8.従六位上②
【人物】
藤原夏良 主人公 12歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は藤原冬嗣。藤原北家
孫興進 「内使掖庭令」の趙宝英とともに、第16次遣唐使に随行した判官4名のうちの一人で、趙宝英が遣唐副使の小野石根とともに海の藻屑と消えてからの唐の返礼使の代表者として、宝亀10年(779年)4月、京に入った。朝廷は将軍らが騎兵200名、蝦夷20人を率いて、京城の門外の三橋で接見している
家に帰ってからの彦兵衛の動きは早かった。
従者や女中に指示して必要なものを整理して馬車に積み込んでいく。
「最低限な物だけにしております。夏物は来年に送るようにして、冬は寒いと聞いてますので、防寒具を中心に送らせています。家族のいない女中を中心にお供しますのでご安心ください」
「現地の二平に相談しながら聞いてみるよ」
「農地の改革以外の身の回りについては、我々がお供しますので二平様とは農地改革を専念していただければと思います」
「分かった」
翌朝、出かける馬車への準備をしていると、賀茂伊勢麻呂氏がやってきた。
「この度は伊治地区の任務おめでとうございます」
「いえいえ、目上の方からそのような事を。勿体ないお言葉で、申し訳ない」
「とんでもない、位は一つ上ですが、すぐに追い越されることは分っております」
「そのようなこと言わないでください。ところで、お願いがあるのですが」
「なんでしょう」お願いと聞いて少し喜ぶに顔になった。
「治水工事に秀でた人をお送りいただきたいのです」
少し考えた顔になったが、ハッとした顔になる。
「孫興進の配下だった金大明氏を推薦しますね」
孫興進って誰??
「孫興進氏を知らないのですが」
「唐使として来られた方で、天皇へ送られた役人の一人です」
「そのような方を私に?」
「孫興進氏の配下ですが、ええ、なんでも、日高見川に興味があるとか」
「その川の事は分りませんが、伊治地区で役にたっていただけるのでしら是非欲しいです」
「分りました。手配しますが、伊治地区までに行くには時間がかかるかも知れません」
「大丈夫です。来年から始める事業なので、時間はたっぷりあります。ただ、冬に入ると移動は大変だと思うので、冬前か春になったら来ていただくようにお願いします」
「冬前には行けると思います」笑顔で話す賀茂伊勢麻呂だが、少し心配そうでもある。
「無理しないでくださいね。可能であればで良いので。」
「金大明氏がだめでも、優秀な人物を送ります。最悪私が。」
「いえいえ、賀茂伊勢麻呂さんが来られると京が水没してしまいますよ」
笑う二人の横を彦兵衛が来て「用意が出来ました」と告げた。
「では、申し訳ありません。行ってきます」
馬車はいつの間にか2台となり、東へ向かった。
「治水工事が何故必要なのでしょうか」疑問に思ったのか、彦兵衛が聞いた。
「稲作には豊富な水の確保が重要ですが、ありすぎる川だと水害対策も重要になります」
「分りませんでした。」
記憶だと、宮城県の稲作の中心は仙台平野だったような気がするが、位置関係がよく分らない。
多賀城の辺りな気がするが、定かではない。仙台が盛んになるのは戦国時代だった気がする。
試験的な試みなので良い場所だと思うが、治水まではやり過ぎな感じもしているので、状況に任せようと思っている。
「清水寺に寄りますか?」清水寺を見ながら言う彦兵衛だが、首を振って応える。
「次に会うときは、報告の時でしょう。」
「そうですね」
東山道を進み、数日が過ぎた。
「ご主人様。多賀城の西を通過しています。」
「平坦ないい場所だな。やはりここら辺が一番環境が良さそうだ。」
「何もない雑草地が多いですが、畑は点在しますね、よく植物は育ちそうです」
「宮城の一大稲作地帯だからねえ」
「ミヤギって何ですか?」
「いやいや、いい場所だなあ、って言っただけだよ」
800年後の話であり、ダブル平安時代の後には一大生産地となる黄金の大地を想像し、通り過ぎていく。
しばらく進むと目的地が見えてきた。
「今治城が見えてきました」
二平が手を振って出迎えてくれている。
「さあて、始めますかね」
次回エピソードの更新日は 2024年11月25日 09時00分 です 宜しくお願いします