第一話 守るための報告
冒険者ギルド本部の応接室は、張りつめた静けさに包まれていた。
机を挟んで座るギルドマスター
――見た目は二十代後半ほどの、美しいエルフの女性
背筋はまっすぐ、表情は引き締まり
その佇まいに隙はない。
長い銀髪が背中に流れ、緑の瞳は鋭く、だが冷たくはない。
フレイア・ノート
この王都で初めての女性ギルドマスターに就いた人物だ。
――外から見れば、非の打ちどころのない上司
報告はすでに半ばまで進んでいた。
空白地帯の変化
支配エリアの性質
敵意や害意を持つ存在が、認識も侵入も干渉もできないという事実
そして、その地に確かに存在する――
女神ルーナフィリスの加護
フレイアは一言も挟まず、ただ静かに耳を傾けている。
(……どうして、よりにもよって私の代で……)
内心で、泣きそうになりながら
だがそのことを、誰にも悟らせはしなかった。表情は微動だにしない。
「……それでどうなの?」
低く、落ち着いた声
「その支配エリアの"主"についてよ」
その問いにアリアは一拍だけ言葉を飲み込んだ。
ほんのわずかな間
だが、意図された沈黙
ミレイアは横目でギルドマスターの横顔を見た。
(……ああ、これは)
凛とした横顔。少しだけ、こめかみに力が入っている。
(フレイ姉さん、また悩んでるわね)
内心で、そっとため息をつく
(後で……甘い物でも差し入れしようかな)
そんなことを考えつつ、ミレイアは表情を崩さなかった。
アリアが静かに口を開く。
「……神の禁忌に触れるため」
声は揺れていない
「名前を伝えることは出来ません」
室内の空気が、ぴんと張り詰めた。
それは、嘘だった
だが――
静やセリナ、ツキを"情報"にしないための
必要な嘘
フレイアは一瞬だけ目を伏せ、すぐにアリアを見返した。
「……禁忌、か」
深く息を吐く
「重い言葉だな」
「承知しています」
アリアは視線を逸らさない。
「ですが、それ以上を語ることは出来ません」
それでも、と続ける。
「ただ――ひとつだけ、確かにお伝えできます」
フレイアの眉が、わずかに動いた。
「あの方は、穏やかな善性の持ち主です」
誇張も、感情もない。
「脅威となる存在ではありません
少なくとも、こちらから害意を向けない限り」
アリアは、それだけを告げて、静かに頭を下げた。
真実は語らない。
だが、守るべきものは守る。
フレイアはしばらく沈黙した後、口を開く。
「……分かった」
机に肘をつき、指を組む
「お前たちの報告を正式に受理する」
その視線が、四人を見渡す
「だが、この件は……冒険者ギルドだけで抱え込める話ではない」
言葉を選ぶように、少し間を置く
「教会と、王国にも回す。覚悟は……いいな」
アリアは短く頷いた。
「はい」
ミレイアはその横で、心の中だけで呟く。
(……やっぱり、フレイ姉さんの胃にきてるわよね)
◆◆◆
――場面は変わる
屋敷の台所には穏やかな匂いが満ちていた。
「これ、もう少し火を弱めた方がいいかな?」
鍋を覗き込みながら静が言う。
「そうですね、焦げる前に少し……」
セリナが笑う。
ツキは足元をうろつきながら、期待するように鳴いた。
「にゃ」
「はいはい、もう少し待ってな」
静がそう返す
「……アリアたちが戻ってきたらさ、何がいいかな?」
「この前のスープ、気に入っていましたよ」
「じゃあ、それにしようか」
世界のどこかで
重たい判断が下されようとしていることを
二人と一匹はまだ知らない。
知らないまま、今日のごはんの話をしている。
それが――
この屋敷の日常だった。
夕暮れが、屋敷を優しく照らしていた。
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