7.従六位上①
【人物】
藤原夏良 主人公 12歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は藤原冬嗣。藤原北家
坂上田村麻呂 生没年:758〜811
平安時代の公卿、武官。4代の天皇に仕えて忠臣として名高く、桓武天皇の軍事と造作を支えた一人であり、二度にわたり征夷大将軍を勤めて征夷に功績を残した。薬子の変では大納言へと昇進して政変を鎮圧するなど活躍。死後は嵯峨天皇の勅命により平安京の東に向かい、立ったまま柩に納めて埋葬され、「王城鎮護」「平安京の守護神」「将軍家の祖神」と称えられて神将や武神、軍神として信仰の対象となる。
馬車に乗って移動する藤原夏良と彦兵衛。
御者は京都ー蝦夷までの往復を鈴鹿疾風が手配してくれたので、任せていられるので安心である。
心地よい振動と疲れから二人とも熟睡している。
急がない馬車なので3日で帰る予定。
しばらくして日が出た頃に二人とも起き出した。
「彦兵衛、伊治城での話だが、農地改革を約束したので、地域を任され、そして正七位上を賜った。」
「すごいですね。先日官位を賜ったばかりと言うのにもう七位ですか。深緑の官服ももう用意しといた方がいいですかね。」
深緑は六位の官服の色である。
「さすがに六位となると父親と数字では同じになってしまう。」
「しかし、地域を任されるのであれば、郡司の補佐となるので、式部省であれば小丞になるので、従六位上になりますが、お父様と2階級差はどうかと思います。」
「やな事言うねえ」
段々と食欲が無くなってるのは、急激な昇給のせいなのか、馬車酔いのせいなのか分からなくなってきた藤原夏良。
琵琶湖を過ぎてしばらくすると建築中の清水寺見えてきた。東山道を必ず通るので、北側の良い場所にお寺を建てている。ちょうど東山道からは見上げるような感じになる。
「見上げる効果を考えてこの場所なのかなあ」
独り言のように言っている藤原夏良
清水寺境内に入ると相変わらず横になっている
「おお、来たかい。」
「戻って参りました。」片膝を着く藤原夏良を見る坂上田村麻呂。満足した顔である。
「鈴鹿疾風からの報告では、伊治城を無血開城した上に、伊治地区を任されたとか。」
「その通りです」
「詳細を報告してくれ」
「はい」伊治城への潜入と交渉の内容を説明する少年を見て苦悶の顔をする坂上田村麻呂は立ち上がって藤原夏良の肩に手を置いた。
「のう、藤原夏良よ。自信はあるのかい。」
顔をあげ、「はい。鈴鹿疾風様からは『延暦19年10月まで猶予を与える』とは言われましたが、早くて、一年いただければ分かるかと思います。」
「いや、無理せず2年間で結果を出せ。」
「かしこまりました。」
「それと、兵部省と式部省には話しておいたが、郡司に仕えるとなると従六位上じゃないと指揮できないので、官服も変更してくれ」
「かしこまりました」
顔を上げた時に彦兵衛と目が合った。
『言った通りになりましたね』と言う目だ。
「最後に、」と続ける坂上田村麻呂
「地域を束ねるなら部下も必要となるだろうから必要な人員は式部省へ依頼してくれ」
「ご配慮ありがとうございます」
言い終わると広間の真ん中で大の字になり休む征夷大将軍。頭を下げて出ていく藤原夏良は無言で彦兵衛と出ていく。
「本家に報告していきましょう」彦兵衛は馬車に乗ると笑顔で言った。
その足で東山道の終点へ馬車に乗り向かう。
「ふうぅぅ」溜め息をつき大きな門の前に立ち開き切るのを待たずに入っていく。
周りの従者から「おめでとうございます」という賛辞の声が聞こえてくる。
少し歩いて奥へ入っていく。その間にも従者が何人もすれ違う。初めて見る顔も多い。
扉を彦兵衛が開くと、奥にいた父親が振り返った。
「お帰り」書斎で迎える藤原冬嗣。
顛末を報告し終わると。笑い出した父親。
「イヤイヤいいね。あまりにも常識外と思ってはいたが、私が10年かかった昇格が、数日とはな。しかも、2年後には私を追い抜くのは確実とな。彦兵衛も笑う以外ないだろう」
無言で頷く彦兵衛。
「まあ、親子で同じ官服を着るのも感無量だが、帰りに私の予備を持って帰れ。服には困らないぐらい我が家にはあるだろうから。まあ、疲れているだろうから今晩は良く寝なさい」
「ありがとうございます」
家を出て、空を仰ぐ藤原夏良。
「まあ、想像通りかな」
「お疲れ様でした」
京の田んぼの稲はやはり整備されて綺麗である。
黄金の稲穂がお祝いしているようだ。
「帰りますか」
深緑の官服を大事そうに持つ彦兵衛が続いて行く。
次回エピソードの更新日は 2024年11月24日 09時00分 です 宜しくお願いします




