92話
瑛太が頑張って1位を守っている間に2位以下の熾烈な争いが起こっていた。
2位だった1組がバトンを落として4位に下がり、その間に3組が2位、4組が3位になった。
「「「「「瑛太頑張れー!」」」」」
2組の応援の声が響く。
最終コーナーを曲がり、待機している次の走者である伊勢さんへバトンを渡した。
「任せたぞ!伊勢!」
バトンを受け取り順調に走っていた伊勢さんだけど、2位の3組の女子がかなり早い。
「あの子早いね」
「…あの子陸上部」
「なるほど」
柳さんと話していると、伊勢さんが最終コーナーを抜けるが、2位との差はほとんどなくなっていた。
「もうちょいだぞ伊勢!頑張れ!」
次の走者の涼也が叫ぶ。
そしてほぼ同時に次の走者にバトンを渡した2組と3組。
「はぁ…はぁ、ごめん!せっかくあったリード無くなっちゃったー」
息を切らした伊勢さんが出番を待つ俺たちに謝ってきた。
「伊勢さんも早かったよ!」
「だよな!3組が早すぎただけだって!」
「…気にしないで」
伊勢さんと話していると会場がワーワーと沸き立った。
涼也へと視線を移すと少しずつ3組との差をまた広げていた。
「ナイス涼也!」
「なんか涼也早くない?」
「はは、あいつ本番に強えんだな」
1位をキープしたまま最終コーナーを曲がり次の走者である椎名さんへとバトンを繋いだ涼也。
「頼んだ!」
「まかせてっ!」
バトンを貰った椎名さんはさらに2位との差を広げる。
…次の走者は新山か…大丈夫かな…
最終コーナーを曲がり新山にバトンを渡す椎名さん。
思いの外上手くバトンが渡ったことに安心して、他の組を見ていると急に瑛太が叫んだ。
「まじかよ!」
何事かと視線を瑛太が見ている方へと向けるとバトンを持っていない新山の姿があった。
「な、なに!?なにがあったの?」
一部始終を見ていたであろう瑛太に聞くと
「バトン受け取って持ち替える時に落としたんだよ!」
新山本人は落とした事にテンパってあたふたしていてバトンを見つけれていないみたいだ。
「後ろ後ろ!!」
「落ち着けって!」
その間にもリードしていた3組に抜かれ、バトンを拾った時にはみんなに抜かれて4位になっていた。
……やばい…あと俺と柳さんしか残ってない。
「こりゃ1位厳しいかもしれねぇ」
「流石にここから逆転はな…」
「2位でもギリ総合優勝は行けそうかな?」
「……大丈夫…まだ私と三津島君がいる」
諦めモードが漂い出していたところに柳さんの言葉が響く。
「…最後の体育祭だもん…諦めるのはまだ早い…私は勝ちにいく」
その言葉に1位を諦めかけてた俺はハッとなった。
「そうだよね、俺と柳さんで!」
「せっかくなら1位で終わりたいわな!」
「うるはと三津島くんなら!」
「頼んだ!柳!直樹!」
「…任せて!」
そう言ってバトンを受け取るためにスタートラインへと向かった柳さん。
コーナーを抜け、最後の直線になったところで、3位の4組に並んだ新山はなんとか柳さんへバトンを渡した。
「す、すまん…お、俺のせいで…」
戻ってきた新山は肩で息をしながら涙目で謝ってきた。
「最初あんな偉そうなこと言っといてな「瑛太!」…まぁあとは柳と直樹がなんとかしてくれるさ」「どんまーい」
険悪な雰囲気になりそうな瑛太を止める椎名さん、とりあえず慰める伊勢さんを横目に見ながら柳さんへと視線を移すと、めちゃくちゃ早かった。
あっという間に4組を抜かして3位になり、1組を抜かして2位になっていた。
柳さんが最終コーナーへと差し掛かった…さて、そろそろ準備しよう。
スタートラインへ立つと1位の3組がアンカーへとバトンを渡していた。
柳さんのおかげで2位になったけど、およそ三分の一周ほど差が開いている。
「直樹ー!」
バトンを受け取るとる体勢になったとき、明里さんの声が聞こえたような気がして振り向きそうになったけど、集中を切らさないように柳さんから目を離さなかった。
ありがとう明里さん…頑張るよ!
バトンを受け取り、一気に加速する。
3組のアンカーもなかなかの早さで、半周ほど差が開いている。
アンカーは2周走るけど、もう最初から全力で行く!
1位との差がグングン縮まる様子に、グラウンド全体が沸いている。
1周目が終わる。
「行ける!行けるぞー!」
「頼む!」
「頑張れー!!」
「頑張ってー」
走り終わった皆んなからの応援に背中を押されて、さらに集中力が増した気がする。
だんだんと音が静かになってきた。
不思議と自分の荒い呼吸の音だけが耳に入る。
気がつくと2周目の半分に来たところで1位に追いついていた。
隣に並ぶと1位だった3組のギョッとした顔が視界の端に入り何か言ってきていたようだけど、気にせず抜いて1位になった。
残り半周、なんだか調子もいいしそのまま思いっきり走り抜けた。
ゴールテープを切った途端、耳にうるさいほどの歓声が聞こえてきてビックリした。
「よっしゃぁー!!!!」
「すげぇよ直樹!」
「早すぎぃ!」
「1位だぞ1位!」
「やばぁ…かっこよ!」
駆け寄ってきたチームメイトにもみくちゃにされながら残っているメンバーの元へと戻った。




