四 ミスった
お菓子とジュースを袋に入れて、僕はケンタの家に向かった。
歩きながら、あの日のことを思い出している。
またあの家にあがるのか……。ちょっと足取りが重くなってきた。
いつも以上に時間がかかって、ケンタの家に着いた。
呼び鈴を押そうとしたときだった
「ダイスケ待って!!」
その声に反応して、僕はとっさに手をひっこめた。
ケンタ……?
「こっちだよ、こっち」
振り向くと、エアコンの室外機に隠れながら、ケンタが手を振っている。
「何してるの?」
「いいから、お前も後ろにまわれ」
何のために隠れているのかわからないけど、とりあえず言われた通りに、室外機の後ろに体を小さくした。
「来るぞ」
すると、居間の大きな窓が開いて、ケンタのお母さんが素足のまま庭に下りてきた。四足歩行で、プランターが置いてある壁の近くまでやってきた。そこには他にもガーデニング用の大きな石があって、その大きな石を両手で持ち上げると、下からのぞき込んだ。そしてベロを大きく出して、ペロリとその石をなめた。
「ケンタのお母さん何やってるの!?」
「ああやって、虫を食べているんだよ」
「まじかよ」
その後、ケンタのお母さんは土をせっせっと掘り始めて、穴が適当な大きさになると、自分の頭を突っ込んで、楽しそうにケツをゆらゆらと揺らしていた。
「お母さんの気が向いてるときなら大丈夫だから、部屋にあがってよ」
「向いていないとどうなるんだよ」
「かみついてくるよ」
こわっ……。
僕が持ってきたお菓子を食べながら、ケンタとしばらく何気ない会話をしていた。
あの日ここで起きたことを考えるのなら、よくお菓子なんて食べていられるなと、ケンタを軽蔑したくなったけど、僕自身も普通に食べていたから、僕もどうかしてるなと思った。
「見せたいものがあるんだ」
ケンタはテーブルに、四つ折りにたたまれた白い布を置いた。
「この布の中には、儀式をするに必要なものが入ってるんだ。で、これを魂袋って呼んで、これを死んだ肉体の中に入れるんだ」
「みんな生き返ると、あんな犬みたいになっちゃうの?」
「違う。俺がミスった。魂袋には、動物の毛を入れなくちゃいけないんだけど、てっきり動物だけだと思ったんだ。動物っていうジャンルには、人間も当然入るよな。動物とは単なる抽象的にすぎなかったんだ。で、俺はそこらへんに落ちている毛をいれたら、それが犬の毛だったんだ」
「あぁ、だから犬っぽくなっちゃったわけ?」
「そうそう」
「じゃあさ、なんで先生も犬っぽくなったの?」
「かみつかれると、数時間、犬になっちゃうんだ」
「ほんと?」
「あぁ。俺も復活させたあの日、かみつかれて、家でワンワン言ってた」
「まじかよ……」
「お母さんが教室から飛び出していった授業参観の日、先生はお母さんに追いつけたんだけど、顔の前に手を出したから、かみつかれたというわけさ」
「ってことは、先生はもう元に戻ってるわけ?」
「うん。普通になってると思うよ」
「そうなんだ」
僕は喉が渇いてジュースを飲もうと手を伸ばした。