66話
とりあえずゲームを開始した俺たち。
お腹に回した俺の腕に時折ポヨポヨと当たる柔らかい感触に、まったくと言っていい程ゲームに集中することが出来ない。
「あぁ、また負けちゃった!ちょっとは手加減してくれてもいいのにー!もうー!」
と、負けるたび身を捩らせる明里さん。
その度に柔らかい物が当たるので、俺は今のところ負けるつもりはなかった。
「スマブラ終わりにする!」
と半ば拗ねたようにコントローラーをテーブルに置いた明里さん。
下心に負けちゃって勝ちすぎたかなぁ…
そんなことを思いながら窓の外を見ると夕方になってきていた。
「結構時間たってたんだ」と俺がポツリとこぼすと
スマホを確認する明里さん。チラリと見えた待ち受けは2人で撮ったプリクラの写真だった。
「もうこんな時間なの!?そろそろ帰らなきゃ…」
そう言ってスマホをテーブルに置いて振り返った明里さんは、すごく寂しそうな顔をしていた。
「あっという間だったね」
「うん…もっと居たかったな…」
と言って胸に顔を当てて抱きついてくる明里さんに俺も抱き締め返した。
「い、いつでも来てくれて大丈夫だよ」
「ほんと!?」
食い気味だなぁ。そんなに来たいのかな?
「うん、うちでよければ全然」
「やったぁ!」
と抱き締める力が強くなる。
「…帰る前にもうちょっとだけこのままでいいかな?」
「もちろん」
少しの間このままイチャイチャする俺たちだった。
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「またいつでもおいで、明里ちゃんなら大歓迎よ」
「ありがとうございます!」
と玄関で話している母さんと明里さん。
送りに行ってくると母さんに伝えると、玄関まで見送りに来た。
「じゃあ送ってくるから」
「お邪魔しました!」
ペコリと挨拶をして、俺たちは家を出た。
玄関を出ると少し薄暗くなってきていて、少し肌寒く感じられた。
行きと同じくアルバムが入ったバックを俺が肩に掛け、反対の腕はしっかりと明里さんと手を繋いでいた。
「楽しかったー!みんな優しくしてれたし!」
「良かった、次来る時は緊張しないで済むね」
と明里さんは繋いだ手をニギニギしている。
しばらく歩いていると
「明日、体育祭の種目決めだね!楽しみ!直樹はリレーの他に何に出るか決めてるの?」
「決めてないかな、全員参加以外は特に出なくて良いかなって、まぁリレーもタイム測って速い人順で決めるから、俺が出れるか決まってる訳じゃないけどね」
「絶対選ばれるよ!去年あれだけ早かったし、クラスで1番かもよ?私応援するもん!」
…明里さんの応援か、これは他の人に負けられないな。
「はは、一応は頑張ってみるよ、明里は何か出るの?」
明里さんからのプレッシャーに苦笑いしながらもそう返すと
「私は借り物競争かなー、足そんな速くないし」
「そうなの?」
「うん、走るのはあんまり得意じゃないし、借り物競争ってうちの学校3年女子伝統みたいなものだし」
「3年の女子だけって変な伝統だね」
「まぁ毎年変わったお題で盛り上がってるけどね!」
去年の借り物競争はお題が難しすぎてなかなかゴールする人がいなくて大変だったな。
「ま、まぁ変なお題に当たらないといいね」
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、もう明里さんの家まで来てしまった。
「着いちゃった」
「着いたね」
「はぁ…いつも思うけど、もっと一緒に居れたらいいのに」
家に着いたけど手を離す気配の無い明里さん。
「このままウチ寄ってく?」
と冗談なのか本気なのか分からないトーンで聞いてくる明里さん。
「さ、さすがに今日は心の準備が、それに時間も遅いし、行くならちゃんと昼間に挨拶したいよ」
俺の真面目な返事に驚いた様子の明里さん。
「そ、そうだよね、昼の方がいいよね!今日は我慢しよっかな!」
そう言って繋いでいた手を離した。
「今日はありがとう!小さい頃の直樹可愛かった!」
「はは、明里もめちゃくちゃ可愛かったよ」
あれはほんとに天使だったな…
「じゃあまた明日!」
「うんまた明日ね」
明里さんに見送られながら俺は家への道を戻ったのだった。
家に帰り晩ご飯を食べようとリビングへと入ると両親が揃って出迎えた。
「おかえり直樹、可愛い彼女だったわね」
「若い頃の翔子さんみたいだったよ」
「もう!あんなに可愛くなかったわよ!」
とイチャイチャしている両親に少し冷めた視線を送りつつ、腹が減っていた俺は母さんに「えっと、ご飯ってできてる?」と聞いた。
「出来てるわよ、温めたらいいだけだから、食べる?」
そうして晩ご飯を食べて1番に風呂に入って、自分の部屋に帰ってきた。
部屋を見渡し、さっきまでのことを思い出しながら俺はベッドに体を放り投げた。
この部屋に明里さんが居たなんて…ちょっと前までなら考えられなかったな…それにしても色々あって疲れた一日だった。今もリアルに感触や匂いを思い出せる。
後ろから抱き締めた時のことを思い出して、悶々としながらもなんとか1日を終えるのだった。




