ころん』って転んじゃうし、
鳴こうとしても『きゅ』って、かすれた音しか出ない。
ツキから見ても、とっても『へたっぴ』
でも、それでもいい
だって――ツキは知っているから
はじめてこの家に来たとき
こわくて、わからなくて、ぷるぷるしていたとき
そのとき、ツキのことをやさしく撫でてくれた。
おっきな手が、とっても温かかった。
『だいじょうぶだよ』って声がして、怖いのをどこかに持っていってくれた。
だから
こんどは、ツキのばん
おひる、お屋敷がにぎやかになるとき
静がいい匂いのする『ごはん』を作って、トントンって音をさせるとき
セリナが優しく笑って、ツキの名前を呼んでくれるとき
窓の外で、風が「びゅー」って鳴って、知らない音がしたとき
あかねの耳がびくっと動いたら、ツキはすぐにそばに行く
「にゃ、にゃん!」
――だいじょうぶ
――こわくない
――わたしが、ここにいるからね
ツキだって、ちょっとだけ『びくっ』としちゃうけど
しっぽをピンと立てて、あかねのそば立つ
おねえちゃんだから、がまんする
夜になると、あかねのそばに戻る。
守ってあげるみたいに、くるんと丸くなって、しっぽをあかねに寄せてあげる。
あかねが、夢を見ているのか、もぞっと動いた。
「……きゅ、ぅ」
ツキはすぐに顔を近づけた。
静がツキを撫でてくれたみたいに、あかねの頭を『ぺろ、ぺろ』って舐めてあげる。
毛並みを整えてあげると、あかねが安心したようにまた眠った。
「にゃあ……」
――ここ、いっしょ
――ずっと、いっしょ
それがツキの精一杯の答えだった。
難しいことは、まだよくわからない。
でも、どうしてこんなにそばにいたいのか
その理由ならちゃんとわかる。
あったかくて、ちいさくて、まもりたいって思ったから。
ツキはゆっくりと目を閉じる。
あかねの寝息が、すぐそばで聞こえる。
――おねえちゃん
その言葉の意味はまだ半分くらいしかわからないけれど
その気持ちだけはツキの胸の中に
ぽっと、あたたかく育っていた。
静かな夜。
ちいさな姉妹が、同じ温もりに包まれながら
幸せな、幸せな、夢を見ていた。
イメージソングを作成してみました。
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物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。
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