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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第六章 静かな歩みと結ばれた縁

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閑話 甘い香りと少しのお願い

陽光に包まれた、美しい庭園。


見渡す限りに広がる緑豊かな庭には、色とりどりの花々が咲き誇り、穏やかな風が木々の葉を揺らしている。小鳥のさえずりが遠くから聞こえ、噴水の水音が静かに響く。その庭園の中でも、ひときわ美しく整えられた場所に、白い石造りのガゼボが佇んでいた。


そのガゼボの下で、二人の女性が向かい合ってティーカップを手にしていた。


ひと際目立つのはテーブルの中央にある

淡い紫色の果実を使ったアメシリアのタルト。

焼き上げられた生地から立ちのぼる、甘くやさしい香りが辺りを満たしている。

果実の果汁が艶やかに光り、見た目にもとても美しい。


フレアリアは一口頬張り、嬉しそうに目を細めた。

「姉さん……この間の焼き菓子も良かったけど

 このアメシリアのタルトも本当に美味しいわ」


姉はカップを口元に運び、静かに微笑む。

「そうよね、アメシリアのタルトというみたいだけれど……

 見た目もきれいで香りも良くて、素敵なお菓子ね」


フォークを置き、少しだけ感慨深そうに続ける。

「甘さが強すぎないところも、あの子達らしいわ」


「そうなのよ!」

フレアリアは身を乗り出す。


「派手じゃないのにとても幸せな味がするの。

 食べると自然と気持ちが緩むっていうか……ホッとするっていうか……」


その言葉には純粋な喜びが込められていた。

美味しいものを食べる幸せ。それはどんな存在にとっても、かけがえのないものだ。


楽しそうに会話しながら姉妹はタルトを味わった。


小鳥の声と茶器の触れ合う音だけが響く。

風が優しく吹き抜け、花々の香りが混ざり合い

穏やかで温かな時間がゆっくりと流れている。


やがて、フレアリアがぽつりと呟く。

「……姉さんはいいなぁ」


姉が視線を向ける。


「あんなに料理上手な二人がいて

 前にも言ったけど……やっぱりうらやましいなぁ」


姉は少しだけ苦笑した。

「あの二人が料理上手だったのは偶然よ?

 私が目を掛けていたのは"生き方"であって、料理の腕ではなかったもの

 だから結果的に、よ?」


フレアリアは頬杖をつく。

「おいしいものが定期的に届くんだもの。それってもう運命としか思えないわ」


「……運命、ね」

姉は肩をすくめる。確かに結果的にはそうなっているのかもしれない。

でも、それは決して意図したものではなかった。


少し間を置いて

フレアリアはちらりと様子をうかがうように言った。


「ねえ、姉さん。

 私も……あの二人と縁を結べたら、何か送ってもらえたりすると思う?」


姉の表情が、ほんの少しだけ引き締まる。


「直接的なのは駄目よ」

きっぱりと伝える


「あの子たちは私が見ている存在。

 無理に何かをさせようとか、見返りを求めるような関わり方はしてほしくないわ」


その声には確かな意志が込められている。

静やセリナを守りたいという、優しい想いが滲んでいる。


「……分かってるの

 分かってるんだけど……やっぱりそうよね」

フレアリアはしょんぼりと肩を落とす。


少し考え込んでから、ぱっと顔を上げた。

「じゃあ、こういうのはどう?」


姉が首を傾げる。


「『うちの子』を、気に入ってもらうの」


「……うちの子?」


「そう!」

フレアリアは楽しそうに言う。


「特に何かするわけじゃないの。可愛いから一緒に居るだけ。

 それだけなら直接的な干渉じゃないでしょ?」


姉は少し考え込む。


「あの子たちも……周りの子たちも

 可愛い存在は好きみたいだし……」


ため息混じりに続けた。

「特に何もしない、無理やり関わらせない

 その条件なら……」


姉は、指を一本立てる。

「ただし、受け入れるかどうかは、あの子たち次第よ?」


「うん、もちろん!」

フレアリアは勢いよく頷いた。


「無理やりなんて、絶対にしないわ。

 こんなに美味しいもの分けてもらってるし……」


フォークを手に取り、にこりと笑う。

「ちょっとした癒しをお返しするくらいのつもりだもの」


そして、どこか楽しそうに付け足した。


「ちょうどね、近くにまだ眠っている子がいるの。

 その子にも、今の私の様に幸せを感じてほしいし♪」


姉は、呆れたように、けれど優しい目で妹を見つめた。


「……もう、フレアリアは本当にしょうがないわね」

苦笑しながらも、声は柔らかい。


「何度も言うけど、無理やりは駄目よ。

 二人が自然に受け入れたなら……それは、それでいいけれど」


「ありがとう、姉さん」

フレアリアは嬉しそうに笑った。


二人は再びティーカップに手を伸ばす。


甘い香りが、園に満ちていく。

温かな紅茶と、アメシリアのタルトの香りが混ざり合い

幸せな空気を作り出している。


姉はタルトを一口食べながら静かに呟いた。


「……本当に、不思議な縁ね」


フレアリアは頬を緩めたまま答える。

「ええ。でも悪くないと思わない?」


陽光は穏やかで、庭園には変わらぬ静けさが流れていた。


その小さな"お願い"が

すでに叶い始めていることを――


やがてどのような形で、この姉妹の想いと繋がっていくのか。

この二人だけがまだ知らないまま――


確かなのは、この穏やかな午後の会話が

新しい出会いへと繋がっていくということだけだった。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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