第十話 朝の甘味と始まりの約束
朝のダイニングに、甘い香りが満ちていた。
卵と牛乳、ほのかな砂糖の匂い。
焼き色のついたパンから立ち上る香ばしさが、眠りの残る頭を優しく揺り起こす。
窓からは朝日が差し込み、テーブルを柔らかく照らしている。
「今日は……フレンチトーストにしてみました」
静の言葉にテーブルを囲んだ女性たちの視線が、一斉に集まった。
黄金色に焼き上がったパンが、皿の上で湯気を立てている。
「……なに、この匂い……」
リーナが思わず呟く
「甘い……幸せ……」
ミレイアは一口目を口に運び、うっとりと目を細めた。
柔らかく、甘く、そして優しい味
「……これは反則ね」
アリアも静かに頷く
「旅の途中で、こんな素敵な朝食に出会えるとは思わなかったわ」
「おかわり、ある?」
フィアは遠慮なく皿を差し出すが、すでに一皿目を完食している。
「ありますよ。パンも卵も、まだ余裕があるので」
静は少し照れたように笑った。
ふわりとした食感と、じんわり染み出す甘さ
誰もが自然と表情を緩めていた。
こんな朝食を毎日食べられたら、幸せだろうなと皆が思う。
「……ねえ」
フィアが冗談めかして言う
「もう、静さんをお嫁さんにもらっちゃえばいいんじゃない?」
「ちょ、フィア!」
アリアが即座に嗜める。
だが場はすぐに笑いに包まれた。
「でも……分かる気はするわね」
リーナが肩をすくめる。
「料理上手で、気遣いもできて……静さん、きっと人気が出ますよ」
ミレイアも柔らかく微笑んだ。
静は苦笑しながら足元を見る。
ツキは満足そうに丸くなり、「にゃぁ」と短く鳴いた。
――朝から賑やかだが、不思議と嫌ではなかった。
一人で過ごす朝も悪くなかったが
誰かと一緒に食べる朝食もまた良い。
◆◆◆
食事を終え、片づけもひと段落した頃。
セリナは椅子から立ち上がり、背筋を正した。
「静様」
その声に場の空気が少し引き締まる。
「昨日お話しした件ですが……改めて、お願いします」
一度息を吸い込み、はっきりと告げる。
「私を……ここに置いていただけませんか?」
迷いも、不安もある。
それでも覚悟を決めた眼差しだった。
薄紫の瞳が、静をまっすぐに見つめている。
アリアも一歩前に出る。
「私からもお願いします。
セリナを……しばらく、ここで預かっていただけないでしょうか」
静はすぐには答えなかった。少しだけ考え――そして、穏やかに口を開く。
「……分かりました」
その言葉にセリナの表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます……!」
両手を胸元で握りしめ、深く頭を下げた。
涙がわずかに滲んでいる。
「それと」
アリアが続ける。
「私たち《ルミナ・ヴェール》も、依頼の関係で周辺調査を行いたいのですが……」
静は少し考え、そして先ほどよりも柔らかく
どこか乗り気な様子で答えた。
「昨晩使ってもらった部屋も、そのまま自由に使ってもらって構いませんよ」
「もし必要であれば、この周辺なら案内もできます。
……散歩ついで、みたいなものですけど」
その言葉に四人は一瞬目を見合わせ、すぐに笑みを浮かべた。
「助かります」
アリアが深く頷く
(……よかった)
静は胸の奥でそっと安堵する。
(いきなり二人きりになるわけじゃない)
ツキが足元で小さく尻尾を揺らし
楽しそうに「にゃ」と鳴く
こうして――
屋敷での新しい日常は、『生活』として
確かに動き出したのだった。
世界は――また少しだけ、動き始めている。
静かに、だが確実に。
この出会いが、どんな未来を紡ぐのか。まだ誰も知らない。
だが、確かなことが一つある。
この場所は――もう、一人だけの場所ではない。
祈りと、笑い声と
そして温かな日常が満ちる場所へと変わり始めている。
朝の光が新しい始まりを祝福するかのように
屋敷を優しく照らしていた。
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