4.従七位下③
鈴鹿疾風軍師から指示を受け、伊治城を目指す。
目的地である伊治城は現在の宮城県の城で、現在いる群馬駅は名前の由来もそうであるが、馬の多い駅である。大陸から運ばれた馬が多く飼育されており、日本に適するように調整されている。
軍馬を借り、全員で騎乗して進軍する。
彦兵衛は歩きのため、遅れて向かうと言っていた。
群馬からは平坦な道が続くので、馬での移動はきつくない。
「藤原夏良殿、馬を長く乗りますので疲れたら声をかけてください。予定では一晩で到着します」
騎乗のまま近づいた二郎丸鷹森が藤原夏良に告げた。
手綱を緩めても馬は集団に付いて行くので楽である。太陽を背にしていたが、左側に位置するようになる為、北上している事が分かる。
平坦な道から少し山間を進むようになってきた。
昼頃になると黒川駅に近づいてきた。現在の白河あたりで、黒川駅を超えると道奥国(陸奥国)に入る事になる。
馬を変えていると、二郎丸鷹森が近づいてきた。
「どうですか」と楽しげに質問した。
「お尻が痛いです。」正直に応える藤原夏良であるが、二郎丸鷹森は厳しい顔をした。
「これから山道に入るので心してください」
しばらく続く山道に、お尻も足も痛くなる藤原夏良
「長距離移動はそうそうないので、良い経験と思って下さい。」二郎丸鷹森が近づいてアドバイスした。
少し景色を観れる余裕が出てきた頃、玉造に到着した。今の時代では宮城県南部にある。
「お疲れ様です。ここには温泉があるのでゆっくりしましょう。」二郎丸鷹森の言葉に藤原夏良は安堵した。
「お尻を労われる。ふう」
お尻を揉んでいる姿に周りの全員が笑い、和やかな雰囲気となった。
「本日の宿ですが、それなりの宿なのでご辛抱願います」幸三が様子を見て、出てきた。
「雨が凌げれば十分でしょう」藤原夏良は独り言のように呟いた。
「隊長。潜入方法ですが、中央から税金逃れで逃げてきた兄弟という設定で行きます」
「普通であれば、元服直後の子供という立場だろうからね。一番疑われなさそうだ」
早朝に伊治城に向かう為、早めに就寝する事に。
早朝、周辺を見ると開墾された田んぼがちらほらあるが、京にある田んぼと風景が微妙に違う。
違和感を感じるが 何が違うかがわからない。
二郎丸鷹森が近づいてきた。
「ここら辺の田んぼは京の田んぼとは違うのですね」
「種もみが少ないので間隔が空いているからじゃないですかね」
稲穂の多い京と違い、稲の数が圧倒的に少ない。
何かが変だ。
昔習った律令制度を思い出した。租と公出挙だ。
藤原夏良は近くにいた農民に近寄った
「すみません、教えて欲しいのですが」
「はい、何でしょうか」田んぼを見回っていた農民が振り返る。
「ここら辺の稲は成長がバラバラだし、稲も少ないように思えるのですが」
「そうかね、租と公出挙で払うギリギリな分は作っとるよ」
「えっ、税金分だけですか?食べる分は?」
「公出挙で先にもらえる一部は食べたり返済だったりだからギリギリなのさ」
この時代、農民は強制的に貸し出される公出挙を食べてしまったり、私出挙として民間の稲もみ借金に返済したりと、従来の制度からかけ離れてしまっていた。
「稲の生育がバラバラなのは?」
「いっそこうさ」
種籾からの生産だとどうしてもバラバラに育つのか、この時代の当たり前の光景。
京では種籾で作った稲を 育成の良いものだけ植え替えているが、手間のかけられる貴族だけの話である。
「まじか」愕然とする藤原夏良
次回エピソードは2024年11月15日 12時00分です




