1話
中学生活最後の春
本来なら輝かしい青春時代の真っ只中。
同い年の連中がそんな明るい中学時代最後を迎えようとしている中、灰色の学校生活を送っている俺、三津島 直樹
3年生になって初めての行事である始業式も何事もなく終わり、新しく割り振られたクラスに移動し
指定された自分の席に座ってどんな人達と同じクラスになったのか改めて眺めていると、教室の後ろの方で楽しそうに話をしている女子グループをみた時、俺の心が高鳴る。
今年は西條さんと同じクラスか…中学生活最後に思い出をくれてありがとう…神様…
学年でも可愛いランキング上位に入る西條 明里
俺はそんな西條さんに、中学になりたての頃から一目惚れしずっと片想いしている。
俺は明るくて可愛い西條さんとは違い、やぼったい眼鏡をかけ、ボサボサの髪で、一目で暗いと分かる雰囲気を纏った陰キャ男子である。
一方西條さんは、背が高く、中学生にしては垢抜けていて、女子のなかでもカースト上位の陽キャ女子。
女子同士で話す時は笑顔で話す傍ら、男子が相手だと冷たい態度になる、そんな女の子だ。
ガラガラ
ドアを開けて新しいクラスの担任の先生が入ってきた。
「おまえらー新学期初めてのホームルーム始めるぞー今日は2時限使ってロングホームルームが終わったら解散だぞー」
担任の佐々木 優香先生29歳
「3年だからもう自己紹介無しなー、知らんやつもいないだろ」
サバサバとした性格で生徒からは付き合いやすい先生として有名な人だ。
佐々木先生は黒板に委員会の名前を書いていき
「今日は3年生初日だから今年1年間の委員会決めるぞーこの委員会に入りたいって思っているやつーじゃんじゃん立候補してくれると私は嬉しいなー、立候補者が居ない場合、私から声掛けるからなー」
と、明るい声で言っている。
それを聞いた生徒たちは近くの友人たちとガヤガヤと話し出す。
そんな周りに話す友人など居ない俺は
委員会かぁめんどうだなぁ、もしなるなら楽な委員がいいなぁ…と考えていた。
特に親しい友人もおらず、学校が終わると真っ直ぐ家に帰って、趣味である漫画やゲームを優先したい俺はもちろん帰宅部だ、別に進んで立候補する様な性格でもないし。
クラス委員長を決める時は少し手間取ったが、あとは順調に決まり、最後に残すは美化委員を決めるのみとなった。
「美化委員誰かなってくれるやついるかー?」
先生の言葉に、クラスから誰も手を上げる生徒はいない。シーンとしている。
「ハァ、毎年美化委員は毎年人気ないなぁー誰かいないかー?」
美化委員は週に1度ほど放課後に学校内の清掃があり、他の委員会と比べても時間の拘束も多く特に人気が無い委員だ。
美化委員かぁ…誰も立候補なんてする人はいないだろうなぁ…
そう思いながら辺りを見回すと、佐々木先生とバッチリと目が合ってしまった。
うわぁ…目合っちゃった、気のせい気のせい気のせい……
祈るような気持ちで下を向いていたのだが
「おっ!三津島!いま私と目があったよな?
頼む!このままじゃ決まりそうに無いんだ、良かったら美化委員やってくれないか??」
先生に声を掛けられてしまった。
「え、えぇ…俺ですか!?えぇ…」
大人しい性格に、陰キャゆえ強く断ることが苦手な俺、そこに畳み掛けるように先生から
「すまん!このままだと決まりそう無い…無理か?」
両手を顔の前で合わせ、片目を瞑りながら頼んでくる佐々木先生。
申し訳なさそうに頼んでくる先生の提案を断る勇気も無く
「わかりました…じゃあ美化委員やりますよ…」
しぶしぶだが美化委員になることを了承した。
「ありがとう!三津島!!」
と黒板の美化委員男子の所に俺の名前を書く佐々木先生。
断れなかった…自分が憎い…
そう頭の中で考えるのが精一杯だった。
男子の美化委員が決まって安心したような表情の佐々木先生は
「じゃあ次は女子だな!誰がやってくれる人いるかー?」
と、誰に声をかけようかクラスを見渡している佐々木先生。すると1人の女子が手を挙げていた。
「西條??」
「ハイ!私やりたいです!」
西條さんが手を挙げていてたのだ。
「おお!西條やってくれるか!女子もなかなか決まらないと思っていたからな、ありがとう!」
そう言って黒板の美化委員女子の所に西條さんの名前を書く。
すると、クラスの男子達の間で「うわぁ、西條さんが相手なら立候補しときゃよかったわー」など後悔の声が上がっていた。
まさか西條さんが立候補するなど思わず、美化委員になったことに鬱蒼とした気持ちになっていた俺は
え!?!?西條さんと同じ委員!?うわっめっちゃ嬉しい!ありがとう佐々木先生!!
と、さっきまでの沈んでいた気分は一気に嬉々とした気分になった。
キーンコーンカーンコーン
「よし!じゃあホームルームはここまで!今日は始業式があったからこれで解散なー明日から通常授業だから忘れ物するなよー」
始業式だけだったためほとんど何も入ってないカバンを持って、教室から出ようとすると
「三津島くん、これからよろしくね!」
笑顔の西條さんから声をかけられ「え!?あ、うん、よろしく…」
若干挙動不審になりながらも、なんとか返事をして教室から出た。
西條さんに声かけられた!!!緊張してチラッとしか顔見れなかった…まともな返事もできなかったけど…笑顔可愛かったなー……………ん?笑顔??男子の俺に笑顔だった?チラッとしか見てないから気のせいだったのかな?
この日から俺の灰色だった青春に徐々に色が付き始めた。