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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第六章 静かな歩みと結ばれた縁

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第五話 案内役は得意顔

翌朝

屋敷には、いつもより少しだけ早い時間から人の気配が満ちていた。


リビングでは、《ルミナ・ヴェール》の四人が装備の最終確認をしている。


アリアは地図と方位磁針を見比べながら、指でなぞって位置を確かめていた。

リーアは矢筒の留め具を一つずつ点検し

ミレイアは回復薬と結界用具を丁寧に整えている。


そして――


「よし、これも入れたし……これで全部かなっと」


フィアでさえ、今日は珍しく真剣な顔つきだった。

いつもなら「だいじょーぶだって!」と笑って済ませるところを、今朝は違う。


「遺跡だもんねぇ……さすがに油断できないよ」

軽い口調ながら、動きに無駄はなかった。


その様子を見て、アリアは小さく頷いた。

「……本当に、準備は怠らないのね」


「へへ、上級冒険者ですから♪」

そう言って笑うフィアの顔は、どこか誇らしげだった。


一方その頃――


キッチンでは、まるで別世界の空気が流れていた。


「えっと……こっちは焼いて、こっちは包んで……」


静とセリナは並んで立ち、朝からお弁当作りに取りかかっている。

危険な探索に向かうとは思えないほど、穏やかで楽しげな光景だった。


「今日は少し歩きますし、食べやすいものがいいですね」


「うん。おにぎり多めにしようか」


そんな二人の足元には――


「にゃぁ」


小さな黒い影が、ちょろちょろと行き来していた。

ツキである。


台の下を行ったり来たりしながら、ときおり顔を上げては鳴く。


まるで……

――それも入れて!

――次はこっちね!


と指示しているかのようだった。


「……ツキ、ずいぶん忙しそうだね」

静が苦笑すると


「にゃぁ」

ツキは胸を張るように鳴いた。


「監督みたいですね?」

セリナがくすりと笑う。


「ちゃんとツキの好きなものも入れてありますよ」


「にゃ!」

満足そうに尻尾を揺らすツキ。


「わかった、わかったよ」


静はしゃがみ込み、ツキの頭を軽く撫でた。

「ちゃんと働いてるもんね」


ツキは誇らしげに喉を鳴らした。


こうして、冒険者側は万全の装備を

屋敷側は万全のお弁当を


それぞれ準備を整え、一行は近くの支配エリアコアへと転移した。


◆◆◆


転移先は、緩やかな丘陵が広がる静かな土地だった。


静はいつものようにステータスマップを開き、大まかな位置を確認する。

「この辺りに……休止中のコアがあるはずなんだけど」


《ルミナ・ヴェール》の四人は自然と陣形を組み、周囲を警戒する。


その横で――


「にゃぁ」

ツキは、まるで散歩に出た子猫のように軽やかに歩き出した。


ときおり振り返っては

「にゃ、にゃ」


――こっちだよ

と言わんばかりに鳴く。


「……案内役、今日もやる気だね」

静が微笑む


アリアは小声で言った。

「本当に、不思議な光景ね……」


前回フォルツ側へ進んだ時と同じく、魔獣の気配がまったくない。

「おかしいくらい静かだわ」


リーアが周囲を見渡す。

「普通なら、この距離を歩けば何度か遭遇戦があってもおかしくないのに」


「やっぱり……」

ミレイアが静かに続けた。


「このエリアそのものに、何か特別な力が働いているのかもしれないわね」


フィアはツキを見てにやりとする。

「女神さまの加護とツキ、最強説?」


「にゃ?」

名前を呼ばれた気がして、ツキは首を傾げた。


その仕草に、張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らぐ。


◆◆◆


やがて小さな泉が見えてきた。

澄んだ水が静かに湧き出し、周囲には草花が揺れている。

その縁に差し掛かった時――


「にゃぁ!」

ツキが急に速度を上げ、泉のそばの岩陰へと向かった。


「ツキ?」

静が後を追うと、そこに――


淡く光る小さな結晶体が、ひっそりと浮かんでいた。


「……あったね」

静は思わず微笑む。


休止中の支配エリアコアだった。


「にゃ~、にゃ、にゃ」

ツキは振り返り、得意げに静を見上げる。

 

――どう?あったでしょ?

と言わんばかりだ。


「すごいな、ツキ」


静はしゃがみ込み、頭を撫でた。

「えらいぞ」


「にゃぁ」


セリナも微笑む。


「本当に、ツキはすごいですね」

小さなおやつを差し出すと、ツキは嬉しそうに受け取った。


アリアたちは顔を見合わせ苦笑する。

「普通、支配エリアコアって……」


「こんな簡単に見つかるものじゃないわよね」

 

「私たち、感覚が麻痺してきてないかしら」


◆◆◆


ちょうど昼時でもあり、一行は泉のそばで休憩を取ることにした。

静とセリナが手際よくお弁当を広げる。

今日はおにぎりが中心だ。


「いただきまーす!」

真っ先にフィアがかぶりついた。


「おいし~! このおにぎりって不思議よね」


「具を変えるだけで、全然違う料理になるし!」


アリアも頷く。

「このお米、ほんのり甘くて……どんなおかずにも合うわね」


リーアは感心したように言う。

「調理次第で何にでもなるなんて、まるで魔法みたい

 私はかなり好きよ」


ミレイアも静かに微笑む。

「私の森でも見たことがありませんでした

 とても興味深い穀物ですね」


その中央で――


「にゃぁ」

ツキはなぜか誇らしげに鳴きながら、おにぎりを頬張っていた。


自分が作ったわけでもないのに

皆がそれを見て、自然と笑顔になる。


危険な調査のはずなのに、まるで散策のような昼下がりだった。


だがその静けさこそが、何よりも異質であることを――

まだ誰も口にはしなかった。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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