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五人の冒険者

 「お前は・・・エミリアン・ギョーと、冒険者だな」

 受け付けた係員はエミーの顔も見ずに素っ気なく答えた。

 その日の朝、トマス・バーモンドの屋敷の前に集まった臨時警備兵はエミーを含めて僅かに五人だけだ。

 「私は十人と言ったはずだぞ」

 大扉の奥から腹を突き出しながらトマスがペコペコと頭を下げる次官に説教しながら歩いてくる。

 「なっ・・・」

 扉の前に集合した五人を見てトマスはまた絶句した。

 「なぁんなのだ、こぉいつらはぁ!?」

 大小バラバラの五人、しかも二人はシジイで二人は女、最後の一人は若い男だがどうみても子供だ。

 「すいません、領内で声をかけまくったのですが・・・」

 「だめだぁ、これじゃ勝負になぁりません、むざむざ死人は出せない、作戦は中止でぇす」

 踵を返したトマスの背中に声が飛んだ。

 「ちょっと待ちな!」

 「んっ!?」

 声を上げたのはエミーの隣にいた女で骨太で浅黒い肌に黒髪を編んでいる、肩に担いだ短槍は使い込まれているのがわかる。

 (この人は相当に強い)エミーは飴色に光る柄の握り部分を見て推察した。

 「中止は結構だが我々をここまで集めた賃金は支払ってもらうよ、こっちも色々都合つけてきたんだ、タダというわけにはいかないねぇ」

 姉さんと呼びたくなる威風堂々とした声だ。

 「おうよ、新領主、いや仮領主殿、まずはどのような作戦だったのか話してはくれまいか、中止云々はそれからでもよかろう」

 その隣は一番大柄なジジイだ、身長は二メートルを超えているだろう、髭まで白髪で皴が深いが背筋は鉄棒を飲んだように真っすぐだ、体格に見合った大剣を背に背負っていた。

 (こいつは・・・ジジイじゃないな、以外に若い、四十前後か)白髪は元からだろう、皴が深いのは紫外線の強い高所か海の近くが長いせいだ、大昔には海を渡った大陸に今は無き巨人の国があったそうだ、末裔だろうか。

 「そうじゃ、どうせ領内にはもう警備が勤まるような人材は残っちゃいやせん、だったらいる人間でこなせる作戦に変更するべきだと思うぞ」

 一番端のジジイは小さいが筋肉の達磨のようだ、手足のコブが異様に膨らんでいる、鉄兜を被り肩には小型のハルバートを担いでいた。

 (こいつも・・・得意は足か)上半身の鎧に比較して脚は軽装にして自由度を高めている、低い体勢で速度を生かした攻撃が得意と推察した。

 「私の名はサーヴ・ナインスター、サーヴ流剣術道場を主催する父の元で修行し、免許皆伝を得ている、作戦の遂行に不足はないはずだ」

 真新しい革の道着、腰に付けたサーベルにも傷一つない、典型的な貴族剣士、道場武術だ。

 (人を殺したことはないな)ナインスターの名から九番目の子供なのだろう、真っすぐな視線は素直さの表れか。

 エミーを除く全員が一歩前に踏み出してトマスに返答を迫った。

 「皆さん本気でぇすかぁ、最低十人ということはぁ十人で成功の見込みギリギリということですよぉ、それを半分の人数、リスクは倍でぇはなく四倍でぇすよ」

 「じゃあ、給金も四倍かい!?」

 「それほど自信があぁるのか単なる守銭奴か、ですが作戦の内容を聞いたら途中で降りることは出ぇ来ません、よぉろしいですか?」

 「あたしは構わないよ、金さえもらえれば期待は裏切らないさ、あんたはどうするんだい?」

 短槍使いの女が終始無言だったエミーに尋ねた。

 「私はどちらでも構わない、ただし契約期間の延長は出来ない、先約がある」

 「羨ましいねぇ、仕事には困ってないってわけか」

 「決まりだ、仮領主、話を聞こう」

 「仕方ない、次官、皆さんを会議室に通してくぅだぁさい」

 

 エミーたちは領主館の会議室に通された、かつてカーニャの屋敷だった場所、その面影が日焼けしていない床や壁に白い跡となって残っている、今は殺風景なガランとした空間だ、簡素な椅子に全員が着座するとトマスが一段高い箱の上に乗った。

 それでようやく着座した白髪巨人と視線が同じになる。

 「まぁずは自己紹介から、私は現在この領の運営を任されているトマス・バーモンド、ちぃなみに嫡男ではありません、立ち上げ次第元の王家事務官に戻ります」

 「事務官?具体的にはなにを?」

 「都市計画と整備です」

 「戦争は畑違いか」

 「そうとも言ぃえませんよ、都市計画とは戦争を起点に考えるもぉのです」

 「私はエルザ、短槍のエルザだ、冒険者だよ」

 「俺は白髪鬼ホランド、白兵戦は任せてくれ」

 「儂はバウンドインプと呼ばれとる、乱戦や森の中の戦いなら誰にも負けんぞい」

 「私は先ほど名乗った通り、サーヴ・ナインスター、正義の剣士だ」

 本人は真剣だ、がエミー以外の全員が奥歯を噛んで笑いを押し殺した。

 「フレジィ・エミー・・・得意は奇襲だ」

 奇襲と聞いてチラリとサーヴの視線が厳しくなる。

 「エミーさん、はて、どこかでお会いしましたか」トマスが首を傾げる。

 「いや、ないな・・・、もういいだろう、話をすすめてくれ」

 王都の事務官なら皇太子婚約者フローラ・ムートンの顔を見たことはあるだろう、今は敵対しているわけではないから似ているだけで無用な誤解を生む心配はなさそうだ。

 トマスは巷の評判どおりの男だ、貴族の一員であることより王都事務官であることに誇りを持っているように感じる、敵性派閥だったとはいえカーニャに対する仕打ちを仕組むような人間とは思えなかった。

 早い段階で探りを入れても良さそうな気がする。

 「そうですねぇ、分ぁかりました説明しましょぉう、今ぉ回皆さんにぃお願いしたいのはぁ・・・昨今我が領内を荒らしている廃藩貴族の残党と思われる盗賊団の討伐でぇす」

 「アジトは分かっているのかい」

 「不明ですな、ですが餌は撒いてあぁりますよ、当方が接収した貴金属品を偽の倉庫に集めると流布しぃてあります」

 「反応はあったのか?」

 「ええ、さっそく下見と思われる連中を確認しました」

 「相手の数と装備は?」

 「それも不明です、今までの状況から言えば騎馬の十騎程度、剣や槍、銃は確認されていません」

 「かーっ、相手の情報無しかよ」

 「引き返せないと申したはずです」

 「こっちの戦力は」

 「バーモンド家の重装兵士が十五名、ただし荷物の護衛だけで戦闘には参加できません、さらに騎兵が五名です」

 「騎兵?」エミーが尋ねる。

 「今回の餌場は入り組んだ路地にあります、馬は追跡用です」

 「で、やっぱり戦闘には参加しないってわけだ」

 「路地か・・・」エミーの指が首元に伸びる。

 「偽の宝物を重装兵士がカードしてぇ運び込ぉむところを見せつけておいて、その後重装兵士はぁ解散、警備が薄くなったところに盗賊共をおびぃき寄せます」

 「それで中で待っているのが俺達というわけか」

 「その通りです」

 「倉庫内部の大きさは?」

 「二十メートル四方、内部の柱は中央に二本、ダミーの箱が積んである」

 「悪くないね」エルザ姉さんが片眉を上げて自信ありげにニヤリと笑った。

 「ひとつ確認したい」エミーの声が静かに響く。

 「なぁんでしょうか?」


 「賊は生かすか?殺すか?」その声は北風のように部屋の温度を冷やした。


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