66.帰国①
【人物】
藤原夏良 主人公 31歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は桓武天皇。養父が藤原冬嗣。藤原北家。良岑安世の名をもらう。妻は雪子、桜、京子。子は長松、宗貞、豊晨姫。
817年 弘仁8年3月
平戸を出て、太宰府経由で平安京へ向かっている。
陸路で荷物を運ぶには適さないため、海路で京へ向う。
「馬で走って通った時には景色とか見る余裕なかったな。11年前に太宰府から2日間馬でひたすら移動したことを思い出すよ」
彦兵衛に話した藤原夏良だが、彦兵衛は大明民さんを案内して楽しげに話している。
いつも藤原夏良の横を目をぎらつかせて従えていたイメージであるが、別人のようである。
「なんか寂しいな」独り言を言う藤原夏良。
大明民さんは太宰府で女性物の和装に着替えてから雰囲気が変わり垢抜けた感じである。
苅田から大型船に乗り京へ向かう。
準備と荷物の搬入に時間がかかる為2日後に出発となった。
苅田から讃岐経由で難波京付近に上陸予定である。
「再び海での移動ですが、大丈夫ですか?」
甲板で準備を手伝っている大明民さんへ話した。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
と会釈して移動していった。
藤原夏良は彦兵衛を呼んだ。
「大明民さんだが、渤海との交易を任せたいと思うので、二口に話しておいてほしい。そうすれば、情報も入りやすい。今度来る渤海使船に二口の者を乗せて、現地職員として働いてもらおう。日本にいる渤海人で帰国したい人に声をかけてくれ」
「かしこまりました。渤海人の繋がりはあるみたいなので、大明民さんと一緒に組織造りしてよろしいでしょうか」
「ああ、お願いする。くれぐれも渤海王の親族である事は考慮して欲しい。周辺には王侯貴族の事は知られずにという事も忘れずに」
「はい。勿論心得ております」
「ありがとう。釈迦に説法だな」
「とんでもありません。念押しされる事は重要な事です。申し訳ありません」
出発してから数日がたち、讃岐を通過している。
「今までの荒々しい海と違い、優しい感じの海ですね」大明民さんが不思議そうに見ていた。
「ここは大きな大陸と島との間に位置しますが、外洋の影響は受けにくいんです。その為荒れる事は少ない所なんです。ただ、この先で、外洋と内海の境では大きな渦が発生するので、注意が必要な所もあります。今回は通りませんが、ご参考までに」
今で言う鳴門海峡である。
「大明民さんにお願いしたいことがあります」
「何でしょうか」神妙な顔をする大明民さん。
「渤海との交易をお願いしたいのですが、毛皮については詳しいですか?」
「渤海では毛皮は日常使いなので、こちらの方以上には分ると思います」明るい表情になった。
「黒貂や豹、熊の毛皮が中心かと思います。日本からは絹などの繊維物が中心となりますので、京へ着いたら繊維系の知識を身につけてください。」
「ありがとうございます。ご期待に沿えるよう頑張ります」
「あとは伴侶捜しですね。頑張ります」
「その事なのですが、好きな人がいるので、少し待っていただけますでしょうか」
「分りました、良くなったら教えてください」
『相手はどんな人なんだろう。一行の誰かとは思うが』
周囲の人をしばらく見回していたが、さっぱり相手は分らない。
一行は明石海峡を通り、難波へ向かう。
翌日、難波に到着。
荷を下ろし、牛車の荷台に積んでいく。
そのまま、平安京へ向かう。
「皆どうしているかな」




