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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第四章 静かな日々、揺れ始める世界

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第一話 静かな屋敷に祈りの居場所を

セリナと《ルミナ・ヴェール》の面々が屋敷に滞在するようになって

数日が過ぎていた。


最初のころにあった、どこか遠慮がちな空気はもうない。

呼び方も少しずつ変わり、今では仲間内の自然な距離感で言葉が交わされている。

朝食の席での会話も、夕食後のリビングでの団らんも

すっかり日常の一部になっていた。


とはいえ、誰かが踏み込みすぎることもない。

言葉にせずとも――

『親しき中にも礼儀あり』という感覚は、皆の間にきちんと残っていた。


ただ一人


「静様、おはようございます」

その呼び方だけは、変わらなかった。


「……えっと、セリナ?

 別に『様』じゃなくていいんだけどね?」


何度目かになるその言葉に、セリナは小さく首を横に振る。


「ここは……私にとって、教会や神殿のような場所ですから」

そう言って屋敷の中を一度、静かに見回す。


柔らかな光が差し込む廊下、清潔な居間、穏やかな空気

全てが神聖な場所のように感じられる。


「そして、この場所の主は静様です」

と微笑みを浮かべる。


それ以上は言わなかった。

けれど、その姿勢だけで十分だった。


「……そっか」


静はそれ以上、踏み込むのをやめた。


(そんな大した人間じゃないんだけどなぁ……)

そう思いながらも、その呼び方を

無理に改めさせる気にはなれなかった。

セリナにとってそれは大切なことなのだろう。


呼び名以外は変わらない。

会話も、態度も、距離感も――他の仲間たちと同じだ。

それが、静にはありがたかった。


セリナは聖女見習いだったころと変わらない生活を続けている。

朝になれば屋敷の一角で朝日に向かい、静かに手を組む。

言葉は少ない。

けれど、背筋の伸びたその姿勢だけで、それが祈りだと分かった。

誰に教わったわけでもない、自然な所作。


掃除や洗濯、食事の準備も自然と身についていて

空いた時間には静から日本の料理を教わっている。


「この切り方だと……

 火を入れたとき、香りが立つんですね」


包丁を持つ手を止めてそう言うセリナに――


「まあ……慣れかな?」

静は少し照れたように答えた。


一方、《ルミナ・ヴェール》の面々は

 屋敷の周辺を中心に探索と調査を続けている。


地形や植生、魔力の安定度

野生動物や魔獣の分布――


凶悪な個体がほとんど見当たらないのは、この場所が特別だからだろう。

空白地帯という名前が嘘のように、穏やかな環境が広がっている。


「……やっぱり、変な場所よね。ここ」


アリアのその一言に、誰もすぐには答えなかった。

皆、周囲を見回したまましばし黙り込む。


「ね、ね。こっちだよ!」

一拍遅れて、フィアが声を上げた。


その少し前を、ツキが誇らしげに歩いている。

尻尾をぴんと立て、ときどき振り返っては――


「にゃ、にゃぁ~」

と上機嫌に鳴いた。


お気に入りの場所に案内するたび

胸を張るその様子に――


「……完全に、自分の庭ね」


「ええ。案内役が板についてるわ」

ミレイアとリーナが小さく笑う。


理由は分からない。

けれど、ツキが前を歩いているだけで、場の空気が少し落ち着くような気がした。

魔獣も近づかず、道も迷わない。


そんなある日のことだった。

屋敷の中を忙しなく動くセリナの背中を見ながら、静はふと足を止める。


(……そういえば)

その日の午後、静は屋敷コアのメニューを開き、《増改築》を選択した。


「簡易で……いいんだけどね」

少し悩んだ末、一室を『礼拝堂として使える空間』に整えることを決める。


豪華ではない、装飾も必要最低限だ。


――けれど

扉を開けた瞬間、空気がすっと変わった。

清浄で、澄みきっていて、胸の奥に静かに染み込んでくるような感覚


「……え」

最初に言葉を失ったのは、アリアだった。


次いで、ミレイアが息を呑む。

リーナは声も出さずに室内を見回し――


「……すご」

と、フィアが一拍遅れて呟いた。


セリナは何も言わず、その場に静かに膝をつく

背筋を伸ばしただ祈る。

涙がわずかに滲んでいる。


ツキは新しい部屋が気になるらしく

「にゃ?」

と鳴きながら、壁際や棚の下をくんくんと嗅いで歩き回っていた。


その光景を前に静は頭をかきながら――


「……あれ?そんなにすごい部屋のつもりじゃ……

 なかったんだけどな……?」


(屋敷コアのこと、ちゃんと説明してなかったし……

 驚かせちゃったかな)


皆の反応を眺めながら、静は苦笑するしかなかった。


けれど。

祈るセリナの背中は

どこか安心しているように見えた。


それだけで――

この部屋を作った理由は十分だった。


世界は――また少しだけ、動き始めている。

静かに、だが確実に


この場所は――もう、一人だけの場所ではない


祈りと、笑い声と、そして温かな日常が満ちる場所へと変わり続けている。

静はその変化を受け入れ始めていた。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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