11.従六位上⑤
【人物】
藤原夏良 主人公 13歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は藤原冬嗣。藤原北家
金大明 生没年不明 「内使掖庭令」の趙宝英、孫興進 と唐の返礼使のとして、宝亀10年(779年)4月、京に入った。治水の専門家であったが酒好きが転じ酒造りに明け暮れた。空海の通訳として唐へ戻ったと言われている
年が明け、米麹が甘い匂いで漂う蔵。
延暦18年 西暦799年 場所は今治。
藤原夏良は樽の作成には廃材から作成するように依頼していた。
「フジワラサン、何故廃材がいいのかね」
「酒造りには色々な菌の助けがいるので、廃材の方が良いのですよ」
「金にキンという?」
「いえいえ、目に見えないくらいの小さな生物です。木や温度で酒変わりませんか?」
「オンドは大事ね。だから冬にやるよ。暑くなるので冷ませるのがいいね」
初だしのどぶろくが出来上がった。
「フジワラサン、いい酒ね」そう言うと金大明はお椀に掬い、手渡した。
「甘酒にアルコールが入っている感じ。美味しい」
彦兵衛と二郎達も来ている。
「美味しいですね。これはいいですな」
「ダロウ、ソウダロウ。」
雪解けし始めている外を見ながら皆んなで飲む。
「これを貴族に売るんですね」二平が言う
「金大明が飲み切ってしまいそうだが。」
皆で笑う。
「醗酵が進むので、出荷前にお湯にくぐらせたものを出します」
「どのくらい浸からせるのかね」
青銅製の入れ物にお酒を入れ、沸騰しているお湯につけて実演する。
青銅製の入れ物は熱伝導が高くないようで、5分ほどでちょうど50度-60度くらいになる。手の感覚なので完全ではないが、やってみている。
「この雪が溶ける間くらいです。」固くガチガチにした片手程の雪団子を机に置いた。10分ほどで溶けきったのを見て。皆んな理解した。
小さな樽を作ってもらっているので、入れていく。
たまに試飲をしている金大明は試飲なのか、本飲みなのかは側から見ても分からない。
出来上がった樽は馬車に積み込み、販売担当の彦兵衛が京へ運ぶ予定である。
「京で酒屋を副業として行うのもいいかもしれませんな」
「いいですね。税として納めてもいいですしね」
1月ほどして春の兆しが見えてきた頃、彦兵衛が報告しにきた。
「今治の若手から数名を京の酒屋で販売と運搬に従事させることになりました。順調に人気となり、現在予約販売を行なっています。」
「売り切れごめんにして、終われば田んぼに戻るように指示してほしい。働いたものには対価を隆平永寳で支払って」
「はい。かしこまりました」
今年の造酒には一部の軍用米を使用したので数量は少なかったが、来年は今治産のお米から作れるので需要に負けず販売ができると思われた。
「金大明さん、ため池に水を入れていいですかね。」
「おお、酒造りで忘れてたわけではないが、そろそろ水を入れましょう」池まで皆んなで歩いていく。
いよいよ水を入れるかと思い、人が集まってくる。
川と溜池への湧水路の間にある水車の止め具に手をかける藤原夏良。
「では皆んな、稲作作業に入りますよ」
留め具を外すと水車が回り、湧水路に水が勢い良く入っていく。
自然と「おー」という歓声が聞こえた。
ため池に水が入っていく。
「苗作りをしないとな」