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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第六章 静かな歩みと結ばれた縁

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第一話 街へ踏み出す、静かな理由

屋敷へと戻った一行は、まずはゆっくりと身体を休めることになった。


広々としたリビングルームには、柔らかな日差しが差し込んでいる。

長椅子に腰を下ろし、テーブルには温かいお茶と

籠に盛られた焼き菓子が並べられる。

旅の疲れを癒すには十分な、穏やかで落ち着いた空間だった。


「これ、さっき話してた木の実を使ったやつだよ」

静がそう言って差し出すと


「わぁ……」

フィアが目を輝かせた。


「これ、見たことない実が入ってる!」

籠の中には、様々な種類の木の実や乾燥果実が混ぜ込まれた

焼き菓子が並んでいる。香ばしい香りが広がり、見た目も色とりどりで美しい。


「この赤いのは少し酸味がありますね」

リーアが一つ摘まんで言う。


「でも、焼くと甘みが増すのね。街でもあまり見かけない種類だと思うわ」


「フォルツの市場なら、もっと色々ありますよ」

セリナが微笑みながら続けた。


「季節の果物や香辛料、乾物や保存食も豊富ですし……

 この辺りでは手に入らないような珍しいものも、時々並んでいます」


「へぇ……」

静は焼き菓子を一口かじりながら呟く。


「そんなに色々あるなら、ちょっと見てみたいな」

その一言に、室内の空気がほんの少しだけ変わった。

四人の視線が一斉に静へと向けられる。


「いいじゃん、それ!」

フィアがすぐに声を上げる。


「街の空気も見れるし、気分転換にもなるよ〜」


「……目立たないように、ね」

アリアがすぐに釘を刺した。


「今は、静の存在そのものが……少し特殊だから」


「そうですね」

ミレイアも頷く。


「行くなら、それなりの"設定"は必要ね」


フィアがぱっと手を叩いた。

「あ、それならさ!静は他国から来た商人の若旦那ってことにしようよ」


「……商人?」

静が目を瞬かせる。


「そうそう。で、こっちに来た時に体調崩しちゃってさ

 お医者にも診てもらったけど、なかなか治らなくて……」


「そこで、治療師のセリナに診てもらった、って設定!」


「……なるほど」


アリアがすぐに整理する。

「セリナは聖女になれなかった代わりに

 治療師として各地を巡っていた、ということにすれば自然ね」


「静は今、その専属として彼女を雇っている」


「私たちは?」

リーアが尋ねる。


「護衛」


ミレイアが即答した。

「専属契約を結んでいる、腕利きの護衛」


「今はフォルツに住んでいないけど……」


フィアが言葉を足す。

「そう遠くない場所に屋敷を構えて、静は療養中、ってことでどう?」


一瞬の沈黙のあと、アリアが小さく頷いた。

「……悪くないわ。街に長居しない理由にもなるし、詮索もされにくい」


「大丈夫かな、俺」

 静は少し苦笑しながら言った。


「ちゃんと"病人"に見える?」


「そこは任せて」

フィアが胸を張る。

「静、普段から大人しいし、体調悪そうな顔、似合うと思う!」


「……それ、褒めてる?」


皆がくすっと笑った。穏やかで、温かい空気が流れる。


テーブルの下で、ツキが焼き菓子の匂いを嗅ぎながら小さく鳴く。


「にゃぁ」

――どこかに行くの?


「じゃあ、明日だね」

静が言った。


「フォルツ、楽しみだな」

誰も反対はしなかった。


こうして翌日、静たちは初めて街へ足を踏み出すことになる。

その一歩が、思っている以上に世界と近づく一歩になるとも知らずに。


◆◆◆


翌日

朝の光が柔らかく差し込む中、静たちは準備を整え屋敷を後にした。

転移でフォルツ近郊の支配エリアコアへ移動し、そこからは徒歩で街へ向かう。


初めて見る城壁と門、人の行き交うざわめきに、静は思わず息をのんだ。

「……思ってたより、ずっと賑やかだね」


「交易の街ですから」

セリナはそう言って、少し懐かしそうに街を見回す。


門をくぐると通りの両脇には露店が並び

香辛料や焼き物、果物の甘い香りが混ざり合っていた。


人々の声、荷車の音、商人たちの呼び声

活気に満ちた街の空気が、静を包み込む


「これ、日本じゃ見たことないな……」

静が足を止めたのは、淡い紫色の果実が山積みになった露店だった。

見慣れない色と形に、思わず目を奪われる。


「それは煮詰めると、香りが立つ果物ですね」

リーアが教える。


「ジャムや焼き菓子にすると、とても合いますよ」


「じゃあ、少し買ってみようか」

そんなやり取りをしながら、静とセリナは次々と露店を覗いていく。

珍しい香辛料、色とりどりの野菜、手作りのパンや菓子

どれも初めて見るものばかりで、静の目には新鮮に映った。


その途中――

「あれ? ……セリナさん?」

聞き覚えのある声にセリナが振り返った。


「お久しぶりです」

声をかけてきたのは、食品を扱う露店の女性だった。

親しみやすい雰囲気を持った人物だ。


「最近見なかったから、どうしてるのかと思ってたのよ」


そう言ってから、女性は静を見て、にやりと笑う。

「で……そちらの方は? もしかして良い人?」


「えっ……!」


セリナが慌てて首を振る。

「ち、違います! こちらは……」


「……雇い主、です」

 静も少し間を置いて答える。


「ほら、そういう顔してるじゃない」


女性は楽しそうに笑い、果物を籠に詰めながら続けた。

「旬のものだから、少し安くしておくわね」


そして、セリナの耳元にだけ、こっそりと囁く。

「……男の人はね、胃袋を掴めばこっちのものよ」


「……っ」

セリナの頬が分かりやすく赤くなる。


その様子を見て、フィアは後ろで口を押えて笑っていた。

「楽しそうだね〜」


一方その頃、アリアとミレイアは周囲に注意を向けていた。


人々の何気ない会話

「最近、教会の動きが静かだな」

「聖女様がどうとか……」

断片的な噂が、耳に入ってくる。


アリアは表情を変えないまま、静かに歩き続けた。

(……やっぱり、街にも影響は出ている)


それでも今は伝えない。

この時間を壊さないと、決めているから。


フィアはいつの間にか串焼きを手にしていた。

「はい、ツキ」


「にゃ」

ツキは嬉しそうに一口齧る。


「……あげすぎないようにね」

ミレイアがやんわり注意すると


「はーい」

フィアは軽く返事をした。


買い物袋が少し重くなった頃、静は小さく息を吐く。

「……街、楽しいね」


「そうでしょう?」

セリナが微笑む。


ツキは袋の中の匂いを嗅ぎながら、満足そうに鳴いた。


「にゃぁ」


こうしてフォルツでの最初の一日は、穏やかに過ぎていく。


その裏で、世界が静かに動いていることを、まだ誰も口にはしないまま……。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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