閑話 波の音と今日のごはん
海は思っていたよりも静かだった。
寄せては返す波の音が、一定のリズムで続いている。
遠くで鳥が鳴き、風が砂を撫でていく。
「……いい音ですね」
砂浜に立ち、セリナがそう言った。
波の音に耳を傾けながら、彼女は目を細めている。
「うん」
静も頷く。
遠くまで続く水平線。
潮の匂い
足元を洗う、冷たい水。
ツキはというと、波打ち際を行ったり来たりしながら
濡れるたびに驚いたように跳ねている。
「にゃっ!?」
前足が波に触れた瞬間、慌てて後ろに飛び退く。
「……にゃ……」
少し考えてから、また前足を伸ばす。
「それ、楽しいの?」
静が聞くと――
「にゃ!」
即答だった。
「ん~、気のせいかな?最近ツキが話しかけた事
なんだか理解している気がする……?」
「ふふ、多分気のせいですよ。ツキがあんまり可愛いからって……ね?」
と微笑むセリナ
しばらく散策した後、三人は岩場の近くで腰を下ろした。
足元の岩には海藻が生え、小さな貝や生き物の気配がある。
「ここなら……」
静が海を覗き込み、石の影を指差す。
小さな貝や岩に張り付いた海産物が見える。
セリナは足元の貝を手に取り、静へと差し出した。
「……食べられるものでしょうか?」
静は受け取り、少しだけ眺めてから
そっとステータスメニューを開いた。
「……大丈夫みたいだ。食用って出てるね」
それを聞いて、セリナはほっとしたように微笑んだ。
「安心しました」
「ツキにも、あげられるな」
「にゃ?」
簡単な調理をその場でやってみる。
火を起こし、下処理をして、塩を振るだけ。
じゅっと音が立ち、香ばしい匂いが広がる。
「……いい匂いですね」
「うん。たぶん、うまくいってる」
出来上がったものを
まずは小さく分けて、ツキの前へ
「ほら」
「にゃ?」
一口
次の瞬間、ツキの目が丸くなった。
「……にゃ!」
尻尾がぶんぶんと揺れる。
「気に入ったみたいだな」
セリナが、くすっと笑った。
三人で並んで座り、海を眺めながら食べる。
波の音が心地よく響く。
「……おいしいですね」
「うん。外で食べると、余計に」
特別な味付けはしていない。
けれど、不思議と満たされる。
潮の香り、波の音、そして温かな食事。
ツキは自分の分を食べ終えると、満足そうに丸くなった。
「……眠そうだな」
「たくさん遊びましたから」
セリナがツキの頭を優しく撫でる。
波の音が変わらず続いている。
世界がどうなっているかなんて、誰も知らない。
知ろうともしていない。
今はただ――
お腹が満たされて、風が心地よくて、それで十分だった。
波の音が、二人と一匹を優しく包み込んでいた。
夕暮れが近づき、海が赤く染まり始める。
「そろそろ、帰ろうか」
静が立ち上がる
「はい」
セリナも頷く
ツキは少し名残惜しそうに海を見つめていたが
やがて「にゃ」と短く鳴いて、静の足元に寄ってきた。
「また来ようね」
静がそう言うと、ツキは嬉しそうに尻尾を揺らした。
二人と一匹は、夕焼けに照らされながら
ゆっくりと砂浜を歩いていく。
足跡が砂に残り、やがて波に消されていく
海は変わらず静かで優しい音を立て続けていた。
屋敷へと続く道を歩きながら、静はふと思った。
こんな日常がずっと続けばいい。
何も変わらず、何も失わず
ただ穏やかに……
夕焼けの空は美しく、一日の終わりを静かに告げていた。
二人と一匹は、その光の中をゆっくりと帰っていった。
イメージソングを作成してみました。
もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。
物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。
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カクコムでも先行掲載しています。
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