第五話 案内役は得意顔
翌朝
屋敷には、いつもより少しだけ早い時間から人の気配が満ちていた。
リビングでは、《ルミナ・ヴェール》の四人が装備の最終確認をしている。
アリアは地図と方位磁針を見比べながら、指でなぞって位置を確かめていた。
リーアは矢筒の留め具を一つずつ点検し
ミレイアは回復薬と結界用具を丁寧に整えている。
そして――
「よし、これも入れたし……これで全部かなっと」
フィアでさえ、今日は珍しく真剣な顔つきだった。
いつもなら「だいじょーぶだって!」と笑って済ませるところを、今朝は違う。
「遺跡だもんねぇ……さすがに油断できないよ」
軽い口調ながら、動きに無駄はなかった。
その様子を見て、アリアは小さく頷いた。
「……本当に、準備は怠らないのね」
「へへ、上級冒険者ですから♪」
そう言って笑うフィアの顔は、どこか誇らしげだった。
一方その頃――
キッチンでは、まるで別世界の空気が流れていた。
「えっと……こっちは焼いて、こっちは包んで……」
静とセリナは並んで立ち、朝からお弁当作りに取りかかっている。
危険な探索に向かうとは思えないほど、穏やかで楽しげな光景だった。
「今日は少し歩きますし、食べやすいものがいいですね」
「うん。おにぎり多めにしようか」
そんな二人の足元には――
「にゃぁ」
小さな黒い影が、ちょろちょろと行き来していた。
ツキである。
台の下を行ったり来たりしながら、ときおり顔を上げては鳴く。
まるで……
――それも入れて!
――次はこっちね!
と指示しているかのようだった。
「……ツキ、ずいぶん忙しそうだね」
静が苦笑すると
「にゃぁ」
ツキは胸を張るように鳴いた。
「監督みたいですね?」
セリナがくすりと笑う。
「ちゃんとツキの好きなものも入れてありますよ」
「にゃ!」
満足そうに尻尾を揺らすツキ。
「わかった、わかったよ」
静はしゃがみ込み、ツキの頭を軽く撫でた。
「ちゃんと働いてるもんね」
ツキは誇らしげに喉を鳴らした。
こうして、冒険者側は万全の装備を
屋敷側は万全のお弁当を
それぞれ準備を整え、一行は近くの支配エリアコアへと転移した。
◆◆◆
転移先は、緩やかな丘陵が広がる静かな土地だった。
静はいつものようにステータスマップを開き、大まかな位置を確認する。
「この辺りに……休止中のコアがあるはずなんだけど」
《ルミナ・ヴェール》の四人は自然と陣形を組み、周囲を警戒する。
その横で――
「にゃぁ」
ツキは、まるで散歩に出た子猫のように軽やかに歩き出した。
ときおり振り返っては
「にゃ、にゃ」
――こっちだよ
と言わんばかりに鳴く。
「……案内役、今日もやる気だね」
静が微笑む
アリアは小声で言った。
「本当に、不思議な光景ね……」
前回フォルツ側へ進んだ時と同じく、魔獣の気配がまったくない。
「おかしいくらい静かだわ」
リーアが周囲を見渡す。
「普通なら、この距離を歩けば何度か遭遇戦があってもおかしくないのに」
「やっぱり……」
ミレイアが静かに続けた。
「このエリアそのものに、何か特別な力が働いているのかもしれないわね」
フィアはツキを見てにやりとする。
「女神さまの加護とツキ、最強説?」
「にゃ?」
名前を呼ばれた気がして、ツキは首を傾げた。
その仕草に、張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らぐ。
◆◆◆
やがて小さな泉が見えてきた。
澄んだ水が静かに湧き出し、周囲には草花が揺れている。
その縁に差し掛かった時――
「にゃぁ!」
ツキが急に速度を上げ、泉のそばの岩陰へと向かった。
「ツキ?」
静が後を追うと、そこに――
淡く光る小さな結晶体が、ひっそりと浮かんでいた。
「……あったね」
静は思わず微笑む。
休止中の支配エリアコアだった。
「にゃ~、にゃ、にゃ」
ツキは振り返り、得意げに静を見上げる。
――どう?あったでしょ?
と言わんばかりだ。
「すごいな、ツキ」
静はしゃがみ込み、頭を撫でた。
「えらいぞ」
「にゃぁ」
セリナも微笑む。
「本当に、ツキはすごいですね」
小さなおやつを差し出すと、ツキは嬉しそうに受け取った。
アリアたちは顔を見合わせ苦笑する。
「普通、支配エリアコアって……」
「こんな簡単に見つかるものじゃないわよね」
「私たち、感覚が麻痺してきてないかしら」
◆◆◆
ちょうど昼時でもあり、一行は泉のそばで休憩を取ることにした。
静とセリナが手際よくお弁当を広げる。
今日はおにぎりが中心だ。
「いただきまーす!」
真っ先にフィアがかぶりついた。
「おいし~! このおにぎりって不思議よね」
「具を変えるだけで、全然違う料理になるし!」
アリアも頷く。
「このお米、ほんのり甘くて……どんなおかずにも合うわね」
リーアは感心したように言う。
「調理次第で何にでもなるなんて、まるで魔法みたい
私はかなり好きよ」
ミレイアも静かに微笑む。
「私の森でも見たことがありませんでした
とても興味深い穀物ですね」
その中央で――
「にゃぁ」
ツキはなぜか誇らしげに鳴きながら、おにぎりを頬張っていた。
自分が作ったわけでもないのに
皆がそれを見て、自然と笑顔になる。
危険な調査のはずなのに、まるで散策のような昼下がりだった。
だがその静けさこそが、何よりも異質であることを――
まだ誰も口にはしなかった。
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