105話
「今日は何時まで居られるの?」
なんだかんだで7時を過ぎている。
本当はご飯を食べたら帰る予定だったんだけど、今は自分の家まで歩けそうな気がしない…
「あんまり遅くまでお邪魔するのは悪いから8時までには帰ろうかと思ってる」
「えー…あと1時間もないじゃん…」
寂しそうな顔になってしまった明里さん。
そろそろアレ渡そうかな…
ゴホンと1つ咳払いをして意を決する。
「あ、明里、ちょっと渡したい物があるんだけど…手出してくれる?」
そう言ってポケットからネックレスが入っている小さな袋を取り出し、明里さんの手の上に置いた。
「えっ、これどうしたの?」
「サ、サプライズしようと思って今日買ってたんだ」
「全然気づかなかったよ!」
そのせいで戻るのが遅くてナンパされちゃったんだけど…
「開けていい?」
「うん、その…気に入ってくれるといいけど…」
恥ずかしさと緊張感から思わず頬を掻いてしまう。
「わ!ネックレス!可愛いー!ありがとう!」
目の前に掲げて嬉しそうな明里さんを見てホッとした。
「着けて着けて!」
そう言ってネックレスを俺に渡して後ろを向いた。
明里さんは俺が着けやすい用に髪の毛をかき上げてくれている…普段は見えていないうなじを見ると心臓が高鳴る。
震える手を気合いでなんとか抑えながら、明里さんの腕の隙間からネックレスを通し、うなじの後ろで留め具を着けた。
「出来たよ」
「どう…かな?」
俺の言葉に振り返った明里さんは少しモジモジしながら不安そうに聞いてきた。
「うん、か、可愛い…」
「ほんと?良かったぁ」
パァッと明るくなった笑顔にとてもよく似合っている。我ながらなかなか良いセンスを発揮したみたいだ。
「ちょっと待ってね」
そう言って部屋にある姿見の前に移動し、ネックレスを色々な角度で確認して戻って来た。
「ありがとう!めちゃくちゃ大事にするから!」
「気に入ってもらえたなら俺も嬉しいよ」
「えへへ、毎日つけちゃう!」
それから2人で部屋でまったり過ごしていると、時間なんてあっという間に過ぎてしまうもので、気づけば8時を回っていた。
「そろそろ帰らないと…」
「あ…もうこんな時間になってたんだ…」
明るかった明里さんの表情が寂しそうなものに変わった。そんな顔されると帰りたくなくなってしまう。
「また明日…だね」
「うん…また明日」
剛志さんと愛菜さんへ挨拶をするため2人で部屋を出てリビングへと向かった。
リビングへと繋がるドアを明里さんが開けると2人ともソファに座ってテレビを見ていた。流石に夜ご飯の片付けも終わっているみたいだ。
「お邪魔しました」
「あら、もう帰るの?」
「明日から学校ですし、あんまり遅くまでは迷惑になるので…」
「直樹くんならウチは全然気にしないんだけど」
「はは、ありがとうございます」
…嬉しいことを言ってくれる。
「まぁ気をつけてね、またいつでもいらっしゃい」
「ありがとうございます」
「…気をつけてな」
「お邪魔しました」
無事挨拶も終わって玄関で靴を履いていると明里さんも靴を履きだした。
「外出るの?」
「うん、お見送りだよ」
そのまま2人で玄関を出た。
「今日は楽しかったよ!」
「はは、俺も楽しかった、ご飯もめちゃくちゃ美味しかったし、じゃあまた明日」
「…うん、またね」
「直樹!」
歩きだして道に出るとき呼び止められ、どうしたのかと振り返ると目の前に瞳を閉じた明里さんの顔があった。
「!?」
唇に感じる不思議と柔らかい感触に俺の体は固まった。
思わず〔うわぁ…まつ毛ながぁ…〕と今はどうでも良いことが頭に浮かんだ。
数秒のことなんだろうけど、世界がスローモーションになってしまったのかと思うほど時間が遅く感じた。
小さくチュッという音を出してゆっくりと顔が離れていく。
開かれた目と目が合い、一瞬で暗い夜のなかでも分かるほど明里さんの顔が真っ赤になった。
「わ、私のファーストキス…今日のお礼!また明日ね!」
未だに固まっている俺にそう言って、パタパタと走って家へと入っていった。
手で自分の唇に触れる。
…ファーストキス…いま俺たちキスしたのか…
そう自覚した瞬間、火が出そうなほど顔が熱くなった。
…えっと…家、家に帰らないと…
少し歩いては感触を思い出し、ボーッとしてしまう状態と格闘しながらも自分の家にたどり着いた。
リビングに入ると父さんと母さんがテレビを見ていた。
「た、ただいまー」
「おかえりー夏休み旅行行くんだって?」
なんとか平静を装いつつそう言うとニヤニヤした顔で母さんがそう言ってきた。
…愛菜さんもう連絡してくれてたのか。
「えっと、今日誘ってくれたよ…行ってもいいの?」
「…せっかく誘ってくれたんなら行っても良いんだけど、着いていくのだって本当はタダじゃないのよ?そこの所はちゃんと理解してる?」
「うん」
…さすがにそれは分かってるつもりだ。
「ちゃんとお礼言って迷惑かけないように気をつけなさいよ」
「うん、わかってる」
「せっかく行くなら楽しんでおいで、羽を伸ばせる時間も限られてくるからな」
「…ありがとう父さん」
「とにかく、行く方向で返事はしておいたから」
「ありがとう」
よし!連絡してくれてありがとう愛菜さん!!
飛び跳ねて喜びたかったけど父さん達の前ではなんとか我慢することに成功した。
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