五 「犬」のような
僕は、先生の車に乗って、ケンタの祖父母の家に向かっている。
あれからケンタはなぜか学校を休学してしまい、今日は先生と一緒に通信簿を届けにやってきた。
「田んぼすごいですね」
「そうだなぁ」
田舎の風景に感動していると、大きな犬を散歩させている人影がふっと見えた。
目を凝らす。ケンタだ!
「先生、ケンタです! あそこにケンタがいますよ!」
「ほんとか?」
ケンタらしき人影に車を近づけたとき、僕と先生は悲鳴をあげた。それが犬だと思ったら、ケンタのお母さんだった。
「ダイスケ君……キミが渡してきてくれないか? 先生、怖くて……」
「いいですよ……」
車から降りると、ケンタも気がついたらしく、その場で待ってくれていた。
「ケンタ、久しぶり」
「おう、ダイスケ元気にしてるか?」
僕は、引き紐であるリードの先に視線がいった。ケンタのお母さんに首輪がついていて、両足とお尻をおろしながら、犬のように座っていた。そしてそのズボンのウエストから、しっぽなのかな、赤紫色のなんだかよくわからない細いものが生えていた。
「通信簿、届けに来たよ」
「ありがとう」
「これからどうするの?」
僕は、ケンタのお母さんを見つめながら言った。なんだか顔つきが、人から犬になってきているなと感じた。
「俺は医者になって、このお母さんの病を治すつもりさ。もともと、俺が原因なわけだしね」
そしてケンタはお母さんの前に座った。
「お母さん! お手ッ!」
「ワンッ!!!!!!!」
ケンタの手のひらに、ポンとお母さんは手を置く。その手は、犬のように丸くなっていた。