24話
カラオケ店に着き、2人で受付をしている時。
「三津島くん、時間どうする??」
隣に並んでいた西條さんが聞いてきた。
「俺の方は時間気にしなくて大丈夫だよ。」
「じゃあとりあえずフリータイムでドリンクバー付けとくね!」
店から出たくなったら出ればいいと考え、とりあえずフリータイムにすることにした。
「お部屋の方18番になります。」
「はい、じゃあ行こっか。」
ドリンクバーで飲み物を準備して部屋に入る。
「ふぅ、私まだ緊張してるよ!先に三津島くんから歌って欲しいな。」
席に着き、曲を選んでいると西條さんから声をかけられた。
「わかった、俺も緊張してるから初っ端変でも笑わないでね。」
と、一応保険を張って前にみんなで来た時に歌った曲を入れる。
♫〜
「ふぅ」一曲目を歌い終わり、緊張により入っていた肩の力を抜く。
パチパチという拍手の後に「うわぁ…やっぱり上手だね!」と言う西條さん。
「あ、ありがとう、一曲目乗り切るとだいぶ緊張が解けるね、西條さんも頑張って。」
「う、うん、あんまり期待値上げないでね、そんな上手じゃないから!」
西條さんが入れた曲のイントロが流れ出した。
♫〜
あ…聞いたことある曲だ…
ちょっと前に流行った曲で俺も知ってる曲だった。
そして西條さんが歌い出すと驚いた。
おぉ!歌上手いんだなぁ…あと、歌う時の声めちゃくちゃ可愛い…
歌に聞き惚れているとあっという間に歌が終わってしまった。
「ど、どうかな?大丈夫?変じゃなかった??」
「めちゃくちゃ上手いよ!!こ、声がすごい可愛い!」
「声のこと千晴たちにも言われるの!だから恥ずかしくてみんなの前で歌わなかったのに!も〜!」
と、可愛いと言われ照れているようだった。
「ごめん、つい。でもホントにそう思ったから」
「あ、ありがとう…まぁでも、確かに一曲歌うと楽になったよ!時間も余裕あるし、じゃんじゃん歌おっ!」
緊張がほぐれだいぶ余裕が出てきたみたいだ。
次何入れようか…西條さんが知ってそうな歌は…と
とりあえず自分が知っている曲でランキング上位なら知っているであろうと思い、曲を入れてみる。
画面にタイトルが表示され「あ!この曲知ってるよ!」という声にとりあえず一安心する。
歌い終わりマイクを置くと
「三津島くんこの曲歌えるんだね!私この歌手好きなんだー!他の曲も知ってるの??」
「俺もこの人好きだから他のもたぶん歌えると思うよ。」
好きな歌手が同じという思わぬ共通点に嬉しくなった。
「ほんと!?じゃあさこれとか歌える??」
とタイトルが表示された機械の画面を見せてきた西條さん。
「俺これ1番好きなんだ。これなら歌えるとおもう」
「やった!お願いしてもいいかな?」
そう言われた俺はそのまま曲を入れる。
♫〜
「すごい!すごいよ!!めちゃくちゃ上手!!」
目をキラキラさせながら褒めてくる様子に嬉しくなる。
「ありがとう、西條さんってこういうロック系の聴いたりするんだね。」
女の子との絡みが無かった俺は意外に思う。
「なにそれー、それは偏見ってもんじゃないかな??私だってこういう歌だって聞くよー!」
「ごめんごめん、ちょっと意外だったから」
笑いながら言う西條さんにそう返す。
そして。しばらくあーだこーだと話しながら歌っていると
「せっかくだし、2人で何か歌わない?」と言ってきた。
少し離れた位置に座っていた西條さんが俺のすぐ隣、拳一つ分ぐらいの距離に移動してきて機械を2人のテーブルの前に置いた。
1つの画面を2人で見るために自然と顔が近くなる。
西條さんは特に気にしてない様子に見えるが、俺はその距離感にめちゃくちゃドキドキしてしまう。
「これなんかどうかな??」と少し前に流行っていた男女のデュエット曲を表示してきた西條さんに
「う、うん、これなら大丈夫だとおもう…」
と動揺している俺はなんとか返事を返すのが精一杯だ。
「じゃあこれ入れるね。」
曲を送信して、イントロが流れ出しても離れる様子のない西條さん。
そしてそのままのすぐ隣の距離で歌い出した。
せっかく近くに来てくれたので、自分から距離を離したく無い俺もそのまま歌うことにした。
動揺していたが変に声が裏返ったりせず無事に歌い終わりホッとしていた。
「やっぱ上手いね三津島くん!一緒に歌うと気持ちいいもん!」
と、楽しそうな西條さんが「イェーイ」とハイタッチを求めてきた。
遠慮がちに両手を掲げると〝パチンッ“と手を合わせてきた。
2人で歌う楽しさを気に入ったのか、西條さんはそこからしばらく2人で歌えそうなデュエット曲ばかりを入れていった。
何曲か歌ったあとに雑談という名の休憩タイムになった。
「私らさ、結構仲良くなったよねー?」
「そうだね、まさか西條さんと2人で遊ぶ日が来るなんて、ちょっと前からしたら考えられないよ。」
「それでね…1つお願いがあるんだけど…」とテーブルの上で手をモジモジとさせながら顔を俯かせて聞いてきた西條さん。
「どうしたの?俺に出来ることなら聞くよ?」
「えっとね…三津島くんのこと…下の名前で呼んでもいいかな…??」
そう言ってすぐ隣に座っている俺の顔を覗き込んでくる西條さん。
まさかのお願いが自分を下の名前で呼ぶことなど思ってなかった俺はドギマギしながらもなんとか返事をする。
「え、う、うん、西條さんがいいなら…名前で呼んでくれても大丈夫だよ?」
「ほんと?やった!じゃあ直樹くんって呼ぶね!あのね!私のことも下の名前で呼んで欲しいな!」
明里って呼ぶの!?それとも明里さん??待って!いきなりのこれはかなり照れるぞ!
頭の中でそう考えていると、「ダメ…かな…??」
と言われ
「いやいや!俺もこれから下の名前で呼ぶよ!」
「ありがとう約束だよっ!ちょっとトイレ行ってくるね!」
そう言ってバッと席を立つ西條さん、部屋が薄暗いためハッキリとした顔色は見えなかったが、西條さんの顔は赤く染まっていたように見えた。
しばらくして西條さんが帰ってきた。
そしてトイレに行く前の拳一つ分しか空いていない元の場所に座った。
「今日千晴たち4人で遊ぶっていってたじゃん?今イオン行ってるらしいけどもうちょっとしたらカラオケ行くんだって!LINEのグループに書いてる!」
そう言われて俺もLINEを確認する。
「ほんとだね、写真載せてるけど、4人すごい仲良くなったね。」
「ほんとだよー、千晴と藤岡くんの雰囲気もなんかいい感じだし!」
涼也と伊勢さんはもともと仲良かったみたいだが、瑛太と椎名さんがここまで仲良くなるとは…
「今3時ぐらいだけど、な…直樹くんは何時ぐらいまで居たい??」
自分から提案した名前呼びに照れが感じられる明里さん。
名前を呼ばれた嬉しさと恥ずかしさで俺も照れる。
「じ、時間は全然大丈夫なんだけど、あ…明里さんは喉とか痛く無い?大丈夫??」
物理的な距離は縮まっていたが、呼び方が苗字から名前に変わるだけで2人の間の心の距離も縮まった気がした。
「一応喉はまだ大丈夫かなー、お互いあと何曲かずつ歌って一旦終わりにする??」
「そうだね、何かリクエストない?歌えるやつなら歌うよ?」
「じゃあ、私が歌う曲は直樹くんが決めて、直樹くんが歌う曲は私が決めるねっ!」
そう言って機械を手に取りて早く曲を入れる明里さん。
少し古い曲だったが曲自体は知っていたため、なんとか無事に歌い終える。
何歌ってもらおうかなぁ…
あまり女性の曲は知らないから、なかなか決まらずに悩む。
「先に私からのリクエスト入れるね!」
そう言って俺が1番好きだと言った曲をもう一回入れる明里さん。
「この曲2回目だけどいいの?」
「私もこの曲好きだし、直樹くんが1番好きって言ってたからもう一回聴きたいなーと思って。」
何気なく言ったのに覚えててくれたんだなぁ
2度目ともあり、1度目よりは上手く歌えた気がした。
その後も数曲ずつ互いのリクエスト曲を歌い終わり、そろそろ部屋を出ることにした俺たち。
「そろそろ出よっか。」
「そうだね。」
部屋を出る2人、そのまま受付で料金を支払い店を出た。
帰り道を歩いていると、「今日楽しかったねー!」と明里さんが言う。
「うん、俺もめっちゃ楽しかった。」
そう言いながら歩く2人の距離は、自然と肩と肩が触れそうなほど近いものだった。
「楽しかった休みの日ってすぐに終わっちゃうよね…」
少し寂しそうな顔で明里さんが言う。
俺は『楽しんでくれてたんだなぁ』と考えながら
「そうだね、学校のある日は長く感じるのにね。」
「ゴールデンウイーク直樹くんはどっか行ったりするの??」
そう言われ頭の中でなにか予定があったか思い出す。
「親からは旅行に行こうって誘われたけど、俺と姉ちゃんは断ったから、特に予定は無いかな。」
「えぇーもったいない!せっかくの旅行なのに!?」
「もう中3だよ?親と旅行って恥ずいし、男なんてたぶんそんなもんだと思うよ、まぁウチの親今でも新婚か!ってぐらい仲良いから、2人で旅行行く方が楽しめるよ。」
いつも家でのラブラブっぷりを思い浮かべながら話す。
「いいお父さんとお母さんなんだね!じゃあ連休中お姉さんと2人しか家に居ないってこと??ご飯とかどうするの!?」
「姉ちゃんも友達の家に泊まりに行くらしいからほとんど俺1人かな、一応食事代としてお金は多めにくれるらしいから、外食なりなんとかするよ。」
俺が家に1人と聞き、何かを思いついたような顔になった明里さん。
「ふふん!私実は料理できるんだよー」
と言いながら隣を歩いている俺の肩に自分の肩をぶつけてきた。
「そ、そうなんだ、すごいね。」
「あー今年のゴールデンウイークまだ予定決まってないなー」と棒読みで言いながらまた肩にぶつかってくる。
…これは料理食べてみたいって言った方がいいのかな?
なおもぶつかりながら「私の料理の腕誰かに自慢したいなぁー」と言う明里さんに、俺は意を決して
「よ、よかったら明里さんのご飯、た、食べてみたいな」と言ってみた。
すると、肩をぶつけていたのが止まり
「ふ、ふーん、そ、そんなに私の作るご飯が食べたいなら、つ、作りに行ってもいいよ?」
心なしか赤い顔でそう言ってきた。
好きな子の手料理が食べられるかもしれないチャンスに
「ぜ…ぜひお願いします、作りに来てください。」
とお願いする。
「いいよ!じゃあ特別に作ってあげようかな!」と嬉しそうに返事が帰ってきた。
「あ、ありがとう。じゃあ今日帰ってから姉ちゃんにいつ泊まりに行くか聞いて予定伝えるね。」
「わかった、当日一緒に材料買いにいこうね!」
と、嬉しそうな顔をする明里さんを見て、お願いして良かったと思うのだった。
明里さんの家に着いた。
「また連絡待ってるね。今日はありがとう!バイバイ!」
「うん、こっちこそありがとう、バイバイ。」
そう言って別れる2人。
それから1人になった俺は今日のことを振り返りながら歩いていた。
今日1日ですごい距離縮まったなぁ…明里さんは俺のことどう思ってるんだろう。
親しい友達?ぐらいにはなれたと思うんだけど…でもlikeとloveならきっとlikeだろうなぁ…
俺に対して明らかに好意的な態度の明里さんを不思議に思うのであった。




