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閑話 旅立ちの前触れ

冒険者ギルド・ルミエール本部


昼下がりの喧騒が少し落ち着いた頃、一角のテーブルに四人の女性が集まっていた。ギルドの中は相変わらず賑やかで、依頼を受け取る者、報酬を受け取る者

仲間と談笑する者。様々な人々が行き交っている。


どこにでもいる冒険者たちの一団――

そう見えたのは最初の一瞬だけだった。


腰に帯びた剣、背負われた魔導具、身のこなしや視線の鋭さ。

それらは長く生き残ってきた者だけが持つ

"無駄のなさ"をはっきりと示している。


上級冒険者

その称号は、実力と経験の証だ。


「依頼内容は……探索と観測、ね」

リーナ・エルシェが、受け取った書類に目を走らせる。

落ち着いた声色の奥に冷静な判断力が滲んでいた。

彼女はこのパーティーのサブリーダーであり、戦術指揮を担当している。


「場所は王国辺境。支配エリアコア未登録区域」


「……つまり、"空白"」

アリア・フェルゼンが短く言葉を継ぐ。

剣聖の元弟子という経歴に違わぬ佇まいだが、その眼差しは威圧よりも

状況を測る静けさを宿していた。

彼女はパーティーの前衛を務め、その剣技は王国内でも高く評価されている。


「最近になって、急に"存在が確定した場所"らしいわ」

リーナは肩をすくめる。

「教会も国家も、扱いに困ってる。

 だから私たちみたいな"第三者"に声がかかった」


「観測者案件、ってやつね」

ミレイア・ノートが静かに呟く。

エルフらしい澄んだ気配が、場の空気をわずかに和らげた。

彼女は回復術と補助魔法を得意としており、パーティーの要となる存在だ。


「深入りはするな、でも放置もするな。

 ……相変わらず、難しい依頼」


「でもさ」

フィア・ルゥが椅子の上でくるりと体勢を変える。

猫科獣人特有の軽やかさがその動作に滲んでいた。

彼女は斥候と索敵を担当しており

その身軽さと鋭敏な感覚はパーティーに欠かせない。


「こういうの、嫌いじゃないでしょ?」


その言葉に誰も否定しなかった。

危険度は未知

だが、即座に討伐対象となる兆候もない。

それでいて、世界の"歪み"の匂いがする。


上級冒険者として、避けて通れない種類の仕事だった。

単純な討伐依頼よりも、こうした曖昧な依頼の方が、時として重要な意味を持つ。


リーナが地図を引き寄せる。

細い指先がルミエール王国の辺境をなぞった。


「ここ……最近、移民や商人たちの間で噂になってる場所じゃない?」

彼女はわずかに興味深そうに目を細める。


「神託は受けられないのに振る舞いだけ見れば

"聖女そのもの"だって言われてる子がいるらしいわ。

教会の正式な認定は受けてない"聖女見習い"って扱いみたいだけど」


その言葉にミレイアの指がぴくりと動いた。

彼女の表情が、わずかに変わる。


「……もし、会えるなら」


彼女は少し考えるように、視線を落とす。

「話してみたいわね。

 教会って"見習い"のままで居続けること、あまり許さないでしょう?」


柔らかな声だったが、そこには確かな実感が滲んでいた。

ミレイア自身、かつて教会との関わりを持っていた過去がある。

だからこそ、その言葉には重みがあった。


「迷っているのかもしれない。

 進むべき場所と立ち止まりたい気持ちの間で」


小さく息を吸い、微笑む。

「……昔の私みたいで……少し気になるの」


その様子を見てアリアは短く考えるように黙した後、穏やかに言った。

「そんなに気になるなら、もし会うことが出来たら――

 話くらいは聞いてあげようか」


押し付けるでもなく、決めつけるでもない。

ただ、当然のように"そうする選択肢"を差し出す声音だった。

アリアは普段は寡黙だが、仲間のことを深く理解している。


「いいね、それ!」

フィアがぱっと顔を輝かせる。尻尾が楽しそうに揺れる。


「もし本当にいい子だったらさ、パーティーに誘っちゃってもいいんじゃない?

旅って、一人より楽しいほうがいいもん!」


リーナがくすりと笑う。

「さすが猫。距離を詰めるのが早いわね」


「えへへ、直感!」

フィアは無邪気に笑う。

だが、その直感は時として正確だ。

彼女の感覚は、危険を察知するだけでなく

人の本質を見抜くことにも長けている。


アリアは小さく肩をすくめた。

「――あくまで、依頼が優先よ。

 でも、縁があるなら……無下にはしない」


それだけで十分だった。


その言葉はまだ見ぬ誰かにとって

"憧れと安心が同時に宿る"響きを持っていた。


もし、その少女が本当に迷っているなら

もし、彼女が道を探しているなら

このパーティーは、きっと力になるだろう。


彼女たちは知らない


この依頼が、静かに世界を見つめる存在と

迷いながら歩く少女と、やがて深く交わることになる未来を。


だが確かなのは――

すでに、歯車は回り始めているということだった。


リーナが立ち上がり、書類を折りたたむ。

「じゃあ、準備を始めましょう。出発は三日後。それまでに装備と補給を整えて」


「了解」

三人が同時に頷く。


「ミレイアは回復薬の補充を。アリアは武器の整備。

 フィアは情報収集。私は宿と移動ルートの確認をしておくわ」


「はーい」

フィアが軽快に返事をして、椅子から飛び降りる。


「じゃあ、また後でね!」

そう言って、彼女は軽やかにギルドの外へと駆けていった。

その姿は、まるで猫そのもののようだ。


ミレイアもゆっくりと立ち上がる。

「……もし、あの子に会えたら」

彼女は小さく呟く。

「何を話そうかしら」


アリアが穏やかに答える。

「その時考えればいい。無理に言葉を用意する必要はない」


「……そうね」

ミレイアが微笑む。


三日後。彼女たちは、未知の場所へと向かう。

そこで何を見つけるのか、誰と出会うのか、まだ誰も知らない。


だが、確かなことが一つある。

この旅は――

きっと何かを変える。


世界は静かに、だが確実に動き始めていた。

カクコムでも先行掲載しています。


もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。


https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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