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第二話 観測者案件としての扱い

異変はすでに「個別の問題」として扱える段階を越えていた。


ルミエール王国、教会中央監察局。

高天井の会議室に集められた者たちは

いずれも王国と教会の中枢に名を連ねる人間ばかりだった。


重厚な木製のテーブルを囲み、それぞれが手元の資料に目を通している。

だがその空気はいつもの儀礼的な重さとは、明らかに異なっていた。

緊張感が、部屋全体を包み込んでいる。


「――再確認する。

 当該エリアは王国が管理する、いずれの支配エリアコアにも属していない」


中央監察局長が淡々と告げる。


彼は初老の男性で、長年この職に就いている。

その声には感情が乗っていない。

だからこそ、言葉の重みが増している。


「にもかかわらず、世界座標上には"存在している"

 しかも、外部からの干渉を拒む形で、だ」


誰かが小さく息を呑んだ。


支配エリアが自然発生することは、理論上あり得ない。

少なくともこの数百年の歴史の中では

そのような事例は一度も報告されていない。


「王国側の見解は?」

神官の一人が隣席の文官に視線を向ける。

彼女は若いが、教会内でも優秀な分析官として知られている。


「……空白地帯でした」

文官は言葉を選びながら答えた。

彼もまた、この事態の深刻さを理解している。


「辺境指定区域。管理コア未設置、監視優先度も低い。

 だからこそ、今回の揺らぎが"遅れて"検知された」


会議室に重苦しい沈黙が落ちる。


空白地帯。それは世界の中にありながら

「世界から忘れられた場所」


誰も注目せず、誰も管理しない場所

そこに、何かが生まれた。


「内部反応は?」


「穏やかです」

別の神官が記録を読み上げる。

彼は中年の男性で、観測術に長けている。


「生命活動は確認されているが、攻撃性はなし。

 魔力濃度は高いが、暴走の兆候は見られない。むしろ、安定している」


「……つまり」

局長が低く続けた。

「災厄でも、聖域でもない」


その言葉に誰もすぐには答えなかった。


災厄ならば「討伐対象」になる。

魔物の巣、邪教の拠点、危険な遺跡。

それらは明確に対処できる。


聖域ならば「保護と管理」の名目が立つ。

神々の加護、精霊の住処、古代の聖地。

それらもまた、扱い方が定まっている。


しかし

"存在しているのに、どちらにも当てはまらない場所"は――

最も扱いに困る。


「観測者が関与している可能性は?」


その問いが出た瞬間、空気が一段階、冷えた。


観測者。口に出すだけで場が緊張する名

世界を見守る存在。介入せず、導かず、ただ記録するだけの存在。

だが、その存在が動くとき、世界は必ず変わる。


「断定は出来ません」

局長は即答した。

「しかし通常の支配エリアとは明らかに性質が違う。

 上位の……極めて上位の干渉が疑われる」


「教会としては?」


「――"観測者案件"として扱うべきでしょう」


その言葉は、宣告に近かった。


観測者案件

それは教会内部でも、「極秘に分類される」事象だ。


記録は最小限

介入は慎重に

そして――不用意に触れない。


なぜなら、観測者が関わる事象は、必ず何か大きな意味を持っているからだ。

それを無視して介入すれば、取り返しのつかない事態を招く可能性がある。


「では、探索は?」


「行います。ただし――」

局長は一拍置いた。

「"踏み込める者"だけに限る」


そこで話題は自然と教会外へと移った。


冒険者

国家でも教会でもない、第三の存在


彼らは自由に動き、自由に判断し、自由に選択する。

だからこそ、このような事態には適している。


ルミエール王国はすでに、複数の上位冒険者パーティーを候補に挙げていた。

その中には王国直属の者もいれば、教会と距離を保つ独立系も含まれている。


「グランヴェル帝国にも情報は回すべきだろう」

別の席から声が上がる。


グランヴェル帝国――ドワーフを中心とした、技術と鍛冶の国。

「ドワーフの感知技術は侮れん。

 鉱脈探索で培われた空間把握能力は、この件に向いている」


「ただし、軍事色は出すな」

局長は即座に釘を刺した。

「好戦的ではないとはいえ、誤解を招く。あくまで探索と観測だ」


セレニア自治連邦についても言及された。

商人と冒険者が自由に行き交う、多様性の国。


「商人と冒険者の流動が激しい地だ。

 情報が広まりやすい。だが逆に、優秀な人材も集まりやすい」


「自由を好む連中が多いな」


「だからこそ、善性の者を選別する必要がある」


会議は静かに、だが確実に"外へ"広がっていった。

教会と国家だけでは対処できない。

冒険者、商人、技術者。様々な立場の人間が、この事態に関わることになる。


そして――ある一つの冒険者パーティーの名が候補として挙がる。


年齢は十八から二十代半ば

全員が女性で構成された、小規模ながら実績十分の上級パーティー


「性格評価は?」


「面倒見が良い」

担当官が即答する。

彼は若い男性だが、冒険者との折衝に長けている。

「無用な殺生を嫌い、街や村との関係も良好。

 若手冒険者の相談役になることも多い」


「……悪くない」


彼女たちは力だけで選ばれたわけではなかった。

重要なのは、"未知の存在と出会った時、どう振る舞うか"。


討伐を選ぶか

報告を選ぶか

あるいは、見守ることを選ぶか


「依頼内容は、どうする?」


「探索と観測」

局長は簡潔に答えた。

「深入りはしない。接触は可能であれば

 だが、強引に踏み込むことは許さない」


許可がなければ辿り着けない場所。

それでも、世界は確かに"そこに何かがある"と告げている。


「……静かに存在するための場所、か」

誰かが、ぽつりと呟いた。


「いや」

局長は首を振る。

「世界から隔離されながら――

 それでも、世界に存在してしまっている場所だ」


観測者が見守る理由

教会が手を出せない理由

国家が恐れる理由


そのすべてが、まだ霧の中にあった。


だが一つだけ、確かなことがある。


この案件は――

やがて静かな生活を送る者たちと

世界の表舞台を生きる者たちを

否応なく繋ぐことになる。


その兆しはすでに動き始めていた。


会議は深夜まで続き、やがて静かに終わった。

それぞれが持ち場へと戻り、それぞれの役割を果たす。


世界は――

また一つ、動き出そうとしていた。

カクコムでも先行掲載しています。


もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。


https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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