第八話 そのまま連れて帰る理由
静は小さく息を吐いた。
「……持って帰った方がいいのかな?」
それは決断というより、確認……
卵を抱えたまま、静は小部屋を出る。
境界は何事もなかったかのように静を通す。
外にいる皆が同じ場所に足を踏み入れようとしても
やはり何も触れられなかった。
「……本当に静だけなんだね」
フィアが呟く
「選ばれた、というより……」
リーアが言葉を探す
「……通れてしまった、だけ?」
その表現に誰もが納得した
特別な資格があったわけではない。
静だけがこの場所に入ることを許された。
それが何を意味するのか、まだ誰にも分からない。
アリアは静に視線を向けた。
「……連れて帰るのね」
静は頷いた。
「ここに、このまま置いていくのは……なんだか可哀想な気がするから」
その言葉に誰も反論しなかった。
リーアが腕を組んで小さく頷く。
「確かに……放っておいていいもの……には見えないわね」
「ええ」
ミレイアも続ける。
「敵意も拒絶も、変質もない。
それでも"在る"という事実だけが、はっきりしています」
フィアは少し困ったように笑った。
「普通さ、こういうのって物語なんかでは……
『持って帰ると大変なことになる』 か
『放っておくと世界が危ない』
かのどっちかじゃない?」
「そうね」
アリアが同意する。
「でもこれは……どちらでもなさそうね」
ツキが静そばに来て鳴く
「にゃ」
まるで「大丈夫」そう言っているようだった。
アリアは静を見つめてから頷く。
「分かった。なら、護衛は私たちが責任を持つわ
屋敷に戻った後も様子を見ましょう」
ミレイアが静かに言う。
「何も起きない可能性も高いですから」
「それが一番良いんだけどね~」
フィアが肩をすくめる。
「でも……静らしい選択だと思うよ」
帰り道は行きよりも静かだった。
緊張が解けたわけではない。ただ、考えることが増えただけだ。
ツキは卵のそばから離れない。
歩調を合わせ、時折立ち止まり、問題がないことを確かめるように鳴く。
「にゃ」
「うん、ちゃんとあるよ」
静が応えると、ツキは満足そうに尾を揺らした。
近くの支配エリアコアへ戻り、屋敷へと転移する。
扉をくぐった瞬間、卵の温度がほんの少しだけ変わった気がした。
「……?」
静は立ち止まる。
熱くなったわけでも、冷えたわけでもない。
ただ――空気に馴染んだ。
「屋敷の魔力循環と調和していますね」
ミレイアが静かに言う。
「拒否反応も拒絶もない。……ここを嫌がっていません」
静は答えずただ卵を見下ろし
そっと用意してあったテーブルの上に置く。
卵は何も起こさない。音も、光も、変化もない。
ただそこに在る。
静は深く息を吸ってから言った。
「……名前とか、まだ考えなくていいよね」
「ええ、まずは一緒に過ごしてみましょう」
セリナが微笑む。
ツキが卵の隣に丸くなり鳴く。
「にゃ、にゃ」
まるで「私に任せて!」 そう言っているみたいだった。
世界は何も語らない。
神も沈黙したままだ。
それでもこの日常の中に、確かに一つ新しい『在り方』が加わった。
それが何をもたらすのかは、まだ誰にも分からない。
――けれど
少なくとも今は、それを恐れる理由はどこにもなかった。
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