37.正四位上②
【人物】
藤原夏良 主人公 21歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は桓武天皇。養父が藤原冬嗣。藤原北家
808年 大同3年4月
平城天皇から神野親王に譲位されるまであと1年。
無事に譲位されるまでが俺の存在意義と思っている。
二口に来た藤原夏良。
竹箒で落ち葉を掃除する空海和尚に近寄る。
「おはようございます」手を合わせ挨拶をする。
「ずっと思っていたのですが、熊野権現のような方ですよね。何が必要か。どうすべきかを分っている」
「いえいえ、とんでもない。情報を集め、どうすべきかを対処しているだけです。」驚いた顔で応える藤原夏良。
「名も知れない私に逢いに太宰府まで来た人は初めてです」箒で木の葉を集めながら笑顔で話す空海和尚。
「唐で覚えられた知識はこの国の宝と思っています」
「新しい知識、技術は若い人に、各国に教えていかねばなりませんね」
「ご理解の通りです。そのため各国からここに人を集めておりますので、ご教授願います」お願いのお辞儀をする藤原夏良。
「特に今の仏教は貴族に偏った思想を良しとしています。万人が平等である仏教の思想から乖離しております。特に先に帰国した最澄殿の天台山は同じ密教ですが、即身成仏ではなく心を清く保つ事を求めていません。輪廻転生を主とし死んだ者が良い者へ転生することを祈るものです。」
座石へ座り、真面目な顔で話す空海和尚は座るように促した。
「同じ密教でも教えが違うのですね」座りながら話す藤原夏良。
「密教はあくまで修行が必要なものを密教としているだけで、教えないと言うものではありません。特に、最澄殿からは、太宰府の空海宛に何度も弟子を送るので教えを説いてきますが、自分が私に教えを受けるべきであり、ずっと断っています。顕教のように修行がいらないというものでは無いと思っています。正しく教えを受けるべきであり、又聞きで教えを受けて良いとするものには反対します。薬学であれば、材料、配分は分りますが、作り方までは学べません。必ず師事は必要です。」
異論はないが、意見を言わせてもらおうと藤原夏良。
「正しい教えを唱えることは重要です。ただし、万人が教えを受けることが出来ないのは事実なので、教える事が出来る弟子を多く作ることも必要です。」
「その通りですね。そう思うので、最澄からの弟子を一人師事しようと思います」
「素晴らしい考えかと思います。御仏の教えも重要ですが、薬師の教えも並行して教授頂きたいです。圧倒的に薬師の知識不足で、助けられる命が助けられていません」
「わかりました。薬房も作りたいと思います」
「葛根、ナツメ、麻黄、甘草、桂皮、芍薬、生姜が欲しいですが、麻黄と桂皮だけは唐から輸入しないとダメかもしれませんね.。」薬ゲーを思い出しながら材料を言う藤原夏良。
「葛根湯の成分ですか」
「そうですね。成分を考えて調整すれば十分と麻疹に対応できると思います。あと、切り傷用にはムラサキの根、忍冬ですかね」
「薬房に十分蓄えられるようにしときましょう。」
「お願いします」
丁度、彦兵衛も来たので、今話した内容を充実するように指示した。
「お父上からご伝言です。夕飯でも一緒にしないかと」
「分った。何か聞いているか?」
「いえ、春宮からの伝言かと」
春宮とは皇太弟の事。
「空海和尚。また来ます」
合掌挨拶して別れた。
「何だろう。胸騒ぎがする」
年末年始は不定期にアップします!すみません。




