15.正六位下③
【人物】
藤原夏良 主人公 14歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は藤原冬嗣。藤原北家
阿弖流為 生没年:生不明-802 8世紀末から9世紀初頭に陸奥国胆沢(現在の岩手県奥州市)で活動した蝦夷の族長とされる。史実にはじめて名前がみえるのは、古代日本の律令国家(朝廷)による延暦八年の征夷のうち巣伏の戦いにおいて、紀古佐美率いる官軍(朝廷軍)の記録中である。その後延暦二十年の征夷が終結した翌年胆沢城造営中の坂上田村麻呂の下に盤具母禮とともに降伏し、田村麻呂へ並び従い平安京へ向かい、公卿会議で田村麻呂が陸奥へと返すよう申し出たことに対して公卿達が反対したため河内国杜山(椙山、植山とも)で母禮とともに処刑された。
さて、どうしたものか。
悩んでいると、藤原長岡氏が近づいてきた。
「久しぶりですね。夏良さんの昇給が急すぎて驚きが止まりません」
「僕もですよ。」「お父さんを抜きそうというか、このままでは抜いてしまうのが確実ですね」
「いえいえ、その前に、胆沢城から無事に帰ってこれるかが問題なので」
「夏良兄さんなら大丈夫ですよ」年が近かったので昔から良く遊んでもらい、兄弟のように育っている。一番信頼できる相手でもある。
「長岡がきてくれて、本当に助かるよ」
「いやいや、結構な重大任務を使命いただきありがとうございます」
お互い笑い合う。
「敵陣、敵将に会いにいけなんて、普通じゃないよね」
「そうなんだけどね、蝦夷の人々には信頼されていてね。二郎も面識あるし。会えそうな気もするんだよね」
二郎は酒造りが佳境で城には来ていない。
「あっ。酒造しているところ見たことないでしょう。酒蔵に行きましょう」
「サカグラ?」
「酒の蔵と書いてサカグラと読むんです」
「へー。知らない字があるとは思わなかった」
この時代にはまだ一般的な言葉ではない。杜氏すらまだいない時代だ。
折角なので説明しておくと、この時代には酵母がまだない。大陸から酵母が入ってくるのは酒造が進み、樽に酵母が付着し始める200年後位後の10世紀辺りである。それまでのお酒の主流は麹菌のみで出来上がるどぶろくのみが主流となっている。
平安時代に澄んだ酒が出ているとしたら、時代考証がなされていないと考えていいでしょう。
さて、酒造りの酒蔵に話を戻そう。
「甘い匂いがしますね」
「うん。酒が醗酵してデンプンやタンパク質を分解して糖やアミノ酸になるので甘い匂いになる」
「デンプン?トウヤアミノサン?」
「あ、簡単に言うと米にたまに付着する麹菌があって、その麹菌が米を甘くしてお酒を作るんだ。神社などでは過程を工夫して醗酵を良くしたりしている」
「なるほど、昔から物知りだったけど更にすごいね」
「いやいや、記録を読んでいただけですよ」
ここでしか1000樽を作るので、多賀城西では更に多くのお酒を作ることが出来るので、酒蔵をつく作ってみてください」
さて、まずは胆沢城に向かう。
とりあえず阿弖流為に会えるだろうか。
酒蔵から二郎が戻ってきた。
「順調ですか?」
「うん、いい感じね」
出かける準備のできている二郎。
「胆沢までどのくらいですか?」馬で行くと警戒されるので、徒歩が良いと思うのですがどうでしょうか」
「徒歩の方が良いと思いますが、早くて半日、ゆっくりで1日です」
「わかりました。途中で休める所があったらやすみましょう」
蝦夷の統治が終わると2駅できるが、未だない。
雪解けした道を歩き続け、夜半に村に到着した。
結構大きな集落である。
「遅くにすみません。」
灯りが灯っている大きめな家に入った。
「どなたへ?」年配のおばあさんと小さな子供2人が後ろから様子を見ている。
「旅のものです。今晩納屋で暖を取ってもよろしいですか?」
「構わんが、ここの方が良いじゃろうて、どうぞお休みください」
家の端に座らせてもらう。
「どこまで行くんじゃ?」
「胆沢城です」
「おぉ、母禮がいるとこじゃな。」
「お知り合いですか?」
「知り合いも何も、孫じゃし、この子らは母禮の甥っ子じゃ」
阿弖流爲の副将である母禮も族長と言う噂を聞いていたが、この村の長だったようだ。
翌日朝、煮物の匂いがして起きた。
「暖かくなるで、食べんちゃ」
「ありがとうございます。」
二郎も一緒に木碗に入った暖かい野菜煮込みをいただく。
「美味しいです。ありがとうございます」
笑顔で返すおばあさん。
お礼のお米を少し渡して、出ていく二人。
暖かな美味しい朝飯を食べたからか、胆沢城まではあっという間に到着した。
伊治城と違い、四方に門と壁が作られた2階建ての大きな城があった。
門番に止められる。
「何用か」
「阿弖流爲将軍に会いたい。藤原夏良と二郎と申す」
「少し待て」もう一人の門番が中に入っていき、しばらくして帰ってきた。
「許可が得られたが、入り口で武器を預けるように」
「わかりました」
二人は入っていき、衛兵に弓と刀を預けた。
入り口から入り、階段を上がると、数人の蝦夷人が待っていた。
「藤原夏良殿とは、お主ですかな。」
握手を求められる藤原夏良。
「私です。初めまして」