115話
「はい、終了です。後ろの人からテストを前に渡して下さい」
…ふぅ…なんとか集中する事ができたな…
涼也から回ってきたテストを前の人に渡す。
「どうよ?自信ありげ?」
「まぁぼちぼちってとこかな」
「いいなぁ、俺勘で書いたとこめっちゃあったわー」
涼也と話しながらも、この後の明里さんとの話し合いで頭の中がいっぱいだ。
ホームルームが終わり急いで明里さんの席へと向かう。
最近の涼也達ならこういうイベントごとの後はみんなでご飯なり何処か行くけど、俺達の空気を読んでくれたのか誘いは無かった。
「とりあえず昨日の喫茶店に行こう」
「…わかった」
教室を出て、普段なら隣を歩く明里さんだけど、今日は下を向いたまま俺の一歩後ろを歩いている。
そのまま一言も話す事なく暑い中、例の路地までやってきた。
「この奥だよ」
そう言って路地に入る俺の後を静かに着いてくる明里さん。
少し歩くと見えてきた趣のある喫茶店。
「ここだよ」
「こんな所に喫茶店なんて本当にあったんだ…」
「俺も昨日驚いたよ」
入り口のドアに手をかけて引っ張ると、カランカランと鈴の音がしてエアコンの冷たい空気が身体を撫でた。
「いらっしゃい、お兄さんまた来てくれたのかい」
昨日と同じく柔らかい笑顔で迎えてくれるマスター。
「はい、2人なんですけど大丈夫ですか?」
俺がそう言うと後ろからひょっこりと顔を出す明里さん。
「おや、お嬢さんは初めてだね、お好きな所へどうぞ」
「は、はい」
明里さんはいきなり声を掛けられて少しオドオドしている。
昨日座った奥のテーブル席に座ろう。
俺が通路側で明里さんにソファに座ってもらった。
席に着いても店内をキョロキョロと見回す明里さん。
「とりあえず昼ごはん食べる?昨日来た時美味しかったんだ」
「うん」
昨日はメニューを見てなかったので、ひとまずメニューを見てみることに。
「結構色々あるんだね」
他の純喫茶の事は分からないけど、結構豊富なメニューが載っている。
おまけにそこまで高くない。
「うん」
そこまでガッツリ食べる気にはならなかったので、俺はサンドイッチとアイスコーヒーを頼む事にした。
「明里は何食べる?」
「…昨日何食べたの?」
「ボロネーゼとピラフかな…どっちもオススメだよ、食べてびっくりした」
真希さんのオススメだけど黙っておこう。
「んーじゃあボロネーゼにしようかな…あとアイスコーヒー」
「わかった、すいませーん」
「はいはい、何にするかね?」
注文をしようと声をかけるとすぐにマスターが来てくれた。
「えっと、ボロネーゼとサンドウィッチ、アイスコーヒー2つお願いします」
「コーヒーは食後にするかい?」
明里さんの方を見ると頷いたので両方食後に。
「はい、食後でお願いします」
「ちょっと待っててね」
そう言ってカウンターの方にマスターが戻って行った。
…今のうちに昨日のことを明里さんにちゃんと話しておこう。
「明里、昨日のことちゃんと説明させて欲しい」
「…うん」
「昨日学校が終わって本屋に行ったんだ、そしたらたまたま姉ちゃんの友達、昨日明里が俺と一緒にここの路地から出てきた人に会ったんだ」
「うん」
「それで、俺は漫画を買ってそのまま家に帰ろうとしたんだけど、断る暇もなくこのお店に行く事になってしまって」
「…ホイホイ着いて行くなんて、ちょっとガード甘く無い?」
「うっ…そこは本当にごめんなさい、姉ちゃんの友達ってことで油断してしまいました」
「…で?」
「その後はここで昼ごはん食べて解散して、俺は自分の家で勉強してました。決して他の人に気が移ったとかは無いから」
「…足りない…私すごい不安だったんだよ?」
いつもは明るい明里さんが下を向いている。
どうすればいいんだろう…
「…俺は明里が好きだ…」
「もっと…」
「好きだ!」
勢いよく立ち上がったせいで椅子がガタンと音を立てる。
「おまたせー、サンドウィッチとボロネーゼ」
俺が好きだと言った時、タイミングよくマスターが注文した料理を運んで来た。
「あ…ど、どうも…」
顔から火が出そうなぐらい熱くなって大人しく席に座り直した。
「うんうん、若さだねぇ。ごゆっくり」
料理を置いてニコニコしながらカウンターへと戻ったマスター。
チラッと前を見ると、明里さんも顔を真っ赤にしていた。
「と、とりあえず食べよっか……」
「う、うん…頂きます」
何とか落ち着こうと恥ずかしさで震える手でサンドウィッチを1つ取る。
具がパンパンに入った玉子サンドだ。
明里さんの方もカチャカチャとパスタをフォークに巻いている。
長方形に切られた玉子サンドを口に入れると、プルプルのスクランブルエッグの中に荒く潰したゆで卵が混ぜられており、パンに塗られているマスタードとマヨネーズがとても合っている。
う〜ん、これもめちゃくちゃ美味しい。
「あ、美味しい…」
心の中で玉子サンド食レポをしていると、向いの席から感想が聞こえてきた。
「ね、ここのボロネーゼ美味しいよね」
「うん!めちゃくちゃ美味しい!」
元気な返事にひとまずホッとした。
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