17.正五位上①
【人物】
藤原夏良 主人公 14歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は藤原冬嗣。藤原北家
神王 生没年 737-806 二品・志貴皇子の孫。榎井王の子。右大臣となり、桓武天皇の近親として桓武朝後半の治世を支えた。従二位、贈正二位。吉野大臣と号した。
西暦801年 延暦20年
語呂合わせは晴れてなんとか蝦夷討伐だったかな。
そんな事を思い出しながら軍隊の中にいる。騎馬と歩兵が入り乱れており、分けた方が良いのではと提言したが、受け入れてもらえなかった。
山間部も多いため、分けなくても歩兵に合わせるしかないので影響はなさそうだが、平地に出ると非効率と思える。
今治城から胆沢城へ向かう。第一隊が城手前の森で苦戦しているとの知らせが帰ってきた。
予定では第一陣は無理せず、深追いはしない。と言う作戦だったのだが。
負傷して戻ってきた騎馬に騎乗の部隊長クラスの者に、鈴鹿疾風将軍が叱咤している。
「逃げる敵を森の奥までは深追いしないように指示したはずだ!何故深追いしたのだ!」
「山猿どもが逃げていったので武功を上げようと」
「お前の武功のために100人も死傷したと言うのか」何も言えない隊長に対して続けた。
「指令を守れなく、軍紀違反として降格し、部下と共に離脱して帰京するように」
「橘入居が三男にてご容赦願います」
「そのような事関係ない!」
悔しそうな顔をして離れて行ったが、鈴鹿将軍の圧力に負けて離れて行った。
鈴鹿疾風が藤原夏良に近づいた。
「お主ならどうする」
「ある程度の隊を道沿いに展開し、見張りつつ本隊が奥へ行き胆沢城を倒壊するのが良いかと」
「よし、城まで攻めようぞ」
鈴鹿疾風の隊の抑えのおかげで、本隊にいる坂上田村麻呂が勢い良く攻め上げていく。
途中の村々を焼き討ちし、全軍が活気づき城へ攻め入る。
城は火矢により、夜も明るく燃えている。
「阿弖流爲がいないな。まさか逃げ遅れていないだろうな」そう言う坂上田村麻呂だが心配も必要なかった。
夜明けになり阿弖流為の軍隊が森から出てきた。
「阿弖流為将軍から藤原夏良氏へ伝言があります」
呼ばれた藤原夏良が伝令に近づく。
「仲裁に来てほしいと伝言です」
「相分った。少し待ってほしい」
そう言うと、将軍の所へ報告に行く。
「仲裁に呼ばれました。全員投降するなら処罰はなく、全員陸奥国民として迎え入れることを約束して宜しいでしょうか」
「そうだな。その方向で話してほしい」
伝令に従い森の奥へ歩いて行く。
背の高い鍛え上げた軍人が伝令から引き継いで案内してくれた。
「副将の母禮です」
「あっ、初めまして。おばあさんにお会いしました。お元気ですか?」
「ええ、聞きました。利発的な少年が我々を探しに来たと。残念ながら奥地への疎開の時に体調を崩して、そのまま亡くなりました。」
「ええっ。すみません。戦闘回避のつもりが申し訳ない」悲しくなる藤原夏良
「もう年でしたから。自然の流れです。貴方のせいではない」
森の中を進んで行くと、阿弖流為が待っていた。
「お久しぶりです。将軍」
「来てもらって、悪い。貴殿の言うとおりに全てなったね。さて、全面降伏するのだが、全員の反逆追求を免除いただきたい」
「陸奥国への加入を条件とすれば、全員への追求は免除する旨将軍の応諾は得ています」
「感謝する。さて、行こうか」颯爽と立ち上がり、南へ向かう。
胆沢城跡にて降伏の意を伝えると、一同が勝ち鬨をあげた。
「報告のために平安京へ戻るとしよう」
平定までの作業を一時的に鈴鹿軍師にお願いし、一旦京へ向かうことになった。
東山道を戻る間、田んぼの整地をする光景を見ながら今年の苗の成長が気になってしょうがない。
多賀城を通る時にも西の方の整地の経過を確認したくて馬上から腰を上げて遠くを見るが、遠すぎる為見えないのがもどかしい。
京に入る手前で清水寺に立ち寄る。藤原夏良は初めて千手観音像を見た。
金ぴかすぎて細部は分らないが、作成に時間がかかったことは見て分る。
「無心でお祈りをすると心が落ち着くので、是非お参りしていってほしい」
坂上田村麻呂がお勧めした。
お参りをする藤原夏良を見ながら微笑ましく思い黙ってみている。
お参りを終え、いよいよ平安京へ帰ってきた。
帝報告の為、平安宮へ向かう。
宮の入り口で馬と武器を預けるが、坂上田村麻呂だけ持っていた刀は預けるが刀袋に入っていた刀のみ持ったままである。
中に入り女従が案内してくれた。
案内された場所は荘厳な部屋である。
案内された部屋には数人の男性が待っていた。
中央にいる男性の前で片膝をつく坂上田村麻呂征夷大将軍。本当に蝦夷を治めた征夷大将軍である。
「坂上田村麻呂将軍、蝦夷討伐ご苦労であった。本日帝が体調不良の為、右大臣 神王が代理させていただく。して、後ろに控えるのは、誰かの?」
「藤原冬嗣が長男、藤原夏良にて我が配下になります。」「おお、阿弖流爲を投降させた立役者と聞いている。鈴鹿疾風以外にも優秀な者がいて羨ましい」
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」藤原夏良は片膝つき顔を下げたまま応じた。
一呼吸おいて、坂上田村麻呂が刀を袋から取り出し差し出した。黄金の鞘に入った煌びやかな刀である。
「節刀をお返しに参りました」
「うむ。ご苦労であった。今回の活躍により従三位上に昇格する。藤原夏良は正五位上に昇格する」
まじか、4階級昇進である。
「では、ご苦労、ご苦労」そう言って下がって行った。
暫く藤原夏良は腰を上げられず、坂上田村麻呂が肩を叩いた。
「おめでとう」腰を上げながら
「ありがとうございます。すみません。私が先にお祝いの言葉をおかけすべきところ。おめでとうございます。」
笑顔で歩く二人。
さて、親父にはなんて言おう。
入り口を出ると彦兵衛が控えていた。
「お疲れ様です。そしておめでとうございます」
二人にお辞儀するのであった。
「ではな。暫くゆっくりせい」坂上田村麻呂は手を上げ去っていく。
「父はこの事を?」
「はい」その言葉だけで理解した。
家に向かうが、ため息しか出ない。
「着いてしまった」家を見上げ、大きく息を吸った。
「よし、報告しよう」門を開け、入っていく。
3万文字にするために一気に書きました
「ふぅ」
ちとブレイク