一章 1話 魔法使いの少女
語学にめっぽう弱いので温かい目で見守ってください……
「っ、閃光!」
こちらへ突進してくる牛に慌てて斬撃を合わせ、なんとか一撃入れ、怯ませる。
「グル、ウォォォッッ!!!」
もう一度突進、一度横に避けてからもう一度斬撃。
先の攻撃と同じところに剣が当たったようで、肉に刃が深く入り込む感触。
「竜巻!」
詠唱とともに剣が青く弱い光を持ち、そのまま切っ先を跳ね上げて肉を切り裂く。
偶々牛の核に当たったようで、硬く反発するそれは一気に切り裂く。
「グォォォォォッッッ!!」
牛は最後の大きな雄叫びをあげ、ズシン、と重そうな音を立てて地面に倒れこんだ。
動かなくなったことを恐る恐る確認して、大きく息を吐く。
普通の剣士ならば1分もかからずに討伐できるような雑魚モンスター『闘牛』ですら、俺にとっては強敵だ。
最近ではある程度安定して倒せるようになったとはいえ、油断していたらあっという間にやられてしまうだろう。
あの日――村が焼けた日から5年、身元不明の子供を雇ってくれる所なんて見つからず、俺は仕方なく冒険者になるために街に出た。
校長の慈悲でなんとか入れてもらえた4年制の剣士養成学校を最悪の成績で卒業し、なんとか必死に1年、生き続けていた。
「さてと、今日の夕食はこいつかな……」
弱っちい俺がギルドの討伐ミッションなんてまともにこなせるわけがなく、敵対意思のないモンスターやこういう時折倒せる雑魚モンスターを食べ、森で野宿し、また食事を求めて移動する、なんて生活を繰り返していた。
コリコリ草と一緒に煮込んでスープにすると美味いんだよな…なんて考えながら薪を拾うために辺りを散策しようと、一歩踏み出した瞬間、背中にドンッ、という衝撃を感じた。
しくじった。警戒を怠った、出血はないようだが状態異常は、それよりも敵はなんだ?
剣の柄を握り、一歩飛びのくと、そこにいたのはまだ10歳くらいの小さな女の子だった。
白いローブを身にまとい、大きな魔女帽の下からはくりくりとした碧い瞳が覗いている。流れるような銀髪がとても美しく、両手で体よりも大きな杖を抱えている。
少女は驚いたように目を丸くしていたが、すぐにハッとすると俺に向かって何かを伝えようとしてくる。
それは声になっていなく、俺は口の形で読み取ろうと必死に目を凝らした。
―― に げ て。
刹那、近くの木の陰からなにかが飛び出してくる。
「ッシャァーーッ!」
銀閃蛇、このあたりには滅多に出現しないレアモンスター。
蛇は鋭く輝く牙をこちらに向け、威嚇してくる。
「っ、まずい、君は逃げて!」
少女に慌てて声をかけるが、蛇の攻撃を喰らってしまったらしく足を抑えてうずくまっている。
蛇は声をあげた俺に興味を示し始めたらしく、こちらの方にむかってチロチロと細長い舌を覗かせる。
俺も改めてこいつに向き直って、柄を握り直し技の発動準備をする。
銀閃蛇がレアモンスターである所以、それはひとえにこいつの特性によるものだった。
「……剣撃、突。」
蛇が鋭い線のように、一直線に俺に向かってくる。
頭からしっぽまでを細剣のように硬直させ、硬い銀の舌を突き出す。
養成学校で唯一、俺が少しだけ得意だった技。
「……流星!」
剣が青や黄色の光を放ち、真っすぐに蛇へ向かっていく。
そのまま蛇の喉元に剣を突き刺し、一直線に切り裂いてゆく。
核を砕いた感触を剣の先で感じ、さっと剣を引き抜く。
銀閃蛇の特性。それは魔法属性を完全無効化すること。
剣士の”技”は魔法ではなく技術であるので、蛇に攻撃が効いたというわけだ。
この少女は見るからに魔法職だったため、きっと防戦一方で手も足も出なかったのだろう。
「……とりあえず、君、大丈夫?」
少女の方に駆け寄って、回復薬の類は持っていなかったので服の端を破いて止血する。
少女は瞳を輝かせてこちらを見つめ、一度俺の手を両手で包むように握ると、すぐに近くの枝を拾って地面に文字を書き始めた。
女の子がもう一度顔を上げると、そこにはこんなことが書かれていた。
『わたしのこえを とりもどしてください』
書いた後に気づいたんですが主人公たちの名前出してないですね、次はきっと自己紹介させる……