31.正四位下⑥
【人物】
藤原夏良 主人公 19歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は桓武天皇。養父が藤原冬嗣。藤原北家
806年 大同元年10月
朝堂院の執務室に彦兵衛が報告に来た。
「遣唐使が博多津に戻りました。」
「誰が乗ってる?」
「僧侶の橘逸勢と空海という僧侶です」
あの空海?弘法大師?八十八ヶ所巡りはお供する?
有名人に会えるかと、ちょっとプチパニックに。
それよりも、薬学の知識を伺いに行きたい。
豌豆瘡(わんずかさ、今の天然痘)の治療に関してである。
しかし、遣唐使の到着の連絡がない。部下を呼んで聞いても報告がないという。
「誰か、情報を止めている?太宰師は誰?」
「藤原縄主が従四位下で太宰師も兼務です」
「藤原縄主の周辺を良く情報収集してください。」
おそらく神野皇太弟と密接な橘家派閥への牽制とは思うが、遣唐使の帰国について帝承認しているのにおかしい。
右中弁の藤原貞嗣が入ってきた。
前に、遣唐使船の遭難調査を任された真面目な男である。
「遣唐使について情報は入ってますか?」
「遣唐使ですか?任期を短くして帰国するという報告は来ていますが、到着の連絡はありません」
「到着した情報が入ったら教えてください。」
「かしこまりました」
「それと、少し休みを頂きますので、宜しくお願いします」
「かしこまりました。どの程度の休みですか?」
「一週間ほどですが、良いですか?」
「大丈夫です」
「ありがとうございます」
引き継ぎも終えて一週間の休みである。
家に帰って旅支度をしている。
「行き先は太宰府で宜しいでしょうか?」
「良く分りましたね」
「まあ、長いお付き合いなので」
「ありがとう。だから安心出来る。不在の間に情報収集をお願いします。不在の方が情報が集まりやすい事もあるので」
「確かに、気を抜きやすいかも知れませんね」
「付き人は時継でよろしいでしょうか。」
「ありがとう。任せる。」
馬で2日の旅である。
2頭並ぶが、時継はいわゆる美男の部類であり女性は必ず見入るのが面白い。
絹で顔を隠している夏良に目が行かないため重宝しているのだ。
「さあ、行くぞ」
「はい」
山陽道を進み、品治駅近辺(現在の広島県福山市)で一泊。
「宿場が開いていて良かったね」
「はい。ありがたいです。」囲炉裏で食事をいただく二人。
「旅の方はどこから来たんじゃ?」
「はい。京から来ました」
「おお、じゃけえめんこいんじゃ」
少し笑う藤原夏良。
「時継はおばあさんにも人気だな」
「不思議と嫌われることはないです」
うらやましい。
早朝に宿場を出た。
駅にて乗り換える馬が気になった。綺麗な馬だ。
「すまんが、この馬は?」
「どうかしたか?」
『非常に綺麗な馬なので」
「昨日来たお偉いさんが置いていった」
「誰だろう?」
「お付きの人はなかなりさま?とか言っておったよ」
藤原仲成、藤原薬子の兄で神野皇太弟の天敵である。
「すまんが、この馬は帰りにもらって行っても良いか?」
「お代さえいただけれ良いが。」
「2貫でいいかな」
「はい。十分です」
「先に渡しておく」銭貨の束を2つ渡した。
「軽くなったな」時継と藤原夏良は笑顔になった。
「では、良く肥しとくじゃ。帰りに」
「では、よろしく」
西へ急ぐ。




