第二話 すれ違う縁と薄雲の地図
セリナが旅立った、その翌朝。
辺境の街――「フォルツ」は、まだ朝靄の名残を残しながら
いつもと変わらぬ一日を迎えていた。
街道沿いの簡素な宿屋の前で、四人組の冒険者パーティーが支度を整えている。
上級冒険者パーティー《ルミナ・ヴェール》
剣を携えたリーダーの「アリア・フェルゼン」を中心に
治癒と補助を担うエルフの「ミレイア・ノート」
斥候で双剣使いの猫獣人の「フィア・ルゥ」
そして高度な魔法と前線補助を担うダークエルフの「リーナ・エルシェ」
彼女たちはこの街を拠点に、南に広がる“空白地帯”へと向かう予定だった。
「準備は大体終わったかな?」
アリアがそう問いかけると、フィアが軽く手を振る。
「食料も水も問題なし!あとは細々した消耗品くらいだね」
街の市場を歩きながらミレイアは何度か周囲を見回していた。
その視線が街の一角に建つ小さな教会に向いたことを
アリアは見逃さなかった。
「……気になる?」
「ええ。ここに聖女見習いの方がいると聞いていて……」
ミレイアは、どこか迷うように言葉を濁した。
その様子にアリアは少しだけ微笑む。
「折角近くに来たんだ。気になるなら、寄ってみようか」
「賛成!」とフィアが即座に声を上げる。
こうして一行は探索前の小さな寄り道として
教会の扉を叩いた。
中にいた司祭は、穏やかな表情で彼女たちを迎え入れる。
事情を説明し、ミレイアが控えめに問いかけた。
「……聖女見習いですか、もしかしてセリナさんの事でしょうか?」
その言葉の後、司祭は一瞬だけ目を伏せた。
「……セリナでしたら、昨日、教会を辞しまして」
一同の空気が僅かに静まる。
「行き先は……?」
「申し訳ありません。本人の強い意志での旅立ちでしたので」
ミレイアは小さく息を吐いた。
「……そう、ですか」
そんな彼女の肩をフィアが軽く叩く。
「縁があれば、きっといつか会えるよ」
その明るい声にミレイアは少しだけ笑みを浮かべて頷いた。
教会を後にした《ルミナ・ヴェール》は、予定通り翌朝の出立を決め
空白地帯へ向かう準備を整えた。
***
一方その頃
静は屋敷の一室で、ツキを傍らに置きながら
自身のステータス表示を開いていた。
視界に広がるのは、淡く光るオートマッピング。
自らが歩き、確かに支配を及ぼした領域は明瞭に表示されているが
その外側は薄い雲に覆われたように曖昧だ。
「……ん?」
静はその雲の中に、点々と存在する灰色のマークに気付いた。
よく見れば、それは
“支配エリアコア”の表示――
ただし、色が落ちている。
次の瞬間、視界の端に文字が浮かび上がった。
《支配エリアコア停止中/条件を満たすことで支配可能》
「……停止中、って?」
静は小さく呟き、考え込む。
「これって……条件さえ満たせば、使えるようになるってこと?」
ツキが膝の上で「にゃぁ〜」と曖昧に鳴いた。
その頭を撫でながら、静は地図をさらに広げる。
空白地帯の南側――
そこには青く塗られた
“海”の表示があった。
「……海、か」
静の口元がわずかに緩む。
「もし行けたら、ツキに新鮮なお魚
食べさせてあげられるかな」
「にゃ?」
ツキは意味を理解したのかどうか分からないまま、尻尾を揺らした。
滅びた王国の跡地
灰色に沈む支配コア
そして、まだ誰も踏み入れていない空白の先
その全てを前にしても、今この瞬間の静の胸にあったのは
穏やかで小さな未来への想像だった。
やがて訪れるであろう
“縁”の交差を
まだ誰も知らないままに――
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