第三話 帰り道の約束、小さな期待
フォルツの街を後にした一行は、支配エリアコアへと続く道を歩いていた。
夕暮れの光が柔らかく差し込み、周囲の木々が風に揺れている。
街の喧騒から離れ、静かで穏やかな時間が流れていた。
静は片手に買い物袋を提げながら、中身を確認していた
アメシリアの果実、見慣れない香辛料、乾燥させた木の実
そして珍しい形をした野菜。
どれも初めて見るものばかりで、どう使えばいいのか少し迷っていた。
「ねえ、セリナ」
静が歩きながら声をかける。
「この果物とか香辛料って、どんな料理に使えるの?」
「ああ、それですか」
セリナは袋の中を覗き込み、一つ一つ確認しながら答える。
「アメシリアは、先ほども少しお話ししましたが
煮詰めるととても良い香りが出ます。
ジャムにするのが一般的ですが、パンに塗ったり
焼き菓子に混ぜ込んだりすることもできますよ」
「へぇ……焼き菓子か」
静が頷くと、セリナは嬉しそうに続けた。
「それから、この赤い実は少し酸味がありますので
肉料理のソースに使うと爽やかな味わいになります。
煮込み料理に少し加えると、味に深みが出ますね」
「なるほど……肉料理のソースか」
静は想像してみる。酸味のあるソースで煮込んだ肉料理。
確かに美味しそうだ。
「この香辛料は?」
静が小さな袋を手に取ると、セリナは少し考えてから答えた。
「それは、カシアスパイスといいます。パンや焼き菓子に混ぜると
ほんのりと甘い香りが立ちます。温かみのある、優しい風味が特徴ですね」
静は袋を開け、香りを確かめる。
ふわりと立ち上ってきたのは、どこか懐かしい、甘く温かな香りだった。
「……これ、日本にあったシナモンに似てるかも?」
「シナモン……ですか?」
セリナが首を傾げる。
「うん。甘くて温かい香りがする香辛料なんだけど……
そっか、こっちではカシアスパイスって言うんだね」
静は少し考えてから、ふと思いついたように言った。
「だったら、シナモンロールみたいなもの作れるかも」
「シナモンロール……?」
セリナが不思議そうに首を傾げる。
「甘いパン生地に、シナモン……じゃなくて
カシアスパイスと砂糖を巻き込んで焼いたお菓子だよ。すごく美味しいんだ」
「まあ、それは素敵ですね」
セリナの目が輝く。
「ぜひ、作ってみたいです」
その会話を聞いていたフィアが、ぱっと顔を上げた。
「ねえねえ、それって今度作ってくれる?」
「え?」
静が振り返ると、フィアは期待に満ちた表情でこちらを見ていた。
「シナモンロール! すっごく美味しそう!」
「まあ……作れるけど」
「やった! じゃあ、他にも新しい甘味作ってほしいな〜」
フィアは嬉しそうに手を叩く。
「静の作る甘味、どれも美味しいし、見たこともないものばかりだから
もっと色々食べてみたいの!」
「フィア……」
アリアが少し呆れたように言う。
「あなた、それが目的で静についてきてるんじゃないでしょうね」
「ち、違うよ〜!」
フィアは慌てて否定するが、その表情はどこか後ろめたそうだ。
「まあ……少しは、あるかもしれないけど」
「正直ね」
リーアが苦笑する。
「でも、気持ちは分かるわ。静の作る料理は、本当に美味しいもの」
ミレイアも頷く
「そうよね、特に甘味は、どれも繊細で上品な味わいよ。
王都の高級菓子店にも引けを取らないと思うわ」
「そ、そんな大げさな……」
静は照れたように頭を掻く
その時、足元から小さな鳴き声が聞こえた。
「にゃぁ、にゃぁ」
ツキだった。
静の足元をちょろちょろと歩きながら、何度も鳴いている。
その様子はまるで何かを訴えているかのようだった。
「ツキ? どうしたの?」
静がしゃがみ込むと、ツキはじっと静を見上げた。
「にゃぁ、にゃぁ」
その瞳は、真剣そのものだ。
「……もしかして、お腹空いた?」
「にゃ」
違う、と言いたげに首を振る。
「じゃあ……甘味が食べたい?」
「にゃぁ!」
ツキの目が輝いた。尻尾を大きく揺らし、嬉しそうに鳴く
「あはは、ツキも甘味が欲しいんだね」
静は思わず笑った。
「分かった分かった。新しい甘味、作ってあげるよ」
「にゃぁ♪」
ツキは満足そうに喉を鳴らし、静の手に頬を擦りつけた。
その様子を見て、セリナも微笑む。
「ツキも、甘いものが好きなんですね」
「みたいだね。前に焼き菓子をあげたら、すごく喜んでたし」
「ツキ、味が分かるのね」
アリアが感心したように言う。
「普通の猫とは違うのかもしれないわね」
「賢い子だもんね〜」
フィアがツキを抱き上げる。
「ツキも甘味が好きなら、一緒に楽しもうね♪」
「にゃ」
ツキは誇らしげに鳴いた。
静は立ち上がり、再び歩き始める。
「じゃあ、明日は新しい甘味を作ってみようか」
「本当? やった!」
フィアが嬉しそうに飛び跳ねる。
「何を作るの?」
「そうだな……アメシリアを使った……
えっと、甘い生地の器に果物をのせて焼くお菓子と
シナモンロール、それから……」
静は少し考える。
「木の実を使った焼き菓子も作ってみようか。香ばしくて、きっと美味しいと思う」
「わぁ、楽しみ!」
セリナも嬉しそうに微笑む。
「お手伝いしますね」
「ありがとう、セリナ」
静が微笑むと、セリナは少し照れたように俯いた。
「にゃぁ、にゃぁ」
ツキも、まるで「楽しみだね」と言いたげに鳴く。
その声に、皆が自然と笑顔になった。
やがて、支配エリアコアが見えてきた。淡く光る結晶体が、静かに浮かんでいる。
「じゃあ、ここから転移しようか」
静が言うと、皆が頷いた。
転移の光が一行を包み込む。次の瞬間、屋敷のリビングへと戻っていた。
「ふぅ、無事に帰ってこれたね」
静が荷物を下ろすと、フィアがすぐに声をかけてくる。
「ねえねえ、明日はいつ作るの? 朝? それともお昼?」
「朝からゆっくり作ろうか。時間もかかるだろうし」
「やった! 楽しみ〜♪」
フィアは嬉しそうに手を叩いた。
アリアは苦笑しながら言う。
「フィア、あまり静に負担をかけないようにね」
「大丈夫だよ、アリア」
静が微笑む。
「料理するの、好きだから。それに、皆が喜んでくれるなら、作り甲斐もあるし」
「……ありがとう」
アリアは静かに頭を下げた。
リーアとミレイアも、感謝の言葉を口にする。
「いつも、ありがとうございます」
「本当に、感謝しています」
「いやいや、そんな大げさな」
静は照れたように頭を掻く。
その足元で、ツキが嬉しそうに鳴いた。
「にゃぁ♪」
まるで、明日が待ちきれないとでも言いたげに。
静は小さく笑い、ツキの頭を撫でる。
「分かった分かった。明日、ちゃんと作るからね」
「にゃ」
ツキは満足そうに喉を鳴らした。
こうして、穏やかな一日が幕を閉じる。
明日への小さな期待を胸に、皆はそれぞれの部屋へと向かった。
静かで、温かい夜だった。
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