第二話 街角の再会、変わらない祈り
フォルツの街を歩く静たちの姿は、思いのほか自然に街に溶け込んでいた。
「療養中の商人」という設定が功を奏したのか
それとも《ルミナ・ヴェール》の四人が護衛として付いているからか
誰も不審がる様子はない。
むしろセリナの姿を見つけた街の人々が、懐かしそうに声をかけてくる。
「あら、セリナさん! お久しぶり」
果物を売る露店の女性が手を振る。
「最近見かけないから、どこか遠くへ行ってしまったのかと思ってたわ」
「お久しぶりです。少し……街を離れていまして」
セリナが微笑むと、女性は嬉しそうに笑った。
「そうなの? でも、元気そうで良かったわ。また顔を見せてね」
そんなやり取りを繰り返しながら、一行は街の中心部へと進んでいく。
静は周囲を見回しながら、この街の空気を肌で感じていた。
(……話に聞いていたよりも落ち着いてる)
アリアたちから聞いた話では、この街には不安と疑念が渦巻いていたという。
だが今はそうした空気はほとんど感じられない。
「あ、あれ……」
ふと、セリナが足を止めた。
視線の先には、教会の建物が見える。白い石造りの荘厳な佇まい
その入口付近に何人かの人影が見えた。
「セリナさん!」
声をかけてきたのは若い女性だった。聖女見習いの服を纏っている。
「本当にセリナさんだ! お久しぶりです!」
「……エリアさん」
セリナが驚いたように目を見開く。
「お元気でしたか?」
「はい、おかげさまで。セリナさんこそ、お元気そうで……」
エリアと名乗った女性は、嬉しそうにセリナの手を取った。
「聞きましたよ。聖女にはなれなかったけど、治療師として各地を巡っているって」
「ええ……そうなんです」
セリナは少し照れたように微笑む。
「今は、専属の治療師として雇われていまして」
「まあ、それは素敵ですね」
エリアは静へと視線を向け、軽く会釈した。
「こちらが、その……?」
「はい。静様と言います」
「初めまして。いつもセリナがお世話になっています」
静も丁寧に頭を下げる。
エリアは少し考えてから、セリナへと視線を戻した。
「もしよろしければ、少しだけお茶でもいかがですか?
教会の中に小さな休憩室がありますので」
「え……でも」
「大丈夫ですよ。今日は特別な儀式もありませんし、司祭様もきっと喜ばれます」
その言葉に、セリナは少し迷ったように静を見る。
「……大丈夫だよ。せっかくだし、行っておいで」
静が微笑むと、セリナは安心したように頷いた。
「では、少しだけ……」
教会の中は、静かで落ち着いた空気に満ちていた。
ステンドグラスから差し込む光が、床に色とりどりの模様を描いている。
祭壇の前には、数人の信者が静かに祈りを捧げていた。
エリアに案内されて、一行は小さな休憩室へと通される。
そこには既に、温かいお茶と簡素な焼き菓子が用意されていた。
「どうぞ、召し上がってください」
「ありがとうございます」
セリナがお茶を受け取ると、エリアは嬉しそうに微笑んだ。
「本当に久しぶりですね。最後に会ったのは……半年以上前でしょうか」
「ええ……あの時はまだ、見習いとして教会にいました」
「今でも覚えていますよ。セリナさんはいつも一生懸命で……
誰よりも祈りを大切にしていました」
エリアの言葉に、セリナは少し恥ずかしそうに俯く。
「でも、聖女にはなれませんでした」
「それは……運命だったのでしょう」
エリアは優しく言った。
「でも、セリナさんは今でも、誰かのために祈り、誰かを癒している。
それは聖女と同じことだと思います」
「……ありがとうございます」
セリナの目が、少しだけ潤む。
静はその様子を見て、静かに微笑んだ。
セリナがどれほど真摯に、誠実に生きてきたのか。
その一端がこの会話から伝わってくる。
「あ、そうだ」
エリアが思い出したように言った。
「司祭様が、もしセリナさんが来たら、ぜひ挨拶をしたいと仰っていました。
少しだけお時間よろしいでしょうか?」
「司祭様が……?」
セリナが驚いたように目を瞬かせる。
「はい。きっと、お元気な姿を見せてあげたら喜ばれますよ」
セリナは少し考えてから、静へと視線を向ける。
「……大丈夫。俺たちはここで待ってるから」
静が頷くと、セリナは安心したように立ち上がった。
「では、少しだけ……失礼します」
セリナが部屋を出た後、静はお茶を飲みながら窓の外を眺めていた。
教会の中庭には、小さな花壇が整えられており
色とりどりの花が咲いている。
穏やかで、静かな場所だった。
「……セリナ、ここでは本当に愛されていたんだね」
静が呟くと、アリアが静かに答えた。
「ええ。聖女にはなれなかったけれど、彼女の真摯さは誰もが認めていると思うわ」
「だからこそ……今の彼女の幸せを
みんなが喜んでいるのかもしれないわね」
ミレイアが続ける。
フィアは焼き菓子を一つ摘まんで、嬉しそうに頬張った。
「セリナ、いい人だもんね〜」
リーアも頷く。
「ええ。本当に、良い人よ」
しばらくして、セリナが戻ってきた。その表情は、どこか晴れやかだった。
「お待たせしました」
「どうだった?」
「はい……司祭様も、お元気そうで。私のことをとても喜んでくださいました」
セリナの声には、温かみがあった。
こうして、教会での再会は穏やかに幕を閉じる。
街を後にする頃には、夕暮れの光が街を優しく照らしていた。
静はこの街での時間が、セリナにとってかけがえのないものだったのだと感じていた。
「……また、来ようね」
「はい。ぜひ」
セリナが微笑む。
そして一行は、屋敷へと帰路についた。
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