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採取

 「ナインスター、貴様はマナーハウスに戻りトマス領主にこの事を伝えろ」

 「そんな!私だけ逃げるようなことはできません!」

 「戦いに尊厳など求めるな!何が最善であるかを考えろ、今領主館は手薄、門を閉ざすように伝えろ、敵はこいつらだけとは限らない」

 「くっ、分かりました・・・・・・ですがホランド殿も必ずご無事で!」

 「ふっ」バフンッ デカい掌が再び背中を押した。

黒づくめの三人、体格から見て男が二人、女が一人、いずれも若い。

 剣鬼団ハウンド、サバット使いのエロース、長い髪を緩く編んだ男グラニュー、そして一番若いというより子供のような男がニュクスだろう。

 マントを落とすとやはりドラゴン・スーツだ。

 「白髪鬼ホランド殿とお見受けいたします、一太刀交えて頂こう」

 サラサラの金髪を靡かせて一歩前に出たのはグラニュー、いかにもキザでナルシストの匂いがプンプンする。

 「・・・・・・」白髪鬼も応えるような真似はしない、殺気で意図は十分に伝わっている。

 「グラニュー、一人で大丈夫かい、手伝うおうか?」と言いながらもエロースはキセルに乗せた煙草に火を点ける、はなから答えを知っている。

 「知れた事・・・・・・」スラリと抜いたサーベルは長い、日本刀でいう野太刀に近く一メートル以上ある、しかし白髪鬼ホランドの大剣の前では貧弱だ。

 片手剣主流の世界でホランドの剣はツーハンドデッドソード、三角形の先端は二重に強化され分厚い鎧もホランドの膂力と相まって楽々と突き通す。

 大剣の一撃をまともに受ければグラニューの野太刀は粉砕されてしまうだろう。

 一対一では圧倒的に不利な状況でグラニューは余裕の表情だ、巨大な剣を持った鬼を前にして恐怖を感じていない、実力が成せるものか、単なる蛮勇か。

 剣を交えれば分かる。

 ゴッ 掛け声などない、初手は白髪鬼、様子見などしない、初撃から必殺の突きが飛ぶ、大剣の長さと巨人の腕の長さで長槍の射程を誇る突き、バックステップで躱すのが定石、しかしグラニューの動きは逆、劣らない速度で前に踏み込む、ギャリィィンッ 突きを受け流すサーベルが火花を散らす。

 突きを躱し踏み込みながら自身の間合いまでくると大剣の上を滑らせるようにサーベルを打ち下ろす、狙いは指だ。

 「ふんっ」軽くスナップを効かせると大剣はその切っ先を斜め下に向かい打ち下げる。

 振り下ろそうとしたグラニューは圧力で剣ごと体制を崩されて転がった。

 「くっ!やりますね」

 ガシュッ 「うっ!」やり取りなどまっていない、転がった体制が立ち直る前に追撃、

 ビュッ ビュッ 体格に似合わず白髪鬼の剣劇はコンパクトだ、振り抜くような大振りはしない、見た目は地味だが小さな振りでも大質量の大剣に生身で掠れば骨折は免れない。

 「くそっ!」最初の余裕は霧散している、グラニューは転がりながら剣を交わすしかない。

 地面を打つ白髪鬼の足捌きはステップを踏まない、スタンスの幅を変えながらリズムを不規則にして間合いを変えている、有利に運びながらも油断をしていない。

 「予想以上に強いわね、白髪鬼ホランド」エロースがキセルの煙草を捨てる。

 ドギャッ 打ち下ろした大剣の燕返しがグラニューを捉えた、辛うじて自身の刀を当身にしたが身体ごと空中まで吹き飛ばされる。

 ドッシャアッ 「ぐっはああっ」胴体が凹んでいる、打たれた肋骨が折れているのは明白だ、サーベルは九の字だ。

大柄な戦士は愚鈍に見られがちだがホランドは違う、その剣は基本に忠実、最小限の動きで効率的な破壊を狙う、自分より小さく早い相手に対処するためのものだ。

ゴロゴロと転がり仲間の前で止まったきり動かなくなる。

「あらあら役立たずのキザ男さん、口ほどにもない」

「だから手伝うって言ったのに・・・・・・相手と自分の技量を測れないようじゃ剣鬼団は務まらないよ」

 ゴスッ ニュクスが転がったままのグラニューを蹴飛ばした。

「まあ、いいや、次は二人でやるよエロース、プランBです、いいね」

「分かりました、ニュクス様」常に冷やかし態度のエロースが礼で応える、見た目は子供だがハウンド内での序列は違うらしい。

 「ホランドさーん、あのさぁ、もう一人女の人がいたでしょう、あの人は今日いないのかなぁ」

 「・・・・・・」やはり答えずにゆっくりと森の端まで後退する、逃げるつもりか?

 「応えてはくれませんか、本命がいないのは残念です」

 「知らんな、誰の事だ」初めて答えた。

 「まあまあ、僕たちも基本的には平和主義者なのですよ、目的の物が手に入れば争いたくはないのです、ご理解いただけませんか」

 話ながらニュクスとエロースは左右に展開する、挟み込むつもりだ、それを読んだホランドはエロースに向かい突進する。

 「せっかちだねぇ!!」エロースも広場中央に向かって走り出す、同時にニュクスも動いた、三人が中央の一点に向かう!どちらの策か!

 ガッキィィィン 再びの火花が咲いた。


 中途半端に決着はついた、短槍エルザとバウンドインプを襲った剣鬼団ハウンドの二人、うち一人は死亡、タイマンになった二人との実力は拮抗、互いに決定打がないままに終焉したが・・・・・・エルザもインプも浅く肉を削がれていた。

 「あいつらの戦い方はおかしかったね、殺気はあるのに殺そうという間合いじゃなかった」

 「儂もそう思った、最初から浅く入れる事だけを考えていたようじゃ」

 「少し持っていかれたよ」腕を捲ると僅かだが浅く削られた跡がある。

 「儂もじゃ」インプも同じような傷が腕にあった。

 「傷跡が似ているな、奴らの切っ先にあった器具のような物の跡じゃ」

 「何太刀が入れられたかい?」エルザの顔は悔しそうだ。

 「いや、通らんかった」インプも眉根を寄せて応える。

 「最初の男はボンクラだったけど後の二人は・・・・・・技術というより基礎体力が異常だ」

 「あと反射神経や動体視力も人とは思えんかった」

 「いいとこ五分、奴らが引いてくれなかったら相打ちを覚悟するところだったよ」

 「ノスフェラトゥとかいう異教の者どもか、一体何がしたかったのじゃ」

 「人の血肉を集めて回っているのなら何とも異教らしく悍しい、ゾッとするね」

 「狙いはダーク・エリクサーかと考えとった、行きに襲ってこんからおかしいなと思ったんじゃ、狙いは違ったようじゃ」

 「我々の血肉そのものが狙いだったなら・・・・・・残った三人も危ない」

 「急いで戻ろう」

 二人は段々畑のあぜ道を走り出した。

 

 トマスのマナーハウスに着くと宿泊棟の部屋で白髪鬼ホランドが足に受けた傷を治療中だった。

 「どうやらお客さんがあったらしいね」

 「そっちもか!?」

 「剣鬼団ハウンドとか言っていたな、三人だ、一人は殺したが二人はやり手だ」

 「すいません、僕が役に立たないためにホランドさんは三人を相手に」

 マナーハウスに襲撃者の連絡をしてナインスターは踵を返して広場へ戻り、負傷したホランドを見つけた、肩を貸そうにも手は届かない、その場で松葉杖を作り、大剣を背負って帰還したのだった。

 「へえっ、あんた器用じゃないか、有り合わせで造ったにしちゃ上出来だよ、何しろ白髪鬼の体重を支えられるのなら合格だろ」

 特大の杖を見てエルザが感嘆する。

 「こんなこと出来ても・・・・・・不甲斐ないです」

 「そぉんなことはなぁいですよ、武力だけが人の価値ではあぁりません、社会にはいろいろな才能が必要なぁのです、それを生かしてこそ社会も自分も幸せになぁれるのです」

 トマスが絵師を連れて入ってくる、人相書きを作るためだ。

 「女一人にチビが一人、この傷は女の蹴り技だ、靴に仕込みがしてあった」

 「あんたの大剣を躱して蹴り技!?ちょっと信じられないね、相当な大女だったとかかい?」

 「いや、恐ろしいのはチビの方だ、恐ろしく早い、そして懐が深い、俺以上に間合いが遠かった」

 普段から無口で表情に乏しい白髪鬼が珍しく悔しさを滲ませた。

 「私らも負けたとは言わないが、正直相打ちだね、いや血肉を持っていかれた分負けかな」

 「血肉!?とはどういうことでぇすか?」

 トマスが反応する、心当たりがあるようだ。

 「このとおりさ、今回の襲撃のターゲットは多分私らだ、私らの血肉が欲しかったのだと思う」

 インプが腕を捲って見せる。

 「これは!?同じだ、今領内に出没している辻斬りの傷跡にそっくりだ」

 「辻斬りだって?」

 「そうだ、金品を取るでぇもなく殺すでもなぁいが、すれ違いざまに襲われる事件が多発してぇいるのだ」


 「関係するのは・・・・・・ノスフェラトゥ教団」

 「!?」

 皆が振り返った先に幽霊女エミーが廊下の暗がりに立っていた。


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