第六話 歩幅のまま、奥へ
危険な調査のはずなのに、まるで遠足のような昼下がりだった。
泉のそばで簡単に片付けを済ませると、自然な流れで歩き出した。
穏やかな午後の散歩を続けるかのように、足を進めていく。
「じゃあ……このまま、少しだけ奥を見てみようか」
静のその一言は、提案というより、散歩の続きを確かめるような響きだった。
重々しさも、緊迫感もない。次の場所へ向かおうという、軽やかな言葉だった。
「ええ。無理はしない範囲で」
アリアが頷く。
リーアも、ミレイアも異論はない。
フィアは肩を回しながら、軽い調子で笑った。
「遺跡って言っても、今日のところは"見学"くらいでいいよね」
そんな会話の足元を、ツキが先に歩いていく。
「にゃ」
いつも通りの鳴き声。けれど、歩く方向には不思議と迷いがなかった。
まるで道を知っているかのように、一定のリズムで足を進めていく。
しばらく進んだところで、静がふと足を止める。
歩きながら、目に留まった草を指差した。
「ねえ、あれ……見たことない葉っぱだ」
葉先が細く、縁が淡く赤い。
日光を受けると、うっすらと金粉を散らしたように光っている。
風に揺れるたびにきらきらと輝く様子は、まるで宝石のようだった。
セリナが近づき、そっと指で触れた。
「……あ、これは『サンリュミエ草』かもしれません。
乾かして香り付けに使う地方もあると聞いたことがあります」
「香り付け?」
「はい。煮込みに少し入れると、甘いような、温かいような香りになるとか」
静の目が、ほんの少しだけ輝いた。
「それ、面白そう。少しだけ持って帰ってもいいかな」
「もちろんです。採りすぎないようにだけ」
ミレイアも頷く。
「薬草としての効能もあるかもしれません。あとで調べてみましょう」
フィアはしゃがみ込み、茎の根元を覗いてから言った。
「へぇ~、静ってさ
危ないものより、食べられそうなものに目が行くよね」
「だって、そっちの方がわくわくするじゃん」
そのやり取りにアリアの表情が少しだけ柔らかくなる。
普段は冷静で、常に周囲を警戒している彼女も
こうした穏やかな会話には、わずかに心を許しているようだった。
サンリュミエ草を少量採取し、歩みを再開する。
遺跡の方角へ向かうにつれ、地面は少しずつ硬くなっていった。
草が減り、露出した石が増え、風の匂いも変わっていく。
――古い乾いた匂い。人の手が触れた時間の残り香。
「そろそろ、遺跡の外縁ね」
アリアが言った。
視界の先、森の奥に崩れた石壁が見え始めている。
建物というより、地形の一部のように沈黙していた。
時の流れに削られ風化し、それでもなお形を留めている。
その存在感は静かで、重い。
「思ったより、静かだね」
フィアが小さく呟く。
「呪いや魔力の澱も、今のところ感じないわ」
リーアが周囲を見渡す。
弓を構える準備はできているが、今のところその必要はなさそうだった。
静はステータスマップを開き、目的の位置を再確認した。
「休止中のコアは……この辺りのどこか、だね。
遺跡の"中"っていうより、近くにある感じ」
「なら、あまり奥へ入らなくて済みそうですね」
ミレイアの言葉に、皆が頷く。
探索ではなく、あくまで延長。日常の歩幅を、少しだけ伸ばす程度。
その時――
「……にゃ」
ツキが立ち止まった。
鳴き声は小さく、短い。
いつもの案内役の調子に似ているのに、どこか違う。
普段よりも少しだけ、緊張しているような、そんな響きがあった。
「ツキ?」
静が呼ぶと、ツキは一度だけ振り返り、すぐに前を向いた。
「にゃ、にゃ」
まるで、「着いてきて」と言っているかのように。
崩れた石壁の脇。草に隠れた、細い道
誰もが気づかず通り過ぎてしまいそうな場所だった。
石と草が絶妙に重なり合い、まるで自然の一部のように見える。
よく見れば、そこには確かに人の手で作られた道の痕跡があった。
静は自然とその後を追った。
《ルミナ・ヴェール》の四人も、黙ってその後に続く。
警戒はしているが、構えてはいない。
ツキを信頼しているからこそ、この静かな歩みが続いている。
遺跡の『中』に足を踏み入れているはずなのに、歩幅も、呼吸も、まだ変わらない。
ただ――何かが、少しずつ近づいている。
それだけが、確かだった。
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物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。
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