表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

閑話 セリナと冒険者

セリナが《ルミナ・ヴェール》と行動を共にするようになってから

数日が過ぎていた。


空白地帯と呼ばれるこの場所は、本来であれば

張り詰めた緊張が常に付きまとうはずの土地だ。

魔獣が跋扈し、危険な罠が潜み、一歩間違えば命を落とす。

そう聞いていたが、彼女たちの歩みは驚くほど順調だった。


慎重な索敵、無駄のない移動

休憩の判断も的確で、野営の準備も手際がいい。


まるで、長年連れ添った仲間のように、息がぴったりと合っている。

――さすが上級冒険者


セリナは何度目かの休憩中

焚き火の前で小鍋をかき混ぜながらそんなことを考えていた。

彼女たちの動きを見ていると、安心できる。

この人たちとなら、大丈夫だと思える。


「……いい匂い」

ぽつりと呟いたのはフィア・ルゥだ。

尻尾を左右に揺らしながら、鍋の中を覗き込んでいる。

耳も嬉しそうにぴくぴくと動いている。


「今日も期待していい?」


「はい。簡素ですけど……」


「簡素でこんなに美味しいの、反則だよ!」

ぱっと笑うフィアに、セリナも思わず頬が緩む。


料理は教会で身につけた生活の一部だった。

孤児院の子どもたちのために、炊き出しのために、何度も何度も作ってきた。

誰かの役に立てるなら、それでいい――

そう思って続けてきただけのこと。


けれど、《ルミナ・ヴェール》の四人は、その一皿一皿を本気で喜んでくれた。


「……栄養の配分もいい」

リーナ・エルシェは短くそう言って、無言で食事を進めている。

ダークエルフらしい冷静な評価、その声には満足感が滲んでいる。


「魔力回復にも向いてるわね」

ミレイア・ノートが微笑みながら補足する。


「え、そうなんですか?」


「ええ。素材の選び方が丁寧なの。身体に負担をかけずに

 しっかりと栄養が取れる」


その言葉にセリナは少し照れたように俯いた。

意識していたわけではない。ただ、教会で学んだことを実践しているだけだ。


一方、少し離れた場所では、アリア・フェルゼンが周囲を見渡している。

剣を携え、背筋を伸ばしたその姿はどこまでも凛としていた。


強く、揺るがず、それでいて近寄りがたい冷たさはない。


(……こんな人になれたら)

ふと、そんな憧れが胸をよぎる。


アリアは指示を出す時も、注意を促す時も、決して声を荒らげない。

誰かを置いていくこともない。

仲間を信頼し、仲間に信頼される。


"頼れる姉"という言葉が、これほどしっくり来る人がいるのだろうか。


焚き火を囲みながら、自然と会話が生まれる。


「ねえ、セリナ」

ミレイアが穏やかな声で呼びかけた。


「教会に、長くいたって言ってたわよね」


セリナは少し迷ってから、頷いた。

「……聖女見習いでした。でも……なれなくて」


言葉を選ぶその様子に、ミレイアはそれ以上踏み込まない。

そっと隣に座った。

焚き火の光が、二人の顔を柔らかく照らす。


「私もね、森の加護に選ばれなかった時期があるの」


「え……?」

セリナは驚いてミレイアを見つめる。


「周りは期待してくれてたけど、応えられなくて……

 自分には価値がないんじゃないかって……思った」


セリナは、はっと息を呑んだ。


同じ痛みを知る人が、ここにいる。


「でもね」

ミレイアは柔らかく微笑む。


「"向いていない場所"と"価値がない"は違うのよ」


その言葉は胸の奥に静かに沁み込んだ。

温かく、優しく、そして確かに


旅を続ける中で変化は確かに現れていた。


アリアは気づいている。以前より、魔獣の動きが鈍いことに

「……弱体化している?」


フィアも首を傾げる。

「数も減ってる。こんなに静かな空白地帯、変だよ」


リーナは魔力の流れを探り、短く告げた。

「乱れが、収束している」


ミレイアは深く息を吸う。

「……空気が、澄んでるわ」


そして、セリナは確信していた。

あの夜、夢の中で聞いた言葉

断片的で、曖昧だった"導き"


――月

――静かな場所

――確かめよ


それが今、はっきりと「近い」と感じられる。

胸の奥で何かが共鳴している。


「……もう、すぐだと思います」


ぽつりと漏らしたセリナの言葉に、四人は顔を上げた。


「本当に?」

フィアが尋ねる。


「はい。……感じます」


危険なはずの空白地帯

それなのに、ここには不思議な安らぎがある。


まるで――

誰かに見守られているかのような。


静の支配エリア

観測者の加護が及ぶ場所


運命の出会いは

確実に近づいていた。


焚き火の炎が揺れ、夜空には月が輝いている。

世界は――

また少しだけ、動き始めている。


静かに、だが確実に

彼女たちは、あの屋敷へと辿り着くだろう。


そして――新しい物語が始まる。

カクコムでも先行掲載しています。


もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。


https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ